第32話 ただ不気味ってだけじゃないですね……
「着いたー着きましたー!」
「こら、エアラリス、大声を出すと他の観光客に迷惑だよ」
「う、すみませんついテンションが上がってしまい……」
「まあ、気持ちはわからんでもないけどね」
人間なれない場所に来ると自然気持ちが昂ってしまう。それはヴォワと言えど例外ではなく。
ただし。
「暑いね」
「暑いですね」
「暑いわね」
今は夏真っ盛り。気温は三十度を越えていて外にいると日焼け待ったなしだ。それもヴォワとて例外ではなく。
「ヴォワさまの白肌が焼けてしまう!」
「そうだね……この肌は自慢の一つだから困るなそれは」
「それも大事だけどさぁ……ちょーと駐車料金高くない?」
勿論、お金を出すのはトーハである。
「地方はどこも赤字経営だからね。許してあげたまえ」
白い日傘をさしながら、ヴォワ。
「一回ヴォワちゃん抱っこさせてくれたら許してあげる」
「代わりにわたしが怒りますが⁉」
「恥ずかしいから別行動するよ私は」
「「ああ待って!」」
「ところで、ハイ=ルミナ捜索の方はどうなっている?」
駐車場から『神赦婚姻』へと向かう道すがらに。路面は木造りの歩行者天国。
人は多いものの肩と肩がぶつかってしまう程ではない。だから小声で話せば聞かれる心配もないだろう。
「ん、まだ見つかっていないわ。一週間以内に見つからなかったら公開捜査に切り替えるって」
「そうか」
「……ヴォワさまのお考えだとルミナさんに直接危害は加えないのですよね?」
「そうだね。ただ、犯人が興奮状態になるとどうなるかわからないからいずれにしても早めの救出が必要だ」
「そうね……」
ハイ=ルミナの顔を思い出す。まだ少女の面影が残るその顔。それが曇らなければよいなとヴォワは心で呟いた。
「あ、見えましたよ『神赦婚姻』!」
場の雰囲気を変えようとエアラリスはあえておどけて見せた。彼女が指さす先にあるのは背の高い木。『神赦婚姻』をとり囲みその姿を隠す緑の塀だ。それは中に入って初めて目にした時の感動を造り出すための仕掛けである。
そこまで三人は辿り着いて、木造りの門扉を開いて中へと歩を進めた。
「「うわぁお」」
「……ほぅ」
素直に驚くエアラリスとトーハ。緩やかに微笑むヴォワ。
目の前にあるのはガラスの芸術。しかし、だ。
まさかガラス製の頭蓋骨が壁と道を造っているとは……。流石に床は平らになっているけれどその下にはやはり頭蓋骨が敷き詰められていた。
三人は別になにもしらずに来たわけではない。ネットで見た覚えもあるし、駐車場でパンフレットだって貰った。けれどもこうして目にするとこうも圧倒されるものなのか。
「ただ不気味ってだけじゃないですね……」
「むしろ光が反射していてとっても素敵だわ……」
天使の輪のように虹色に輝いているのではない。基本は紫。黒に近い紫色。どうやってそんな反射になっているのか。間違いなく偶然ではなく意図的な反射。
(ふむ、少々ハイ=ルミナをあなどっていたね)
美術・芸術に関しては敵いそうにないなと認めた。
「進もうか」




