第66話 ……あの人は優秀な人だった
「……」
むくれている。ダイの大人がむくれている。
灰色系・ムーングレイの髪と黄褐色系・サンドベージュの瞳を持つ白人だ。
それを見てヴォワはやれやれと肩をすくめた。
国際科学研究機構アメリカ本部。日本支部とは違い洋館の形をとる黄土色の建築物。その内部の一つ貴賓室に通されて前述通りにヴォワは肩をすくめていた。
「キミ、仮にも女三人に対して向ける顔ではないぞそれは」
「こんな顔にもなる。ついでに言うと自分の顔は元々強面で常に不機嫌に映ってしまうようだ」
眉を吊り上げ、口をへの字に曲げているその顔、確かに不機嫌に見えるがこれが地だ。
「奥さんにでも言われたのかね?」
「いや、娘にだ」
「AHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA」
「笑うな追い出すぞ」
追い出されたら面倒なので、素直に笑顔を引っ込めておいた。
「――で、本部長殿? 天使のピースを渡してもらえるかな?」
「でなければコピー脳に関する事柄を公表でもするか?」
即座に切り返す。用意していた言葉だ。
「おや、私がそんな鬼畜に見えるのかな?」
「たまにな」
「……ほう」
まあまあ。そんな意味合いでヴォワの背中をさするエアラリスとトーハ。ヴォワの気持ちは幾らか和らいで。
「しないよ、だからくれ」
「お願いから命令になったな。
……国砂さんから渡すように言われている。実に、実に、実に不快極まりないが貸してやろう」
不快さを隠しもしない表情と視線だ。
「不快なのは勝手にコピーされた私の方だが。まあその気持ちは『警察』に逃げられた愉快さで相殺してやろう」
「断っておくがヴォワ嬢のコピーをとったのは自分ではないぞ」
少し身を乗り出す本部長。あまり語りたくない過去を思い出してしまったから。
「しっているよ。すでに辞任した前本部長だろう」
「そうだ。
……あの人は優秀な人だった。ただただ研究好きで、探求心が強く、平和を愛す方だった。そしてそれを実現出来るだけの手腕もあった」
「だから責任感も人一倍強く、初体と『警察』の件を重く受け止めすぎて心労で辞任。その後――残念ながら」
「そう……実に残念だった」
場が暗くなった。室温が下がった気がするほどに。
そんな中に本部長の秘書である女性がやってきた。天使のピース、胴体・肺・頭部をもって。
「これで揃ったのだな?」
「うん」
胴体も頭部もやはり骨。ただ肺だけはそうではなく、天秤の形をしていた。その一方の皿には小さな星を模したガラスが乗せられている。
「もう一皿には心臓が乗るのだろうね」
「どう言う意味かしら?」
「それは、観たものが決めればいいんだよ」
芸術とは本来そう言うものだ。
「ヴォワ嬢」
「ん?」
「コピー脳を見つけたら我々はそれを削除するために動く」
冷たく、痺れるように空気が張り詰めた。
「だが残念だ。コピー脳たちは我々の手の及ばない場所に潜んでいる。ああ非常に残念だ」
椅子に背を預けながら。
「……そうだね、残念だ」




