第30話 お風呂にする? ご飯にする? それともワ・タ・シ?
「先程デートと名乗っただろう」
「はーいお姉ちゃんでーす」
驚きに固まるトーハ。その中で目だけを動かし妹を見て、姉を見て、妹を見て、姉を見る。
……似てない。正直そう思った。
けれどヴォワとアライア、この二人は間違いなく同じ両親から産まれた姉妹である。
「う~ん、エアラリスの時と同じ反応ぉ」
「そりゃあ初めてしった時は驚きますよぉ」
「そんなに似てなぁい?」
「似てませんね」
「そうだね、私は自覚している」
そんな会話が繰り広げられる中、トーハは思う。
(ヴォワちゃんが成長したらこうなっちゃう⁉ それじゃ抱きしめられない!)
なぜかヴォワの将来を憂いていた。
「上がってもいいかな姉さま」
「勿論よー。入って入って」
アライアを先頭に、部屋へとイン。
どうやら部屋の間取りは一階と違うらしい。ヴォワの部屋はリビングとベッドルーム等が別れた部屋になっていたけれどここは全てで一部屋。テレビを観るのもベッドで寝るのも料理するのも大きな部屋一つで行われているようだ。流石にお風呂とトイレは別だが。
(となると)
天使の輪を始めヴォワが預けたものはどこにあるのだろう?
(それに料理中じゃないのにエプロンつけてるのはナゼに?)
基本、ずっとつけているだけだからである。
「お風呂にする? ご飯にする? それともワ・タ・シ?」
「そうだね、姉さまにするか」
「いやー食~べ~ら~れ~る~」
そう言いながらもヴォワにふんわり抱きついて。
「わたし! わたし混ぜてもらっても⁉」
「あたしも! あたしも!」
「冗談だ。と言うか今の台詞教えたのエアラリスだろう?」
「ぎくっ。に、日本のジョークです。はいあくまでジョークです」
ヴォワに睨まれて、エアラリスは逃げるように目をそらした。
「はぁ、やれやれ。姉さまも変な言葉覚えないように」
「大丈夫。お姉ちゃん大好きなヴォワにしかこう言うのしないから」
「そんなだから恋人が出来ないのだよ」
「ノンノン。必要ないから作らないので~す」
左の人差し指を一本追っ立てて、ちっちっちっ、と左右に振る。
「ふ~ん……まあ姉さまがそれでいいなら別に構わないけれど。
ところで、姉さまに預けていた天使の輪、あれどこにいったかな?」
「天使の輪」
指を頭の上にもっていき、円を描くアライア。
「こないだハイ=ルミナにもらったやつだよ。『神赦婚姻』の」
「ん~、ついて来てぇ」
言いながらアライアが向かったのは、大部屋の隅っこ。そこにはなにもないはずだが?
「えい」
とウサギのようにジャンプして天井の隅を押した。するとどうだろう? 天井の一部がスライドして階段が出て来たではないか。
「え? このマンションって二階までしかなかったわよね?」
「見た目はね」
「さ、昇りましょ、上がりましょ」
「三階部分は隠し階だ。この姉さまの部屋からしか上がれないんだ」
「へぇ」
確か屋上はヴォワの植物園になっていたはず。となるとこの小さなマンションは全てデート家が使っていると言うことか。
「えっとぉ、電気は、と」
スイッチが押されてライトが灯った。
「わぁ」
素直に、とても正直にトーハは感嘆した。三階、そこにあるヴォワの美術コレクションに。
西洋東洋問わずに集められたそれは騎士の鎧、武士の鎧、掛け軸、絵画、宝石、化石、着物、シルク、はく製に刀剣まで。幅広く網羅されていた。しかも一つ一つがきちんとガラスケースに入れられていて、汚れは勿論ホコリすら全くなかった。全てアライアの管理である。
「えっとぉ、天使の輪は――こっちよ」
トーハならずここに来た経験のあるエアラリスすらも魅了されて脚を止める中、アライアとヴォワは歩き出してしまった。名残惜しさを感じながら、二人は後を追う。
「これね」
「うん」
姉妹が脚を止めたのは一つのコレクションの前。銀のプレートにちゃんと天使の輪と彫られていて、やはりちゃんとガラスケースの中に納まっていた。
「これが――」
トーハの喉が鳴った。
天使の輪――ガラスで出来たそれはとても細く。けれど取り込む光がガラス内部で反射して虹色に見える。
すごい。なにがすごいのかと問われると簡単に説明は出来ないけれど、確かにすごいと思わせる気配を持っていた。
そう、これだけで一つの美術品だと言っても過言ではないくらいに。
「姉さま、私の部屋で行われた会話は聞いていたね?」
「ええ、ええ、勿論」
なんですと? トーハの耳が少しばかり動く。
「ああ、安心したまえ。決して盗聴ではない。職業柄敵を作ってしまうから姉さまには監視を行ってもらっているんだ」
「ん~もう趣味になっちゃってるけれど」
「だ、ダメですよ流出させたりしちゃ。逮捕しないといけなくなっちゃいます」
「だいじょーぶ。不特定多数の男に大好きな妹のプライバシーを売ったりしません」
えっへん。トーハよりも豊かな胸をはって。
「さて、トーハ。これと同じレベルのものが世界中にあるわけだけれど、どうする?」
「う……ん、世界中の警察機関に協力して貰って護り抜く――」
「いや」
首を横に振るヴォワ。
「え?」
「私は完成された『神赦婚姻』を観てみたい」
まだ観ぬ芸術を求める表情で。
「え~?」
「そうだね、まずは行ってみようか。『神赦婚姻』の台座ある、その場所へ」




