第56話 ルミナの現状はしっているわ
「こちらです」
「ふむ、隠し通路か」
恐らくはかつての城主が作った非常用の脱出路だろう。それに三人は案内された。池掘りの下を通って、狭い――大人が立ってぎりぎり――、そして暗い木の通路を歩き、一際長い階段の前に出た。
「天守閣に出ます。我はここまでなので御三方でお昇りください」
「わかった」
そこには途切れていた祭姫の赤い色がある。恐らく祭姫専用の通路が他にもあったのだろう。そしてその色は今、階段の先にあると言う天守閣の入り口から強く輝いて見える。祭姫は、そこにいる。
(それにしても)
輝く色を放つ人間は久しぶりだ。人間を上下に分ける気はヴォワにはないが、それでも一部の人間しか放てないこの輝きは高貴の色と言って差し支えない。
「行くよ、二人とも」
「「はい」」
一つ、段を踏み。また一つ、段を踏み。
決して焦らず昇っていく。
ゆっくりと昇るヴォワたちとは対照的にゆっくりと降って来るものがあった。匂いだ。強いアルコールの匂い。ヴォワは慣れぬそれを打ち消すためにパイプを口にくわえた。
真ん中あたりの段に足を着いたところで鈴の音が鳴った。段と連動して鳴る仕掛けになっていたのだ。侵入者を報せるものと思われる。脱出時に鳴っては意味がないから恐らく下から来た時にだけ鳴るのだろう。
三人は鳴り続ける段を上がり続け、最上段へ。ひときわ大きく鈴が鳴る。
「入っていいわよ」
その音を聴いて、中から声がかかった。
だからヴォワは障子を――開けた。
「いらっしゃい」
「……こんばんは」
一人、女性が月を見上げなら晩酌していた。
その姿、全く穢れをしらないと言うほどに美しく。
足元まで伸びた黒系・濡羽色の髪、酒に酔って蒸気した頬、白い細い首筋、全てを見通すかのような濡羽色の瞳。
いつでも床に就けるようにだろう、薄い白い着物だけの体はまだ若い二十代のそれ。そして放たれる赤い輝き。先程祭りで見かけた女性――つまり祭姫に違いなかった。
「どうぞ中へ」
「――⁉」
入室をうながす声は祭姫のそれではなく。
虚を突かれたヴォワが視線を巡らせると、なんと部屋の四角に一人ずつ巫女がいるではないか。
色が視えなかった。と言うか気配すら感じなかった。
「ああ、この子たちはうらの護衛よ。
気にしないでこっちにいらっしゃい」
軽く手招き。
ヴォワは一瞬乱れた心拍を正常に戻すために深呼吸を一度して、祭姫のそばに腰を下ろした。
「まだお酒は飲めないのよね?」
「残念ながらね」
「では、ジュースでいいかしら?」
「うん。アップルがいい」
ヴォワのお気に入り。ヴォワはリンゴが大好きだ。
「お二人は?」
「あ、ヴォワさまと同じもので」
「あたしも」
「わかったわ。持ってきてあげて」
巫女一人にそう言うと、巫女は部屋の中にあった冷蔵庫からアップルジュースを取り出し、グラスに注ぎ静かにヴォワたちの前に置いた。
「今日は半月だから月の光は弱いけれど、風情を楽しむのには充分よ」
言われ、ヴォワはジュースを飲みながら窓の外に眼を向ける。ちょうど月が真正面にあって、その光を存分に浴びることが出来た。
「異国と言うより異世界に来た感じだ。行った経験ないが」
「そうね。うらはこちらの方が見慣れているから街の方が異世界に感じてしまうけれど」
自由に散策することはそう多くないから。
「いつから祭姫を?」
「幼児の頃からよ。占いの才を見出されて、祭姫としてずっとやってきたわ。大きな不満はないのだけれど、たまに普通の女の子だったら、って思うわね」
「気持ちはわかるよ」
ヴォワは生来色が視えた。それゆえに『普通』の女児として生きられなかったのだ。あるものには病気と言われ、あるものには能力と言われ、あるものには利用されそうにもなった。
けれど。
「まあ、祭姫をやって出来た縁もあるからそれは幸福ね」
そう。それもヴォワは共感出来る。
こくり。祭姫の喉が鳴った。お猪口を置いて改めてヴォワと向かい合う。
「ルミナの現状はしっているわ」
本題だ。
「どうやってしったのだね?」
「勿論、占いで。
こちらへいらっしゃい」




