第68話 見事!
光が、集まって来る。
極限にまで近づいている天使と悪魔の顔――その唇の間に光の糸が絡まり合い、真紅のリンゴとなって現れた。
「――見事!」
ヴォワが思わず叫んでしまうほどに神聖な光景。もし、仮にエデンと呼ばれる場所があるのならこれほどに美しいのだろうか。
「だがこれだけではないのだろう?」
これだけではどれだけ美しくともあくまで天使と悪魔が抱き合い真紅のリンゴにキスしているだけだ。ハイ=ルミナの用意した極限のアートではあるが『霊験』ではない。
しかしそんな疑問はすぐに打ち消され、代わりに期待が現実のものとなる。
『グロー・プール』――
光の根。その光が真紅のリンゴの中へと集まっていく。
収束。
収斂。
凝縮。
やがてそれは一つの塊となって――
「銃弾?」
『そうだよ』
「――!」
ヴォワが見惚れている間に移動したのだろう、コピー脳の手が、真紅のリンゴ内部に現れた黄金の銃弾に伸びていた。
『この「霊験」現象で、リアルワールドとネットワールドにある境界が非常にもろくなるんだ。そこに、もう一つ手を加える』
コピー脳は銃弾を指で軽く摘まみ、取りだし、それに幾つかのプログラムを流し、いつの間にか持っていた金で装飾された黒い銃に装填する。
「……キミたちの望みは?」
金の銃口が天高く掲げられる。
『僕たちの星をこの世界に顕現する』
「「――⁉」」
「やはりか」
これは、想像出来た。
『けれど――』
「わかっているよ。エアラリス!」
彼女を、助手にしてボディーガード、またはヴォワが唯一そばに置くパートナー、そんな彼女の名を呼び、その人に向かって銃弾を一つ投げた。
エアラリスはなにをすべきか即時に判断。左目の下に受け取った銃弾をもっていく。すると彼女の左目から涙が一滴だけ銃弾へと落ちて。
「ヴォワさま!」
今度はエアラリスが彼女の名を呼んだ。主にしてパートナー、目を交換し合った最愛の人の名を。その人に向かって銃弾を投げ返す。
雲母エアラリス――
【刀鍛冶師。ヴォワのパートナー】
性別 女
年齢 十七
国籍 日本
人種 黄色人種
髪の色 桔梗色
眼の色 墨色
『星の声』を聴く異常聴覚の持ち主。左目の義眼でヴォワに相応しい涙を流す。
ヴォワはそれを受けとり、小さな銃に装填した。職こそ違えど何度も謎をともにし、解明し、信頼関係で結ばれている女性から譲り受けた小さな白い銃に。
トーハ=ラル――
【刑事警察(巡査部長)】
性別 女
年齢 二十三
国籍 イギリス
人種 黒人
髪の色 ヴァニラ
眼の色 リーフグリーン
特筆すべき能力、なし。それゆえにヴォワは自分といられるこの人を評価している。
銃口を向ける。天高い空へと。
二人のヴォワは同時に引き金をゆっくりと引き、
ガ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!
響いた銃声は一つ。全く同じタイミングで射撃された銃弾は中空でぶつかり、溶け合い、一つとなって空を穿った。
「「「『『『――ッ』』』」」」




