第62話 自分たちの芝の青にも目を向けるべきだ
「「――!」」
行動が早い。流石だ。
「……なるほど。手間が省けた」
「渡すとは言っていないぞ。俺の権限の内ではないからな」
「つまり本部が持っていると」
アメリカにある本部が。
「そうだ。本部の連中は強情だからな。余計なプライドが高すぎる」
「だからキミはここを職場に選んでいるわけだ」
国砂は本部に何度か招かれた経験がある。が、それを全て蹴って日本支部長に座しているのだ。
「日本はいい。あらゆる文化を取り入れているからこその自由がある。日本人はとかく隣の芝の色を気にするが自分たちの芝の青にも目を向けるべきだ」
「ま、よそを気に留めるのも自身を律し向上心を得るための手段の一つなのさ」
コーヒーカップを膝の上に置いて一つ息をつく。
「ヴォワ、君がよそを気に留めているとは思えないが」
「失礼だな。雀の涙ほどは気に留めているよ」
「そうか。ならば俺の気を察して帰ってくれ」
言葉は常に冷静に。邪気も敵意も込めずに言われた。
「要件が済んだらね。
機構は『神赦婚姻』を完成させるつもりなのかな?」
「そんなつもりがあるならとうに君から奪い去っている。逆だ。完成させないつもりでいる」
そのためには一つでもピースが集まらなければいい。
「『神赦婚姻』の完成がコピー脳の目的だから?」
「そうだ」
「となると機構はコピー脳の邪魔をしたいわけだ」
国砂は首を横に一度だけ振る。
「邪魔ではない。今度こその完全削除だ」
「無理だね」
言い切った。その根拠はコピー脳のトップが自分だからである。
「俺ならずとも機構の連中はチャレンジしないまま諦めるなど愚かと考えているさ。それゆえに機構は様々なものを完成させてきたんだ。
君はそうではないのか?」
「確かに、私は想像段階理論段階での否定を嫌う。人は常に不可能と呼ぶべき技術を想像し、それを現実に創造してきた。
だが今無理だと言ったのはそう言うことではない。『私』を止めるのは機構には無理だと言ったんだ」
ぴくり、国砂の眉が少しばかり上下した。
侮辱されたからではないし、そもそもヴォワにはそんな気すらない。それは国砂もわかっている。だから別のことに反応したのだ。
「なるほど、コピー脳のトップは君のそれか」
そう、この事実への反応だ。
「……今の言葉でわかるとは、なかなかどうして」
「まあ、普通に考えれば『天使のピースを集める自分は止められない』となるな」
「やはり機構はあなどれないな」
それゆえに、面白い。
が今は面白がっている場合ではない。人の命がかかっているのだから。
「一つ聞くが、君とコピー脳の意識はリンクしているか?」
「? なんだって?」
「俺たちの研究ではオリジナルとコピー脳で記憶・意識がリンクする事例が何度かあった。それはないか?」
「……リンク……いや、私はない」
はずだ。それが出来ているならとうに彼女たちの目的だってわかっている。
「オリジナルとコピー脳は同じ『座標』を抱えている。『座標』は本来ワープに使うために研究されていたものだが、空間の『座標』、時間の『座標』に続いて生物が抱える記憶にも意識にもあると確認された」
大発見だ。世の中の常識に大きな波となって広まるレベルだろう。
「同じ『座標』はリンクすると?」
「ああ」
「……ふむ」




