第51話 そのルミナがやばい状態だって聞いた
ヴォワが指さす先、つまりエアラリスとトーハの背後。いつの間にかそこには一組の家族がいた。
夫婦で染め揃えているのか紫系・葡萄色の髪を持つ父と母、それに二人に抱きかかえられている赤子二人。
父が黒系・黒紅、母が茶系・赤墨の瞳で優しく見つめる赤子の背には白く輝く天使の翼が片翼ずつあって。
「初めましてと言おうか。それとも玩具にしてくれてありがとうと言うべきか」
「「……っふ、いやーごめんごめん!」」
同時に謝って笑い出す親二人。悪意など微塵も感じさせない屈託のない笑みだ。
「流石に悪いと思ったんだが――」
「この子ら難しい子でさ、ウチらの芸じゃもうあんま笑ってくんないのよね」
「そんな時に芸人がやっているバラエティ観せたら笑うんだもんな」
「だからウチらも真似してみたわけ」
「「これが大成功!」」
ははははははははははははははははは。
またも笑う。目に涙がたまるほどに。
「ヴォワさまこの二人ちょー蹴りたい」
「あたしもやっていいなら」
「……」
しかしヴォワは二人にのらない。なぜならば。
「? ヴォワさま?」
「赤子を見てごらん」
「え?」
言われた通りに見ると――笑んでいた。声にこそ出ていないが確かに笑んでいた。
「「……ぬぅ」」
それを見て二人は毒っ気を抜かれる。だから怒りの矛を素直に降ろした。
「ま、こんなとこじゃなんだ。おれたちの家に来なよ」
「そうだね、歓迎してあげる。ウチの手料理でよかったらだけどさ」
「ふむ。おじゃましよう」
四人の苗字は大法と言った。
名は父親が矢号。
母親がハヤ。
赤子の兄が号羅。
妹がハリ。
赤子は双子、産まれてから十一か月だと言う。
大法の家に着いてささやかながらも温かみのある家庭料理をいただいて、赤子が寝静まった頃になって五人は必要最低限の声量で語り始めた。
「まず、ウチらとルミナの縁について話そうか。
イギリスだったんだ、新婚旅行」
「ほぅ」
「んで観光してたらハヤのやつ産気づいちゃってさ」
「なんと」
「そこがルミナんちの前だったんだ。
ウチはもう産~ま~れ~る~って状況で、一歩も動けなかったから旦那とルミナで家にあげてもらって、そこですぽぽーんと産んだわけ」
げらげらと笑う。当時は笑っていられる状況ではなかっただろうが今となってはいい思い出なのだ。
「ん? と言うことは」
「そ。ルミナが出産の手伝いしてくれたのさ」
「おれの手は一人目――号羅がのっかってたからさ、ハリを最初に抱っこしてくれたのルミナになってやんの。滅茶苦茶慌ててたな」
「そりゃそうだろう」
ハイ=ルミナは独身。しかもあの子の性格を考えたら子供のあやし方などしらないだろう。しっていても多いに戸惑ったに違いない。
「産湯にはおれがつけたんだが、その間女房の面倒も見てくれてな、感謝してもしきれないってやつだ」
「そのままウチの体力が戻るまでの一週間いさせてくれて、帰る頃になってあの――」
双子が背に担いでいた天使の翼を指さす。
「翼を譲り受けたんだ」
「んな大切なもん貰えねぇ、って最初は言ったんだがな、いい経験させてくれた礼だって言うんだよ」
「礼を言いたいのはウチらなんだけどねぇ」
「――で、だ」
顔から笑いが消えた。真剣な面持ちになって話を続ける。
「そのルミナがやばい状態だって聞いた」
「天使側のピースがいるんだってね?」
「……誰から聞いたんだね?」
大法夫妻は視線を交わす。お互い頷き合って、言葉を紡ぐ。
「ウチの元主。京都の祭姫だよ」
「天使の心臓を持っている、な」




