第42話 さっきあたしが来る前なんか考え込んでなかった?
「ぷはっ」
二分ほどたって、水面に顔を見せるエアラリス。
「どうだね?」
「げっちゅ! です!」
高々と上げられた両手に持ち上げられるのは、ガラスケースに入った天使の左腕――の骨――で間違いなく。
「よくやった。戻っておいで」
「はーい」
「犬ね」
呆れるトーハにわざと水飛沫が届くように上がるエアラリス。そんな彼女にトーハはジト目を向けるもののスルーされる。
「さぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁヴォワさま拭いて下さいな」
「……言うんじゃなかった」
ちょっぴり後悔しながらも、一度した約束を破るわけにもいかないのでヴォワは旅行用のキャリーケースからタオルを取り出して上から下、前も後ろも丁寧に拭いてあげた。
その間に「ふへへへへへへへへへへへへへへへへ」だの「うははははははははははははは」だの妙な声をエアラリスはあげていたが、ヴォワは恥ずかしさで頭がいっぱいだったのでその耳に届きはしなかった。
「えほほほほほほほほほほほほほ」
家の中に戻って、ドライヤーを――無断で――使っている間もこれだ。
「ご機嫌ね、エアラリス」
「もう一か月くらいはなにも食べなくて平気だと思います」
「変態か。あ、変態だった」
「羨ましいですか?」
「はいそーね」
ひらっと一度手を振ってトーハはヴォワのいるリビングまで戻って行った。そこではソファに座ったヴォワが天使の左腕をまじまじと見ていて。
「ヴォワちゃんソファ、ホコリいっぱいじゃなかった?」
「いっぱいだよ。だからほら」
自分のお尻の下を指さす。
「先程使ったタオルを乾かしてクッション代わりに再利用している」
「あー、なるほど。
で、どう? 色、次に繋がりそう?」
「無論。ただこれにもあのパーカーの彼女が欲しがるものはないね。
勿論、美術・芸術品としての価値は高いだろうが」
美術品は見る人によってその善し悪しが変わってくるが、これは万人を納得させられるかもしれない。
「……」
「どうしたね?」
「う~ん、さっきあたしが来る前なんか考え込んでなかった?」
「……大した観察力だ」
苦笑。
「警察ですから」
ドヤ顔。
「……パーカーの彼女、キミにはどう見えた?」
「? ロボットに見えた」
まあ、これは当然。
「では性別は?」
「性別? いやーヴォワちゃんが彼女って言うから女の子だと思ってたけど……違うの?」
「わからないのだ」
「わかんない?」
眉が怪訝に曲がる。ヴォワにもわからないことがある。だとしたら自分には到底わかりえないだろうと。
「彼女を見た時に直感的に、いやなんとなくと言った方がいいか? なんとなく思ったんだ。この子は女の子だ、とね」
「色でわかったって?」
「違うよ。色を視すらしないままに、だ」
だからこそ『わからない』。
(彼女は私と自分が繋がっているかのようなことを口にした。
まさか隠し子が――妹がいたりしないだろうね?)
思案に戻るヴォワを見て、トーハも違う内容を考え始めた。
(ひょっとしてヴォワちゃんの身辺を調べたら犯人に辿り着ける?)
――と。直接犯人――パーカーのロボットに行きつかなくてもいい、ただ足掛かりでも掴めれば。今はとにかく情報が必要だ。
「ヴォワちゃん」
「私を調べたいと言うのだろう?」
「うへ?」
先回りされた。
「ふ、キミの思考くらい読めるさ」
「……流石」
それでこそヴォワだ。
「構わないよ。私も彼女との繋がりをしりたいが天使のピースを集める方が先。だから警察が動いてくれると言うならしばし任せよう」
「ありがと」
「――さて、エアラリスの準備が整い次第次に行こう。時間は限られている」




