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花嫁は王冠を抱いて ~ヴォワ=デートによるカラフルデイズ~  作者: 紙木 一覇


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第65話 アメリカに向かうよ

「――さま! ヴォワさま!」

「――はっ!」


 リンクを終えて、ヴォワは帰還した。驚くことに呼吸が激しく乱れている。全身も汗をかいていてかなり気持ちが悪い。武騎(ふっき)姫のところで感じた占いの疲労とよく似ていた。


「大丈夫ヴォワちゃん⁉」

「……あ……ああ、大丈夫」


 気づくとベッドの蓋は開いていて。


「……どれだけ時間が経った?」

「二十分弱だ。蓋を開けて十分だな」


 体感よりもずっと永い。


「そんなに……経っていたのか。私の感覚では数分にすぎなかったのだが……」

「やはり人で行うには改良せねばならないようだ」

「……いいデータになっただろう」


 皮肉気に。

 勝気に笑いながら。


「ああ。そちらはなにか掴んだかな?」

「……彼女はリンゴを欲しがっている」


 隠す必要はないので情報を共有しておいた。


「『神赦婚姻(しんしゃこんいん)』のか?」

「ああ……場所にも意味があると言っていたな」

「場所」


 国砂(こくさ)は思案する。その間にヴォワはふらつく体をエアラリスとトーハに支えられてなんとか二の足で立つ。


「ヴォワ、君は未確認の飛行物体をどう()ている?」

「は?」


 突然突拍子もない方向に話が飛んだ。思わずヴォワがらしからぬ声を上げてしまうレベルで。


「残念ながらこの眼で視た覚えはないが。なぜ未確認飛行物体の話にことが及んだ?」

「君らしくないな。可能性は網羅するといい。

霊験(れいげん)だ」

「『霊験』」


 一般的に言うと奇跡的な現象、超自然現象のことだ。

 だがヴォワと国砂が言おうとしているのは少し違う。


「なになに? 『霊験』って」

「うん。

 建物、道路、気流、陽光、植物、人間、動物なんかが特定の法則で並ぶとその中心に得体のしれない光明が差すことがある。

 飛行物体のように見えたり、精霊のように見えたり、幽霊のように見えたり、あるいは神のように見えたりね。

 それらを私たちは『霊験』と呼ぶ。

 さて、国砂くん、キミは『神赦婚姻』がそれを引き起こすと言うのだね? あの場所で」

「そうだ。だがそれには日付やその日の天候すらも整う必要がある。

 コピー脳が指摘した日にようやくそれらが全てそろうのだろう」

「そして現れるリンゴか……どんな奇跡となって光臨するのかは謎だが、それならば――行かざるを得ないな」


 楽しそうに口元は緩んで。


「なぜ? コピー脳が企む『霊験』を起こさせなければ奴らの目論見は瓦解するぞ」

「暴走しないと言えるかい?」

「君は一つ希望を奪われたくらいでは暴走しないだろう」


 そんな君のコピーなのだから、コピー脳のトップも暴走しない。そう言う意味を込めた発言になる。


「信頼してくれてありがとう。

 だがね、残念ながら私の影響は地球全民には及ばない」


 自分が暴走せずとも自分の言葉の通用しないどこの誰が暴走するかわからない。


「……確かに、そんなのはかの救世主ですら不可能か。

 ではやはり『神赦婚姻』を完成させる気か?」

「うん」

「……」

「キミの戸惑いと不安と好奇はよくわかる。

 私はね、視たいんだよ。コピー脳たちがなにを望みどれほどの奇跡を起こせるのか。

 だが私もキミと同じだ。戸惑い、不安を感じ、好奇な眼で視ている。

 ゆえに悩んでいる。

 しかしだ、キミ、私を信頼してくれるならばコピー脳も信じてくれないか?」


 まっすぐ、揺らぐことなく国砂の目を見て。


「決して人の世界を壊すようなことはしないと?」

「当然だ」

「ヴォワさまには破滅願望はありませんもんね」


 これでもヴォワは平和主義者だ。争い、好まず。


「でもさぁ、ヴォワちゃんの脳をコピーしたのって何年も前でしょ? それ以降の成長でヴォワちゃんと一線をかくす性格になっちゃったって可能性は?」

「正確に言うとコピーされたのは六つの頃だね。

 確かに私たちの経験が異なれば違う性格になるだろう。だが、その心配はないと二回の邂逅で確信した。

 恐らくだがコピー脳は逐次私を視て私の情報を得て育っていったのだろう」

「羨望か」

「だね。私がコピーだったならば同じようにオリジナルにこの上ない羨望を向けるだろう。彼女のようになりたい。だって自分は彼女自身なのだから。と」


 だから、コピー脳の性格はヴォワの性格と差異はないはずである。


「なるほどぉ……エアラリス、わかった?」

「ふ、勿論」

「目をそらすな目を」


 そんな二人のやりとりを見て、ヴォワの表情が和らいだ。

 なんとなくだが安堵したようだ。


「それでは、国砂くん」

「本部に天使のピースを渡すように言ってくれ、だろう」


 めんどくさいことになった、そんな疲れた表情。


「うん」


 流れは悪くない。これでコピー脳側に組している人物を探す必要はなくなった。


「いいだろう。君を信じよう」

「ありがとう。

 では、アメリカに向かうよ、二人とも」

「「はい!」」

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