第36話 ……暴行受けてないでしょうね
「なぜ」
『それは言えない。けれど、キミも僕を識った方がいい』
これは願望か。はたまた希望か。
「先程から気になっているのだけれど、私たちは知り合いかな?」
『逢ったのは初めてで間違いない。ただ、僕たちは誰よりもお互いを識っている』
そこでヴォワはある考えにふと思い至った。
「……色が視えるのだね?」
自分と同じに。
『そう。しかしそれで識っていると言ったのではない』
「ふ……ん。まあいいさ。
それで、『神赦婚姻』を完成させたら解毒剤は貰えるのだね?」
『うん。それは絶対と約束しよう』
「素顔は見せてくれるのかな?」
『顔なら今見せてもいいけれど』
そう言って、パーカーに指をかける。ゆっくりとフードを持ち上げて――
「「――⁉」」
「……ほぅ」
覗いた顔は――機械であった。
「AI搭載機かね? それとも遠隔操作?」
自立か、あるいは誰かが操っているのか。
『さあ? それはまだ言えない。僕たちの正体に繋がるから』
「なるほど。
いいだろう、天使側のピースは任せたまえ。そちらも解毒剤、忘れないように」
『うん。
では、そろそろ失礼するよ。
みんな、行こう』
『『『はーい』』』
了解の意味で手をあげる八人。全員がリーダーと思しき真ん中の人物に付いて背を向ける。
「待――」
「ストップ。トーハ、行かせていい」
「でも!」
銃の引き金にかかる指に力を入れる。
「ここで彼女を撃っても解毒剤を手に入れられない。私や他の誰かが調合出来るかもわからないから刺激しない方がいい」
「……了解」
『ありがとう、ヴォワ=デート。
それじゃ、バイバイ』
軽く手を振って、九人は一息にジャンプして地上へと舞い降りた。
「……そう言えば他に人いませんね」
「人払いを行ったか、最初から彼女らの仲間しかいなかったか、だろうね」
風が吹いた。少し強い風で、ヴォワの細く白い髪が美しくなびく。
「これ……あいつらを捕まえた後、裁判にかけられるのかしら?」
「ロボットを裁ける法は今のところない。操っている人間がいるなら話は別だがね。それよりも、ハイ=ルミナだ」
「ええ」
「はいです」
三人は急ぎハイ=ルミナへと駆け寄って、まずは呼吸と脈を確認した。全て正常、問題はない。
「……暴行受けてないでしょうね」
「受けていないさ。彼女は眠らせているだけと言った。調べるとわかることを嘘にする必要はない」
それは確かだ、確信を持って言える事実。
「そっか……それなら、心配は毒だけね」
「いいえもう一つあります」
「? なに?」
手を小さく上げたエアラリスの言葉にトーハは目を向ける。
「わたしたち、一人抱えた状態で降りられるでしょうか?」
「……」
「……」
「ヘリを、呼ぶわ」
「うん」




