第44話 素敵だね。あると
数瞬の静寂。しばし鳥の鳴き声だけが時を支配した。
「……」
「……」
「……ほう」
「あ! 誤解しないでください! ルミナお姉さまもオレも同年代の子が好きですよ!」
前世の記憶を持つ子供――そう言った子たちは極まれにだが産まれてくる。
戦場に立っている記憶
スクリーンに立っている記憶
研究発表に立っている記憶
楽器演奏に立っている記憶
etc.etc.
しかしその記憶は年を経るごとに薄れていき、大人になると完全に消えてなくなるパターンがほとんどだ。
それが本当に前世の記憶なのかそれとも幼いゆえに見たことのあるものを自分の前世の記憶としてごちゃまぜにしてしまったのか、それは今もってわかっていない。
ただ、そう遠くない過去、とある聖人によって魂の存在が否定された経緯がある。その聖人はそれを理由にバチカンを追われ、聖人の称号を剥奪、現在はイギリスに身を潜めている。
更に言うのであれば、ヴォワには視えている。前世の記憶と言うのがなんであり、どうやって人や野生動物に宿るのか――その流れが全て視えている。
『グロー・プール』
ヴォワは空を視上げる。雲がまばらにあるだけで変わった空ではない。普通の人間にとっては。
ヴォワの眼に映るのは――光の根。どこかに幹があるわけでも枝葉があるわけでも、勿論花や実があるわけでもない。ただ虹色に輝く巨大な根が空を這っている。人によっては河と表現するかも。
それはあらゆる有機・無機物のバイオフォトンのカケラだ。剥がれ落ちたバイオフォトンがつくる光の根。まだ現世に固定されていない子供たちはあれに残る微かな記憶を感じ取りまるで前世を視ているかのような体験をする。
と言うのがヴォワの持論である。
ただそれはあくまでヴォワの考えの域を出ない。だから。
「前世と言うものがあるのかどうかは私にはわからない。
が、素敵だね。あると」
「ですよねヴォワお姉さま!」
「記憶があるのでしょうか? ハイ=ルミナさんとソルトさん、お二人には」
「いいえ!」
再び強く激しく髪ごと顔を横に振るソルト。
「へ? 違うの?」
「違うのです!」
「んじゃどうして恋人だと思ったの?」
「占いですね!」
天をまっすぐ指さして。今は青い空、そこにある星を指したのだ。
「占い……あ、そう言えばハイ=ルミナ氏って占星術にも通じていたんだっけ」
「そうです!
二年くらい前でしょうか、星占いにハマっていましてオレは自分で自分の前世を占いました! 単純な好奇心からです!
具体的に前世でなにをやっていたかはわかりませんでしたがいつ、どこそこにいけば前世の恋人と出逢えるよと言う回答を得ました!
そしてそこにいらっしゃったのがルミナお姉さまでした!
話を聞くとルミナお姉さまがその場所にいらっしゃったのはオレと同じ理由だったのです! ルミナお姉さまは占星術を用いてご自分の前世を識り、オレの行く先で待っていて下さったのです!
そうして出逢ったオレたちは急速に仲を深め、将来ルミナお姉さまの助手を務めるべくルミナお姉さまの技術を習いました!
そして『神赦婚姻』の天使の右脚を譲り受けたのです!」
「それは、キミの右脚が不自由だったからだね?」
「はいそうです! って、え⁉」




