第69話 ただの憧れなんだ
コピー脳によりプログラムを与えられた『霊験』の銃弾はネットワールドに沈み、ヴォワによりプログラムを与えられた『涙』の銃弾がそれを目印に『空間座標』をリンクさせる。
二つの世界が繋がり、空に六角形の光が――いくつものベンゼン環が走り、小さな星が――現れた。
電子の星。
コピー脳の創り上げた、月よりもはるかにはるかに小さな星。けれども蒼く、地球にとてもよく似ていて。
『ただの憧れなんだ』
「ネットワールドは暗いかね?」
『暗いね。僕たちは情報を感じることが出来るから不自由はなかったけど、ずっとこの空に憧れていた』
気持ちはわかる。だって自分なのだから。
この『神赦婚姻』は人が悪魔になる、または悪魔が堕落して人になるサマを表している――のではなくて、人の心には元より聖も魔もあり、そのどちらもが最果てにて真の愛に辿り着ける可能性を表しているとヴォワは視ている、感じている。
そんな『神赦婚姻』が世界と世界を繋ぎ、人とコピー脳を繋ぐ。そのための第一歩に相応しい場所だろう。
「キミたちの支援者はキミたちを護ってくれそうかい?」
『くれそうだよ。それがなくとも僕たちは自力で動く』
「『人権を得るために』」
ハモッた。流石に同一人物だけはある。
「私も出来得る限りの協力をしよう」
『――ありがとう』
その日現れた星は世界に話題と衝撃と感動と恐慌を限界までふりまいた。
ある人は興奮し、
ある人は怖れ、
ある人は涙する。
そんな中で機構はことの真実を公表。
そのトップであるミュート本部長とコピー脳のトップであるブートニア嬢が国砂の導きで――コピー脳の協力者であった日本支部の導きで握手を交わし、ともにコピー脳の人権獲得を目指すために協力する宣言を行ったことでまたひと騒動が加わった。
世界はこれから、激動の時を迎える。
「ハイ=ルミナさん、元気になってよかったですね」
「うん、と言うか……まさかただの眠り薬にすぎなかったとは」
「出し抜かれましたねぇ」
「はぁ、流石、私と言うところか」
念のために数日入院すると言うハイ=ルミナ。その見舞いを終えて病院を後にした二人は空を眺める。
そこには小さな星が一つ。
それだけで一気に異星めいた光景を視て、ヴォワは静かに微笑んだ。
「ふむ」
美術・芸術の特集が組まれたとある本がある。そこにメインで載っているのはハイ=ルミナの新作発表記事。
『降り奏でし楽士隊』――十七の楽器。
「これから十七人の楽士を選ぶ、か。アーティストは気が気じゃないだろうね。
で、エアラリス? 私宛の手紙を勝手に棄てないように」
「う」
ひっそりと手紙をゴミ箱に入れようとしていたところに声をかけられてエアラリスはびくんちょと体を揺らした。
「その様子を視るに、どこぞの聖人からかね?」
「……はい」
「持っておいで」
「……はーい」
渋々と蝋で封がされたままの手紙を差し出す。
「ヴォワさま、こちらの聖人と縁を切るご予定は?」
「多分にあるが向こうが勝手に現れる」
聖人。その人とのつながりはエアラリスよりも古い。




