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花嫁は王冠を抱いて ~ヴォワ=デートによるカラフルデイズ~  作者: 紙木 一覇


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第43話 嘘だったらなんでも言うこと聞いてあげる

「♪」


 鼻歌が聴こえる。

 甘いブドウの香りが充満する中聴こえるそれは世の穢れなど全くしらないと言うほどに澄んでいた。

 いやさ実際にしらないのかもしれない。

 鼻歌を奏でるのはまだ十にも満たないであろう少年なのだから。

 ショートヘアにセットされた茶系・セピア色の髪をなびかせて、少年はブドウをとってはカゴに入れていく。

 少年の瞳と同じ薄い緑色のブドウは一つ一つ実が大きい。

 皮ごと食べられるタイプのブドウだから手を汁で汚すこともなさそうだ。


「一つもらっていいかね」

「は~いど――って誰⁉」


 軽やかに歌っていた少年は突然現れたヴォワの姿に思いっきり身構えた。が、どうにもサマになっていない。


「キミ、武道習ってないだろう?」

「は、初めて二週間です! 空手! 基本的な攻撃なら出来ますよ!」

「ほぉう?」

「――い⁉」


 一瞬だ。一瞬でヴォワに自分の間合いまで入られた少年は目をみはってほとんど反射で膝蹴りを放った。しかしヴォワは掌でそれを簡単に止めて、少年の足を払ってコケさせた。


「この――」


 倒れながらも手刀を放ってくる少年。その手を叩いて流し、ヴォワの手が少年の首筋に当てられた。


「ふむ。筋は悪くない。きっと永く鍛錬していけば相当の使い手になるだろう」

「……お」

「ん?」


 小さく細かく体が震えている。怒っただろうか?


「お姉さまとお呼びしていいですか⁉」


 違った。


「ダメだ」

「お姉さま!」

「ダメだとゆーに」






「ルミナお姉さまが⁉」


 一通りの事情を話し終えて、少年――ソルト=ユーステスはまずハイ=ルミナの現状に対して声を上げた。


(と言うかこの子『お姉さま』を何人もっているのだろう?)


 若干呆れつつ、ヴォワはブドウを一粒口に運んだ。うまい。


「あのねソルトくん、そう言うわけで貴方の持っている右脚を一旦貸してくんないかな? 用が済んだらちゃんと返すから」

「勿論です! ルミナお姉さまがそれで助かると言うならどうぞ持っていってください!」

「マジで? 助かるわ~」

「と言うわけにはいきません!」

「……マジで? 助からないわ~」


 喜び、落胆。


「貸していただけないのはなぜでしょう?」

「お姉さん方の話している内容が本当かわからないからです!」

「あ」


 言われてみたらそうだ。考えてみたら一つ前の高いとこ登るの大好き男さんはよく一発でヴォワを信じたものだ。


「ああ、彼には『嘘だったらなんでも言うこと聞いてあげる』と伝えておいた」

「なんてことを!」

「言っちゃったんですか!」


 それは全世界の男が喜ぶ言葉で。


「相手は!」

「男ですよ⁉」


 それはなにをしても罪にならないと言う免罪符で。


「ヴォワちゃんは可愛い女の子で!」

「どんな目に合うかわからないと言うのに!」

「代わる代わるに迫って来るなうっとおしい。

 大体嘘を言っていないのだからなんの問題もないだろう」

「「それでも! 二度と同じ手を使ってはいけませんよ!」」

「わかったわかったツバが飛ぶツバが」


 ブドウにかからないように、背に隠す。

 二人がふしゅーと放つ息を顔に浴びながら、ヴォワはソルトに視線を向けた。


「どうしたら信じてもらえるかな?」

「え? え~と?」

「言った通りに私たちには一週間しか時間がない。パッと行える方法であってほしいのだが」

「え~と、え~と、そうだ! 勝負しましょう!」


 ぽん、と手を打つ。


「勝負?」

「はい! どっちが美しいルミナお姉さまの木彫りの像を造れるかです!」

「……私は構わないが、キミ木彫りなんて出来るのかい?」

「はい! オレ、ルミナお姉さまの弟子ですから!」

「弟子。あの子に弟子なんていたのか」

「そうです!」


 確か弟子はいないと言う話だったはず――いや『ハイ=ルミナ』にいないとは言っていなかったか。加えて例外がいるとも言っていたか?


「けれど自分を秘匿してきたハイ=ルミナが弟子をとるとは……よほどキミに才能を感じたのかな?」

「違うと思いますよ?」


 音が出るくらいに激しく髪ごと顔を横に振るソルト。


「違う?」

「ハイ=ルミナお姉さまがオレを弟子にしてくれたのには理由があります!」


 指を一本おっ立てながら。


「理由?」

「ルミナお姉さまとオレは! 恋人だったのです! 前世が!」

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