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花嫁は王冠を抱いて ~ヴォワ=デートによるカラフルデイズ~  作者: 紙木 一覇


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第72話 ……まだ、間に合います

「プリンセス!」


 正気に戻った付き人がヴォワから王女を剥ぎ取った。勢い余って強く王女が尻餅をついて、付き人の女はすぐに頭を下げる。

 王女は暫く呆然とし口に滴る血を指で拭う。


「……」

「いけませんよプリンセス」


 指に付いた血を舐めようとする気配を感じ、付き人が先んじて釘を刺す。


「……あ」


 そこで王女は正気に戻ったのか、顔を青くし、()いで赤くなった。自らの異常を恥が塗り替えるかのように。


「――キミ」


 ヴォワに呼ばれ体を大きく震わせる王女。


「吸血行動は日常的なのかね?」

「あ――わたくしは……」

「強がらず答えて欲しいが」

「……」


 王女は首を縦に振った。

 ヴォワは自分の手を見る。先ほど王女に舐められた傷口を。血にも傷口にも異常はない。王女に近づき口に指を入れる。牙もなし。


「?」


 されるがままになっている王女は戸惑いを浮かべて少し恥ずかしくなってしまい。


「うん、吸血鬼ではないようだ」


 次いでヴォワは部屋を見回した。眼に入るのは血の注がれたグラスの山。


「む」


 急に目の前が真っ暗になった。付き人の女がヴォワの顔を掴んだからだ。そのまま女は体を回転させると、強引にヴォワを投げ飛ばす。


「ふむ」


 飛ばされたヴォワは体をひねるとゆっくりと着地。まるで何事もなかったかのような正しい佇まいだ。

 女の投げたナイフがヴォワの横を通ってベッドの柱の一つに刺さった。女が外したのではない、ヴォワが白い懐刀で弾いたのだ。


「キミ、シークレットサービスも務めているのかね?」


 女は一足飛びにヴォワの元まで詰め寄ると襟を掴みベッドに押し倒す。もう一本ナイフを取り出すとヴォワの顔めがけて振り下ろした。が、枕で視界を奪われ、ナイフはヴォワの首の横に突き刺さる。


「エアラリス」


 ヴォワは静かに名を呼ぶ。相棒であり、助手であり、護衛でもある女の名を。


「はい!」


 対照的に力強く言葉を発した女が窓を破って入ってきた。エアラリスと呼ばれた女は傘の尖った先端を付き人に向かって突く。付き人の女は上半身を後ろにそらしてそれをかわすと小瓶を懐から取り出した。

 小瓶からばらまかれた液体をエアラリスはかわす。すると代わりに液体を浴びた床が焦げ傷みだした。

 硫酸だ。

 エアラリスの心はそれに動じず傘を開いた。視界を覆ったそれにも硫酸をかけ溶かす。しかしその頃にはもう眼前まで迫っていたエアラリスの肘をまともに額にうけ、女がぐらついた。女は腰の騎士剣に手を伸ばす。だがエアラリスの手が柄を抑え抜剣出来ない。女の顎をエアラリスが蹴り上げる。ふらつく女。そこにトドメ、と言わんばかりにエアラリスが女の額に掌底を当てた。


「――……っあ」


 女は一声発すると床に崩れ落ちてしまい。


「脳がぐらつくように叩きました。しばらく平衡感覚は戻りません」

「……くそ」


 女らしくない悔しがり。そんな言葉を発すると、女は起き上がろうとする体を横たえた。


「よくやった」


 ヴォワにそう言われ、エアラリスは晴れやかに顔を輝かせる。


「はい!」


 ご褒美を! と頭を下げる。ヴォワは二・三度頭を撫でてやると視線を王女に向けた。


「騒々しくしてすまないね。出来れば敵としては出会いたくなかったのだが」

「……まだ、間に合います」

「それは外には報告しないと言うことでいいかな?」

「……はい。その代わり――」


 ヴォワに近寄る、王女。


「もう一度――」


 膝をつく。目線がヴォワのちょっと下になった。

 王女は口を開けると――


「血を――」


 ヴォワの首筋にかぶりついた。エアラリスが蹴ろうとするのをヴォワが制す。ヴォワの首筋から血が垂れる。

 二・三分だろうか? 王女は暫し愉悦のみに身を投じた。

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