第45話 この勝負は――
語っていた勢いそのままに思わずヴォワの問いに応えてしまったソルト。笑顔だった表情が驚きの色に染まっていく。
「ど、どうして? 人工皮膚で覆っているしパンツで隠れてもいるのに」
「なに、私の眼からは逃れられないと言うだけだよ。
私には色が視えるんだ」
「色?」
「そう。心も、風も、熱も、あらゆる情報が色となって視える」
「……」
ソルトの体が震えている。それは秘密を見破られたからかそれとも。
「信じろとは言わない。まあただの面白話と思ってもらって――」
「素敵ですー!」
「「「は?」」」
「そのようなお力があるなんて! なんと素敵なお姉さまでしょう! これはもうただでさえ信じていた運命を更に信じずにはいられない! そうです出逢うべくして出逢ったのです!」
くるくるくるとヘソを見せて回り始めるソルトに、
「そ、そうか。それは……よかったね」
ヴォワ、ちょっとひく。
「はいよかったです! あ、でもですよ?」
ピタッと体を止める。
「だからと言ってルミナお姉さまの現状を信じ右脚を貸すなんて容易にはいきません!
ルミナお姉さまはオレを信じて右脚をくださいました! 自分の身が危うくなった時を除き誰にも渡さないようにとのことでした! ですので!」
「ひと勝負しようと」
「はい!」
「先ほど言った通りだ。私は構わない」
「では暫しお待ちを!」
駆け足で家へと向かうソルト。するとやはり駆け足で戻って来た。
ただしその両腕で紐でまかれた二つの木材を引っ張りながら。おや? 腰には西洋剣もぶら下げているぞ。
「この木を削って造ります! ルミナお姉さまのお姿をです! オレからで宜しいでしょうか⁉」
「うん、構わない」
「(ヴォワさまヴォワさま)」
「うん?」
いざ勝負に向かおうか、と言うところでエアラリスが耳元に口を寄せて小声で話しかけてきた。
「(ヴォワさま彫刻出来たのですか?)」
「(経験はないね)」
「(って、大丈夫なのですか?)」
「(大丈夫だよ。いいかい?)」
ごにょごにょごにょ。ごにょごにょごにょ。
「(そ、そんな? 可能なので?)」
「(私の造った義眼だ。信じたまえ)」
「(は、はい)」
小声で話していたのに大きく頷くエアラリス。そんな様子をソルトは見て、会話が一区切りしたのだろうと判断した。
「えっとー始めてもいいでしょうか⁉」
「ああ、すまない。いいよ」
「では!」
木材を一つ立たせる。大きさは縦に二メートル、半径は五十センチメートルと言ったところか。成人女性を掘るには充分な大きさだ。
素早く、しかし音もたてずに西洋剣を抜き放つ、ソルト。刃を木材に軽くあてて、息を吐いて、深く吸って、止める。
「いきます!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ァ!
「「「――⁉」」」
西洋剣の刃が、いやそれを握る腕が消えた。ハイ=ルミナに勝るとも劣らないほどの速力。凄まじい速さで剣を振るい、ゆっくりと木材を回りながら削っていく。
ただ、ハイ=ルミナはほとんど腕を振らずに行っていたからさほど風が舞うことがなかったのだが、こちらソルトの腕の動きは大きい。だから豪風となってヴォワたちのドレスを浮かせてしまった。ハイ=ルミナに比べてまだまだ未熟なようだ。
けれどそれでも。
「――ふぅ」
出来上がった像は、
「……見事」
そうヴォワに言わせてしまうほどに素晴らしく。
「だが、なぜ水着?」
「去年一緒に海に行きました! あまりにも眩しかったので非常に目に焼き付いております!」
「……そうか」
どこかエアラリスと通じるものがあるかもしれない。そうヴォワは思ってしまった。
「では、次は私の番だね。
エアラリス」
「はいです」
ウェディングドレスを華麗に浮かせ、太ももから小さな銃を手に取るヴォワ。同時に銃弾も一つ取り出してエアラリスの左目の下にもっていく。すると左目から涙が一滴だけ銃弾へと落ちて。
「?」
なにをしているのだろう? ソルトはそんな表情で首を傾げる。
涙の染み込んだ銃弾を小さな銃にセット。標的である木材に向けて銃口を合わせ――撃った。
鳴り響く銃声とほぼ同時に聴こえた着弾の音。
銃弾は貫通せずに木材の中で止まり、回転を続け力を放ち続ける。
ピシ……パシィ…… 小さな音が聴こえる。木材からだ。
やがてそれは目に見えるヒビとなって現れて――パン! 一気に弾けて木材を削り取った。
エアラリスの左目は義眼だ。コンピュータで管理されている義眼。以前は『薬』を造り出したが此度はヴォワの視た色と脳波による分析・解析を受け付けて決められた範囲、方向に弾圧を飛ばすように設定された涙の雫を落とし、銃弾をヴォワが持つに相応しい特殊弾へと変貌させた。
その結果たったの一発で――
「……うそぉ」
トーハは口をぽかんと開けて、
「……凄いです」
ソルトは驚きの笑顔を浮かべて、
「どうです?」
エアラリスは我がことのように胸をはった。
たった一発の銃弾で、木材はハイ=ルミナの彫像へと姿を変えた。ポーズはハイ=ルミナの仕事風景。つまり一度目にしたきりの氷の彫像の制作風景だ。
「反則のような気もするが、キミはキミのやり方でやったのだから私が私のやり方でやってもいいよね?」
「……はい……はい! 文句などありません! この勝負は――ドローです!」
「「「あ、敗けとは言わないんだ」」」




