第46話 はぁいマイ・ハニー
「よいしょと!」
「動くかね? 右脚」
「はい! この義足はルミナお姉さまにいただいた右脚が壊れた時のためにきちんと設計された機械の脚ですので、ぶっちゃけ天使の右脚よりもスムーズに動きます!」
「ホントにぶっちゃけたな」
ドロー、つまり引き分けと終わった勝負だったけれどソルトは潔く右脚を貸してくれた。今、それは彼の体から離れてヴォワの横にある。光を内部で反射して白く輝くそれはやはり骨で。
「あの、ヴォワお姉さま」
「うん?」
「オレが手助け出来るようならいつでも呼んでください。学校ぶっちぎってでもすぐに駆けつけます」
その声はこれまでの元気任せの声ではなく。
「……うん、是非そうしよう」
だからヴォワも迷わず彼の願いを聞き入れた。
「――では! ルミナお姉さまの回復とみなさまの勝利を祈っております!」
「ヴォワさまお次はどこですか?」
「次に行く前に少し確かめたい」
落ちてきた葉を一つ上手に指で挟みとって。
「?」
「例のパーカーの彼女について親にね」
葉を手放しながら。
「ヴォワさまのご両親! わわわわわたしの格好おかしくないでしょうか⁉」
「電話だから格好は関係ないし緊張もしなくていいよ」
そもそも話すのはヴォワだ。
「ならあたしが!」
「キミもキミで私の親となにを話す気かね」
「「ナニを!」」
「キミたち仲いいだろうそうだろう」
肩をすくめながらヴォワは公園のベンチに座る二人から少し距離を取る。別に嫌気がさしたのではない。ただ電話をかける時のマナーとして。
携帯電話を取り出して、実家の番号を入力する。
ヴォワは両親と離れて暮らしている。それは単に親子関係が悪いから、ではなくて若くして大学を卒業したヴォワを信頼し、一人暮らしをさせているのだ。とは言ってもそこは親。同じ小さなマンションに姉を住まわせたり週に一度連絡をとったりと心配する気持ちもあって。
ヴォワはそれが絶妙に心地よかった。
呼び出しのコールが一度・二度となって三度目、母親が通話に応じた。
『はぁいマイ・ハニー』
「貴女のハニーはパパだろう」
『やだなぁパパもヴォワもお姉ちゃんも同じくらい大好きだもの』
「それはどうも。私も愛しているよ」
『ありがとう』
チュッと言う音がした。受話器にキスでもしたのだろう。
「ところで今日は世間話のために連絡をとったんじゃないんだ」
『パーカーの子についてね?』
「……流石、ちゃんと情報は得ているのだね」
『ヴォワのママだもの』
ヴォワの両親には特殊な眼はない。けれど彼らの情報網は世界のあちらこちらに伸びていて、自分たちが生きるに障害となるものを排除するために活用している。ムダに広めずピンポイントで攻撃し、防御する。それが両親であり、良心である。
「私が先ではないだろう? それを言うならママの娘だから、だよ。女王付きの情報屋さん」
『あーダメー! どこで誰が聞いているかわからないからー!』
通話の向こうで、慌てた声。
「私がしる限りもう知れ渡っていると思うが」
『それでも自分たちから言っちゃうのはダーメ』
「そんなもん?」
『そんなもん』
噂と確定情報では言葉の持つ重みが違うのは事実。ヴォワは自分から己の職をよく口にするが両親はそうではない。それはヴォワが職バレしても誰かに迷惑が降りかかる危険が少ないからで、一方で両親の場合は女王とその周辺にいる人物たちへ迷惑がかかってしまう。最悪、席を失わせることにもなりかねない。だから自分で認めてしまうなどあってはならないのだ。
「ごめん。
それで、パーカーの彼女についてしっている内容を教えてほしいのだけれど。
まず、私にはアライア姉さまの他に兄妹はいないね?」
『いないわよ。二人姉妹ね。こっそり産んでたりしないから安心して』
弾むように、会話を楽しむ声色。
「パパが浮気した可能性は?」
『そんな情報が入ってきていたら半殺しね。生かさず殺さずこうじっくりと』
「怖っ」
この母ならば本当にやりかねない、そう思ってヴォワは少し想像してしまった。
冷や汗が背に流れる。
『うふふ、浮気には厳しくしないとね』
「ほどほどにね。では隠し子の可能性もなし、と。
念のために聞くのだけれどバンクに提供してもいないね?」
『ないわよ。ママたちにはアライアとヴォワがいるから外で受精してもらう必要はないもの。
よそに提供する気も今のところないわね。将来はわからないけれど』
とは言うもののその可能性は低いだろう。もう優秀な遺伝子は残せたから。ボランティア精神はあるけれど言葉通り今は提供までする意思はない。
「そう。それでは……姉さまがなにかしている可能性は?」




