第48話 クビになったらウチで雇ってあげるよ
「あ、お電話終わったみたいですね」
「え? 聴こえるの?」
「わたし聴覚いいので」
星の声が聴こえるほどに。因みにエアラリスはまだ星の声を解読出来ていない。まだまだ時間がかかるだろう。
「そう言えばそう言う耳だったわね……盗み聞きは犯罪じゃないけどマナー違反よ」
「う……ヴォ、ヴォワさまはわたしの異常聴覚をしっていてこの距離で話されているのですからいいのです。はい」
「今絶対背筋に冷たーい汗かいているでしょ」
目を細めて、いじわるを言う。
「気のせいですよ」
「さて」
エアラリスの言う通りに電話を終わらせて、二人の元へと戻って来るヴォワ。
「そろそろ空港に行こうか」
「あれ? パーカーちゃんについてはいいのですか?」
「同時進行だ。移動の最中をムダにせず使う」
言いながら左腕を差し出す。それを見たエアラリスとトーハはすかさずその手をキャッチした。
「違う誰が掴めといった。ブレスレットを見よ」
「「ですよねー」」
ブレスレット――普段はドレスの袖に隠れているもので、ヴォワの左手薬指にある金色の指輪と鎖で繋がった同色の細い輪っかのこと。ピンク色の大きな水晶柱がついているそれは、綺麗かつ派手過ぎない逸品である。
それはヴォワが独自に作り出したウェアラブルデバイスで空中投影型の小型パソコン【メディ】と言う。
「これなら普段ネットに繋がっていないところにも壁が出来ているところにも無線アクセス出来るからね」
「ん~警察としては見過ごせないアイテムなんだけどなぁ」
指で顎をかきつつ。
「友人としては?」
「大いに見過ごしましょう」
「大いに助かる」
「ま、人一人の命がかかってるわけだし、バレてもごり押しするから使っちゃって」
警察としては失格かもしれないが、意外と人情を大切にする、それがトーハだ。
「クビになったらウチで雇ってあげるよ」
「マジで⁉」
思わぬ収穫、喜ぶトーハ。
「ええ~?」
思わぬピンチ、不満をもらすエアラリス。
「さ、行くよ」
飛行機に乗り込んで、早速ヴォワは【メディ】を起動させた。人に見られたくなかったのでおトイレで。長居は出来ないからさっと調べよう。
投影されたウィンドウを何度か触ってまずは通常のネットワールドへアクセス。
「脳のコピーについてはわかっているから、それの実施歴についてだ」
脳のコピー――簡単簡潔に言うと脳の全てを電子空間にコピーしようとする試み。この考えが最初に出たのはもう三十年近く前になる。その時の目的は『AI研究が頭打ちになったんで別方向から電子生命を造ってみようぜ』と言う探求心からの挑戦。
言葉にしてしまうと単純に思えるが脳の全てをコピーするなどどだい人間には無理だった。少なくとも当時の技術では。だからこの挑戦は失敗に終わり、AI研究の方に主軸が戻った。
暫くこの脳コピー研究は陰に潜んでいたのだがそれを掬い取ったのが【国際科学研究機構】と呼ばれる最先端技術の研究チームだ。ヴォワも誘われた過去があるが自分の人生の大黒柱にはふさわしくないと断った経緯がある。
そしてその機構は脳のコピーに成功した。非検体になったのは発足当初の長。称賛の声を嵐のように浴び、同時に批判の声を嵐のように浴びたこの成功、しかしその喜びは一つの噂によって陰ってしまう。その噂とは――
コピー脳がネットワールドに逃げ出した
と言うものである。
機構は当然この噂を否定した。だが噂の前後、多くの未解決事件が何者かによって解決され、同時に多くの未解決事件を生み出すと言う謎が蔓延し、世間はコピー脳がネット情報を得て急成長したのではと囁き始めた。
機構はこの時点でもコピー脳逃亡説を否定し、一方でこの謎を解明するために『警察』として動くコピー脳を八体新たに造り、ネットに流した。
結果、未解決事件の八割は解消し、騒動は自然と収束していく。
「初体のコピー脳、八体の『警察』……」
数が合う。だがそれだけだ。
ヴォワとの接点はほぼないと言っていいだろう。
「よし、次だ」
今度は機構のコンピュータに侵入することにした。ネットには接続されていない端末だが問題ない。【メディ】なら大丈夫。
ところがそこでドアをノックされた。調査は一時中断し、ヴォワは怪しまれないように水を流してからトイレを出て行った。




