第64話 見事集めて見せよう
文字通り国砂についてビルの奥へと進んでいくヴォワたち。どうやら重要なルームに繋がるルートは避けているようで少し遠回りにその部屋へと案内された。
「ここで『座標』の研究は行われている。決して撮るな、口外するな」
「わかっているよ。情報とはそう言うものだ」
中にいた研究者は十数名。思ったよりも少ない。少数精鋭と言ったところか。彼らにはもう話が通っているらしく疑問を口にする者はいなかった。それどころかむしろ協力的だ。
「みな、実験出来る機会を欲しがっていたからな」
「いいだろう、今はモルモットになってあげよう」
「そこに横になれ」
「うん」
指さされたのは水色の光沢をもつ金属製のベッド。勿論ただのベッドではなく機械、コンピュータだ。形はヴォワの履くヒールを巨大にしたものに似ていた。
「すでに出来ていると言うことはもう試す寸前だったのだね」
水色のベッドに横になりながら。
「ああ。あとは被験者を決めるだけだった。君なら文句はない」
ベッドのそばにあるコンソールを操作しながら。
ヴォワが横になったのを確認するとすりガラスの蓋が起動、ヴォワを包み込む。
「始めるぞ」
「うん」
カプセル内が緑色の光線で満ちた。『座標』を固定するために放たれた光だ。それはヴォワの体にゆっくりと浸透していき――ヴォワの意識は闇へと落ちた。
『……なにもないな』
一人暗闇に残されて、それでもヴォワは混乱せずに。
足元を見ると床がない。けれどなにかをしっかりと踏み込んでいる感触がある。
天井はないように思えた。
壁は――こちらもない。
『出ておいでよ。リンクがオープンになったのには気づいているのだろう?』
『……うん』
ぼんやりと、蜃気楼のように人影が浮かんだ。
パーカーを着ていて、口元には銀色の機械があった。
その姿はロボットではなく、ヴォワと同じで。
『久しぶりだね。こんにちは』
まずはヴォワによる挨拶から。
『こんにちは。それほど時間は経過していないよ』
『そうか。密度の濃い数日だったから久しく思うのかな』
まだ一週間も経っていない。けれど確かに濃い日々で、すごした時間は永く感じられた。
『天使のピースはもうすぐ集まるみたいだね』
『悪魔の方はどうなった?』
『すでに全て手に入れた』
『ほう』
優秀。流石にヴォワのコピー脳と言ったところか。
『キミは「神赦婚姻」でなにをする気だい?』
『リンゴが欲しいんだ』
『……リンゴ』
『神赦婚姻』の――今ヴォワたちが集めている天使と悪魔がキスをすると言う真紅のリンゴ。
『禁断の果実でもあるまいに』
『禁断だよ。僕たちにとってはいい意味での。キミたち人間にとっては悪い意味になるかな』
ふぅむ、ヴォワは心で深く息を吐いて考える。
良くもあり悪くもある事柄か。決して人のための世界ではないのだが、どうしたものか。
『……ハイ=ルミナはあくまで芸術家であり占星術師のはず』
『そうだよ。綿密に計算して作品を造り出した素晴らしい芸術家にして占星術師。けれどねヴォワ、あの場所に「神赦婚姻」を置いたのは僕なんだ』
自らの胸を指で二度、軽く突く。
『つまりあそこに置いてあるからこそ意味があると』
『うん。
論より証拠。まずは天使のピースを集めて来てごらん。偶然と呼ぶには余りある奇跡を魅せてあげる。全く新しい色だ。きっと妻たるキミは気に入ってくれると思うから』
『……人に危害を加えるものではないんだね?』
ヴォワは色と同じく謎と神秘を望むが人が傷つくことならば却下だ。
『ないよ。これは絶対だ』
『しかし人間はキミたちに危害を加える可能性がある』
危害どころか、削除だ。
『そう。とても残念。とても淋しいけれど』
『ふむ……いいだろう。ハイ=ルミナの命もかかっているのだし、天使のピース、見事集めて見せよう』
『よろしく』




