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花嫁は王冠を抱いて ~ヴォワ=デートによるカラフルデイズ~  作者: 紙木 一覇


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第70話 また機会がございましたら!

 ◆


「サイン頂けます? それでこの場はたちさがります」


 ヴォワと少年、顔を見合わせる二人。

 この出会いは九年前。ヴォワがまだ自身の『能力』に手をやいていた頃。

 一部の加熱するマスコミに言いくるめられて『普通への治療』を試みると言った企画収録の当日だった。賛否あったこの企画はヴォワ――つまり民間人に仕事の協力を依頼したもののそれが露見してしまった警察の全面協力で行われようとしていた。

 そんな時にこの黄系・ゴールデンイエローの髪と同色の瞳を持つ少年はヴォワをスタジオから強引に連れ出したのだ。


「あれらの思惑に乗ってはダメ」と少年は言う。


 正直ヴォワは安堵に胸を撫でおろしていた。だから。


「いいよ。どこに?」


 と素直に応じることにした。


「あ、ここですここ」


 少年が出してきたのは、腕。


「わっ、どうしたのだこれ?」


 出された腕を見て、ヴォワは思わず眼をみはった。


「名前だらけじゃないか」


 腕は黒いマジックで書かれた名前でびっしりとうまっていたのだ。

 端々に見える肌の色はマジックとは反して真っ白い。もったいない。


「腕だけじゃないですよ? 見ます?」

「いやいやいや、体見ているとこ見られたら変態扱いだから」

「そうですか。では――」


 と言って少年は白いペンを取り出した。


「目立つように書いてくださいね」

「う、うん」


 若干の抵抗を感じながらも、ヴォワは右手の甲に名前を書いた。


「人に名前を預ける行為って、これもこれで重要なんですよ」

「え?」


 少年は続ける。


真名(しんめい)を与えると言うのはその方に支配されてもよいと認めたものだ、と考える方も存在します。重々お気を付けを」

「う、うん」

「では!」


 ペンに蓋をしながら少年は軽快に飛んで数歩後にする。


「また機会がございましたら! ではでは!」


 そうして、賑やかな少年は去っていった。


 その四年後。一人の『聖人』が世を賑わせる。

 男と女、双方の性を持つ一人の少年――少女?――の話である。


 名はセント=エルモ。


 セント=エルモ――

【聖人】

 性別 分類不能

 年齢 十八

 国籍 イタリア

 人種 白人

 髪の色 ゴールデンイエロー

 眼の色 ゴールデンイエロー

 空を流れる雲クジラからメッセージを受け取る能力を持つ。通称『神託』。


 ◆


 そんな聖人が、捕まってしまった。

 手紙によると予期していたようで「助けてね」とあった。

 ヴォワは【メディ】を用い世界中のテレビ放送局へアクセスする。数千ある放送局の中から欧州のニュースを二十四時間流してくれている局を選択し、拡大。


『――続いては明日の天気予報です』


 違う。

 ディスプレイを操作し、過去二十四時間分の録画放送を探る。目的の見出しを発見し、選択。


『まず、セント=エルモの身柄確保について――』


 これだ。


『英国政府の発表によるとネットに殺害予告が書かれていたとのことで――』

『しかし当該の書き込みはすでに削除されたようで――』

『イタリア政府と英国王室は政府に対し即時解放を求めており――』

『王室と政府の間になんらかの確執が――』


「ふむ。要するに王室が『元・聖人』を手に入れたから政府側は焦っていると言うわけだ」

「助けに行かれるのですか?」


【メディ】によって投影されていたディスプレイを消して、エアラリスのいれてくれた紅茶を一口啜る。うまい。レモンの香りが少し漂うそれはここのところのヴォワのお気に入りである。


「ん~、状況を把握する必要があるね。

 まずはプリンセス・エリザベス。あの子に会いに行こう」

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