第29話 あらあらあらあらあら
「はぁ、危なかった」
外に待たせていた二人をなんとかなだめて戻ってきたトーハ。部下と言っていたけれど怒られた模様だ。立つ瀬なし。
「さて、おふざけはこの辺で本題に戻ろうか」
言ってソファを立つヴォワ。
「ヴォワさまどちらへ?」
「天使の輪をとって来る」
「お供します!」
そうして二人が向かうのは、玄関。
「え? ヴォワちゃんチにあるんじゃないの?」
「ないのだよ。ここに置いていてもいいのだが留守中は番の人数も減るからね。手薄になったところを狙われるかもしれない。番の男たちを信頼してはいるが苦労は分散させてやっている」
「へぇ」
ドアを開けて、外へ。
トーハの部下たちである同僚二人が立っていたから一言「ご苦労」とかけてやった。
そのままヴォワがここ一階から向かったのは――たったの一階上であった。トーハならずエアラリスも「防犯のために一階に住むのはやめた方がいいのでは?」と進言した過去があったが「しょっちゅう出かけるからここでいいよ」と言葉を返されている。加えて言うならば地下もヴォワが使用しているから一階の方が行き来するに便利でもある。
ではその上、二階がどうなっているのかと言うと。
呼び鈴を押すヴォワ。二回押して、三回押して、二回押す。これがヴォワの来訪を告げる合図だ。
部屋の中からなにかが跳ねるような音がする。靴音だ。その音が玄関まで来て止まり、ドアが開かれた。
「あらあらあらあらあらいらっしゃいヴォワ」
「うん。こんにちは」
満面の笑顔で出迎えてくれたのは、ピンク色のエプロンをつけた女性だった。
トーハはちょっとばかり驚いていた。ヴォワが重要なものを預けると言うからてっきりそれなりに筋骨隆々の男でも出て来るのだろうと思っていたのだ。けれどどうだろう? 出て来た女性はまだ二十代に見える。髪の色は黄系・カナリヤだが途中から紫系・オーキッドパープルに変わっていて――多分全部オーキッドパープルに染めていたものが伸びたのだろう――腰までのそれが三つ編みになって豊かな胸の起伏を隠している。
顔には黒縁のメガネが一つ。メガネの奥にある瞳は青系・スカイブルー。
スタイルは細身で背が高い。トーハも高いが(百七十センチメートル)女性はそれよりも五センチは高かった。
モデル体型ではあるが、前述通りエプロンをかけているからモデルよりも主婦のイメージが強い。
(この人が……ヴォワちゃんに任せられている人)
「エアラリスもこんにちは」
「どうもです」
エアラリスはこの人と面識がある。だから顔に称える表情は柔らかな笑顔だ。
「あらあらあら? そちらは初めましてかしら」
「あ、っはい。トーハ=ラルと申します」
「アライア=デートです。えい」
「わっ」
えい、とアライアに抱きしめられるトーハ。軽い挨拶のハグなんてものではない、がっつりと抱擁された。ふくよかな胸が首筋に当たって女ながらに緊張してしまう。内心で照れて焦りながらもしかしそこは警察。動揺はなるべく表には出さずに、軽く抱きしめ返す。
「ん~、覚えた」
「え?」
体を離されて、ぽかんとする。
「トーハの体温。しっかり記憶したから。これでもう半径五百メートルに入ったら気づけるわ」
「……は?」
「気をつけたまえ。姉はマジでそう言う芸当を持っているから。五百メートル以内で男といちゃついているとあっさり見つかってしまうよ」
「……そう、なんだ……って、姉⁉ お姉さん⁉」




