第52話 必ず暴いてやろう
夜の帳が降りた。
京都の祭姫――本名と顔は秘匿されているが若い女性であることは確かだ。ヴォワも以前彼女が主催する祭りに参加した覚えがある。その時に視た色で性別は確認済み。
日本における祭事の頂点にいる巫女姫。
ただの姫ではなく予言を得意とするらしいが、真相は定かではない。
まあ行って話せばわかるだろう。
そう思いながらヴォワはみんなが寝静まった中【メディ】を起動させた。国際科学研究機構のコンピュータにアクセスするために。
ネットに接続されていない、つまりオフライン状態にあるそれの防壁は頑丈だった。それも侵入の痕跡を残さないようにしなければならないのだから一苦労である。
第一正防壁、クリア。
第二副防壁、クリア。
第三予備防壁、クリア。
枢機にアクセス。
表示。
「……よし」
小さく声に出して、ヴォワは自分を囲むウィンドウの山を視る。
すでに世に出た技術、製品の情報が六割。
ただいま研究中の技術が三割。
残りは、ボツにされたもの、一割。
最後の中にコピー脳があった。
「ふ……む」
が、初体が逃げ出したと言う情報も、それを追う八体の情報もなくて、ただどうすれば脳の電子コピーを造れるか、それについて記されているだけであった。
「すでに削除済み――まあ考えてみたら当然か。
いや待て」
機構のコンピュータはオフライン。であるならば初体はどうやってネットワールドに逃げ出した? 当時はオンラインだったのか? それとも逃げたと言う話自体がただのデマだったのか? それともまさか――
「いや」
とヴォワは頭を振った。
ありえない。それはありえないはずだと。【メディ】と同レベルの品を所有しているなどないはずだと。
「……違う。考えねばならないのだ、全ての可能性を」
初体はどうにかしてネットワールドに逃げ出したのだと仮定しよう。
それなら、色を追え。
ヴォワは様々なウィンドウを手元に引き寄せては遠くへ放る。色と言う痕跡を探して機構のコンピュータを調べ上げる。
逃げ出したとしても、その痕跡をデジタルに残していないとしても、色は必ず残る。
「――見つけた」
やはり初体はネットワールドに逃げている。
「追ってやろう、どこまでも」
追跡スタート。
機構本部のあるアメリカからスタートして、カナダ、日本、ロシア、インド、スイス、フランス、オランダ、イギリス、オーストラリア、果ては南極にまで逃亡している。
「おや?」
その南極で八つの色が合流している。どうやら機構の放った八体とここでバトルしたらしい。
しかし。
「初体によって初期化、再起動させられている」
つまり八体の記憶を全て消して、赤子の状態で目覚めさせたと言うこと。
「八体も育てるとは――」
相当苦労しそうだ。
初体は八体を伴って再び移動を開始している。イギリスに戻って、そこで潜伏する道を選んだようだ。
「深い……まだ潜り続けている」
イギリスの抱える巨大なネットワールドの奥へ奥へと。
「ん?」
最下層にまで辿り着いて、初体はなにかを造り始めていた。
「これは……家か?」
八体を育てるための場所を確保しようとし、事実それは造られた。
「なんだ……これは――」
こくんとヴォワの喉が鳴った。
八体は成長し、なんと、子供を産んだ。
子供たちは更に孫を産み、ひ孫を産み、どんどん数を増していく。
家屋もそれに連なって増え続け、一軒家だったそれが村となり、街となり、国となっていく。
「ログだけではダメだ。確認せねば」
現状のコピー脳の国を。その勢力図を。
ヴォワは急いでイギリスネットワールドの奥へと潜り込み――見つけた。
「星か……」
コピー脳が創り上げていたのは、星。極めて小さいながらも一つの星を創りあげていた。せいぜい半径二キロメートルというところで内部構造も大気成分も違うが、間違いなく星で。
しかし人間と違うのは多国ではなく一国しかないと言うところ。生物がコピー脳しかいないと言うところ。
つまり敵がいないのだ。それゆえの爆発的な増殖か。
「初体はどこへ行った?」
全てのコピー脳の親。その初体はと言うと。
「あのパーカーの彼女か」
どうやって機械の体を造りあげたのかはわからないが、初体はリアルに姿を現した。子とした八体を伴って。
ならば。
「目的はなんだ? リアルを侵食でもする気か? 人間と友達にでもなりたいのか? なぜ私に興味を持っている?」
いや、疑問はまだあとだ。今はハイ=ルミナを助けなければならない。
「それが終わったら見ていなよ、必ず暴いてやろう」
なぜならば、ヴォワは色の意味を識りたいと思っているから。
全ての色の妻として。




