第39話 万が一の時は容赦なく恥部を撃ち抜く
ヴォワに話しかけられて男の一人は意気揚々とダンボールの蓋を開ける。中には布にくるまれた二つの物体が緩衝材と一緒に入っていて。
「この二つっす」
流石に慎重に二つの作品を取り出してゆっくりとテーブルに置く。男は一度トーハに目配せして、彼女が頷くと布をとった。
「なるほど」
天使の右腕と左脚。それはやはり骨だけで。ガラスであるそれは部屋の照明を内部で反射して白く見えた。
美しくはある。高貴でもあった。だが、どうやらこのピースには犯人が望むような秘密はない。
「これで三つだ」
言いながらヴォワはエアラリスに手をのばす。エアラリスはその手を取って――甲にキスをした。
「違う」
「はっ、すみませんつい」
「あたしたちの前でセクハラとか……とっ捕まえるわよ。羨ましい」
本音が漏れた。
「預けていたものを出したまえ」
「はーい」
今度はボケずにエアラリスはスカートをまくった。生足を見た男たちがどよめくがトーハの睨みで一蹴される。
「ここに」
太ももにナイフと一緒にくくられていたものを取り出してヴォワへと差し出す。これもまた布に包まれていて、ヴォワは掌の上でそれを外した。男たちが二度どよめく。無理もない。だって布の中にあったものは、天使の輪だったのだから。
腕や脚とは違い虹色に輝くそれをテーブルに置いて、改めて眺める。
「……色に変化はない」
だが、と続ける。
「天使の輪だけでは弱かった色が濃くなった。この色を追えば他のピースにも辿り着けるだろう」
「え? ホントにヴォワちゃん?」
「勿論本当です。ヴォワさまはハイ=ルミナさんの居場所だってつきとめたのですから」
なぜかヴォワに替わって胸をはる、エアラリス。
「この三つはこれまで通りここで保管していてくれたまえ。決して陳腐な賊にとられないように」
「「「はいっす!」」」
思わず――と言うか喜んで――敬礼。ここは軍隊か。
「では、私は他のピースを探す」
「当然わたしも行きますよ!」
「あたしもね。立場が役に立つと思うし」
「では、行こうか」
「う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~む」
「ヴォワさま、眉間にしわが」
「む? それはいけない若いと言うのに」
眉間を指でもみもみ。将来決してしわ・シミなど作らないぞと気持ちを新たに。
「けどどうする? あたし的にはヴォワちゃんを会わせたくないんだけど」
「気遣いありがとう。けど大丈夫。万が一の時は容赦なく恥部を撃ち抜く」
「「怖い!」」
ヴォワとエアラリス、そしてトーハはオランダにいた。オランダの、軽犯罪者収容所、その門扉の前に。
ここに入っている男が『神赦婚姻』の天使・左腕を持っているからだ。
ではなぜ面会に行かずこの場で唸っていたのか?
それは、現在男の面会が禁止されていたからだ。
その男は根っからの悪人と言うわけではない。ただそこに高いビルがある、じゃあどうする? 登るっきゃないっしょ? そんな生粋のチャレンジャーである。その結果何度も捕まっては放たれてを繰り返している愛されるおバカさんであった。
そんな男が収容所内部で問題を起こしたのだ。
収容所で一番高い見張り塔に無断で登ってしまった。一度やってみたかったらしい。だが結果面会は禁止となり刑期が伸びた。
「大人しくしていれば簡単に出られたのに……どうやらガマンと言うものが出来ないらしいね」
「いるのよねぇ好奇心を抑えられないやつ」
「出たら好きなビルに登れるんですけどねぇ」
因みにトーハがヴォワとその男を会わせたくない理由はこうだ。「女の子に飢えているだろうから襲われるかも!」。
「トーハ、キミの権限でどうにかならないのかね?」
「イギリス国内ならなんとかなるんだけど流石に他国じゃあね」
「お役に立ちませんなぁ」
イジワルな笑顔を浮かべつつ。
「む。で、でもここの警察になら話を通してあげられるわ!」
「下っ端の、ではなくてですか?」
「ふ、あたしこう見えて年上にモテるのよ」
どんな手を使うつもりなのか。
「ならばそちらでよろしくやっていて下さい。ヴォワさまはわたしに任せて」
「モテるからってこっちが好きになるとは限らないでしょ? そう言うのがわからないってあんた恋愛経験0でしょ」
「ふぐぅ! そ、そう言うってことは貴女もう中古なのですね⁉」
中古より新品だ! そう言う主張である。
「ご想像に任せるわ」
「コラ二人とも。警備の男が頬を赤くしているぞ。なにを想像したのかはしらないが」
「まさかあたしの裸を⁉」
胸を腕で隠す。
「貴女のでは男の子は照れないと思います」
『騒がしい!』
「「「うぉっ」」」




