第58話 キミの本当の名前は?
聞き覚えのある声だ。男性の声で低い。これは昨夜のきつね面の声。
「はぁ、合流出来た」
だが今はきつね面はつけていなくて、装束も白い神主用のもの。若いかと思ったが四十代くらいに見えた。
「祭姫から君たちが来たら出迎えるようにって」
「そうか。わざわざありがとう」
夜とずいぶんキャラが違う。どちらが本当の彼なのか――どちらもか?
男について行くと本殿の裏口に通されて、中へと入れられた。
「祭姫、ヴォワさんたちが来ましたよ」
「ん?」
小さく低い木製テーブルの前に腰かけていた祭姫が振り返った。巻物を広げていて、なにをしているのだろう?
「ああ、お偉方・市民方からの占いのお願いがあってね、その結果を書いているの」
「市民からの依頼……きりがなさそうだが」
「そうなのよね。神宮の絵巻でお願いを受け付けるのだけれど、今三年前のお願いに応えていたところ」
「「「三年!」」」
忘れた頃に結果が来そうだ。
「だからね、悪いのだけれど心臓持ってきてくれるとありがたいの」
「いいよ」
「それともいっそ仕事ぶっちぎってみようかしら」
「いや、それはやめときたまえ」
祭姫も昨夜と微妙に性格が違う気がする。ひょっとして酔っていたから淑やかになっていたのだろうか?
「で、心臓はどこに?」
「龍神さまを模して作られた木組みの龍、あの子の体内」
「! あれに隠していたのか」
灯台下暗し。まさか祭りに駆り出されているものに入っていようとは。
「ウロコが外れるようになっているから、ちょうど真ん中あたりを探ってみて」
「うん」
「今は境内の中にしまってあるわ。巫女の木彫り像と並んでいるから」
「ん。
行こう、二人とも」
「えっと、ウロコウロコと。あ、ホントだ外れますね」
外から観光客がなんだなんだとこちらを見ている。龍神の像をいじくる三人を。
念のために神主二人が作業中、と書かれた看板の横に立っているが、観光客にとっては作業中の風景もレアらしくカメラのシャッター音が聴こえて来る。
ウロコは金属類は使わずに木だけで止められていて、複雑な仕組みになっていた。が、そんなのはヴォワの前では無力。一枚ヴォワが外したのを見てエアラリスとトーハがそれを真似る。
十数枚のウロコをはがしたところで。
「む、これか」
白く輝く心臓を発見した。
「てっきり本物の心臓を模しているのかと思ったが」
ハート型だった。
「ほらほらトーハさん、ハートですよ」
「多分あたしの名前とかけてるんだろうけれど、つまんないわよ」
「よいしょと」
心臓を取り出して、改める。思ったよりも重量があって、しかし落としたらあっさりと割れてしまいそうなほどに儚げにも見えた。
「では、私たちはもう行くよ祭姫」
「ん~せっかく逢えたのに……なんて場合じゃないのよね。
ルミナをよろしく」
「うん」
入ってきた裏口にて。
「占って欲しいことがあったら電話してくれていいから。これ、うらの番号ね」
言って紙切れを渡してくる。紙には間違いなく携帯電話の番号が記されていた。
「私のも渡しておこう。解いてほしい謎があったら遠慮なくかけておいで」
「ありがとう」
ヴォワの方も持っていたメモ帳に番号を書いて渡す。
「はいはーいわたしのはこれで~す」
「あたしのはこれね」
エアラリスとトーハも同じく。
「ふふふ。一気にお友達が増えて嬉しいわ」
「そうだ、旅立つ前に一つ聞いていいかな?」
「うん?」
「キミの本当の名前は?」
今ここに至るまで彼女の本名が報じられたことは一度もなく、またこうして逢ってもずっと祭姫としか呼んでいなかった。
「うらはね、武騎。
月紙 武騎よ」




