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花嫁は王冠を抱いて ~ヴォワ=デートによるカラフルデイズ~  作者: 紙木 一覇


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第35話 僕はキミを識りたい

「終わったね」


 ガラスの階段が。


「「マジですか⁉」」


 けれどもヴォワは最後の板で脚を止めている。

 塔の天頂では巨大な神のガラス彫像と聖母のガラス彫像、そして救世主のガラス彫像が向かい合い片手を中央に向けて伸ばし重ね合っていて、その掌の上では婚姻を赦された天使と悪魔が抱き合っている――と言うのが完成された状態である。が、今はその天使と悪魔は体をバラバラにされて地上へと散っていて。

 ただ、ヴォワが脚を止めたのは決して落胆したからではないし進む道がないからでもない。


「ヴォワさま? いかがされました?」

「……うん。少々驚いた」


 視線は固定したまま、ヴォワ。


「なにに? あたしもう驚くことなんてないよ」

「……いや、あるさ。三体の掌の上をご覧」

「「?」」


 言われ、震える体をゆっくりと伸ばしてヴォワの視線を辿る。


「「――⁉」」


 そこでは――


「「ハイ=ルミナ!」」


 が、横たわっていた。

 ただし。


「誰です? あの方々」


 彼女のすぐそばには白色のパーカーを着こんだ誰かが立っていた。

 それも一人ではない。左右に子供――身長百四十くらいか――とみられるパーカー姿の何者かを四人ずつ並べている。

 計九人。


「誰かはわかんないけど」


 銃を抜き、構えるトーハ。


「まあ犯人よね」


 いつでも撃てるように心構えをしながらゆっくり聖母の腕を歩くトーハ。もう高さゆえの震えはない。


「エアラリス」

「はい、ヴォワさま」


 こちらも心構えを正しながら腕をゆく。ヴォワの歩くスピードはいたって普通。エアラリスもヴォワの後ろを歩いている。いつでもヴォワをガード出来るように。

 それを認めたトーハも歩調を速めた。

 九人の犯人は動かない。ハイ=ルミナのすぐそばでじっとこちらを見ているだけだ。

 ヴォワは色を()る。

 喜・怒・哀・楽。分類するならば――出来ない。無心。


(だがなんだ?)


 どこかで出逢った覚えがあるような気がする。


「エアラリス、あの子らの心音に聴き覚えは?」

「ないのですが……ええ、ないのです。心音がありません」

「……ほぅ」


 エアラリスは異常聴覚を持っている。とくん、とくん、静かに響く心臓の音すら聴こえる耳を。

 そんな彼女が心音はないと言う。

 ヴォワは改めて九人を見やる。全神経を眼に集中し――なるほど。確かに心拍の色が視えない。


「……ハイ=ルミナになにかしたかね?」

『――大丈夫。眠らせているだけ』


 返答があった。無視されるのも考えての問いであったが、どうやら会話する意思があるらしい。それはとてもよい。


(色を視るに、中央が女。左にいる四人が男、右の四人が女)


 声では性別がわからなかった。口につけている大仰な変声機を用いて声色を変えていたから。男と言われていたが、違う。相当優秀な変声機であるらしい。

 言葉にウソはない。ハイ=ルミナの放つ色にも危害を加えられたものはない。それがわかるのに聞いたのは犯人に会話の意思があるかを確認するためだった。そして前述通りにそれはある。


「彼女を帰してくれるかな?」

『いいよ。もう目的は果たした』

「目的?」

『ヴォワ=デート。キミだ』


 少しだけ腕を動かしてヴォワを指さす。


「……私と逢いたかったなら事務所を訪ねればよかったのではないかな?」

『この「神赦婚姻(しんしゃこんいん)」も必要だからね。だから、僕たちは地上に散ったピースを集める』

「それはこれからも事件を起こし続けると言う意思表示かな?」

『事件はこれが最期だよ』


ド――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!


「「「――!」」」


 八人の子供たちが一斉に動いてハイ=ルミナの全身になにかを注射した。注射器の大きさは小さいが、中身はなんだ?


「――ふむ、帰しはするが人質ではあり続けてもらうと」


 鋭く眼を細める、ヴォワ。


『今から一週間』

「それがタイムリミット?」

『そう。薬はゆっくりと心臓を目指して進行し、八種の液体が揃ってようやく毒になる。心臓にぽっかりと穴が開く。

 それまでにピースを集めてこの「神赦婚姻」を完成させるように。僕たちは悪魔側を集めるから、天使側をよろしく』


 ひらひらと手を振りながら。


「全て自分たちで集めればよかろうに」


 確かにその通りである。しかし犯人は。


『ヴォワ=デート。僕はキミを()りたい』


 こう言葉を続けた。

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