第27話 人をあざ笑うと自分に返って来るわよ
ヴォワの眉が動いた。エアラリスの方は顔を上向けて「あ~」と言っている。
黄金時計でハイ=ルミナと関わってから二人は一通り彼女の過去を調べている。必然、その愛娘・愛息子である作品についても。
つい先日名を与えられた『涙に吹く礼賛』――通称『神赦婚姻』とはその一つで、半径一キロメートルにも及ぶ巨大なガラス作品だ。ゆえに展示場所は最初からこれまで移動出来ず、一か所に存在し続けている。
が、それは未完成だ。
「台座の頂点に建つ天使と悪魔、それらを構成するものをハイ=ルミナが慕うものに分け与えているのだったね?」
トーハは頷き、天使と悪魔のピースを言葉に列する。
「そう。
天使の輪、
右腕、
左腕、
右脚、
左脚、
胴体、
心臓、
肺、
頭部、
右の翼、
左の翼。
悪魔の角、
右腕、
左腕、
右脚、
左脚、
胴体、
心臓、
肺、
頭部、
右の羽、
左の羽。
そして天使と悪魔がキスをする、
真紅のリンゴ」
「……多いな」
「多いですね」
「多いのよねぇ」
ヴォワ、エアラリス、トーハと言葉を並べる。
困るほどの多さだ。一から探し出すには骨が折れる。
「警察はそれらの所在を全てしっている、またはしっているものを確保したのかね?」
「いやぁ」
言ってトーハは後頭部をかく。美術品の所在も、それをしるものも確保出来ていなかった。
「いくつかはしっているんだけど、残念ながら現時点、全てではないわ」
「天使の輪なら在処をしっている」
「え⁉ マジ⁉」
新情報である。トーハは思わず腰を浮かせた。
「マジだ。
なぜなら、私が持っているから」
「……………………………………………………………………………………へ?」
ぽかん、と口を金魚のように開けて。
「っふっ、おマヌケなお顔ですね」
その様子を茶化す、エアラリス。
「人をあざ笑うと自分に返って来るわよ。ほらもう後ろに!」
「え⁉」
勢いよく振り返ってみる。だがそこには何者もおらずに。
「バカがみ~る~」
「~このブタのケツが!」
歌うトーハに思わずエアラリスの口から汚い言葉がとんだ。
「んま! あたし小尻で美尻なんだけど⁉」
見るか? とトーハは自らのお尻を叩く。
「わたしだってバカではありません!」
勝負するか? とエアラリスは自らの頭を叩く。
「中卒のくせに!」
エアラリスのことだ。彼女は中学卒業後その脚でヴォワのところに来ているから。
「就職出来てるからいいんですぅ!
そちらこそ下っ端のくせに!」
トーハのことだ。彼女の警察内での地位はまだ低い。が、実のところ年齢に比べると期待を持たれていたりする。
「ヴォワちゃん担当だからいいんですぅ!」
が、そんな期待よりもこちらの方がトーハにとっては重要だったりもする。
「がるるるるるるるるるるるるるるるるる!」
唸るトーハに、
「ふしゃあああああああああああああああ!」
鳴くエアラリス。
もう好きにしてくれ、そんな呆れ顔でヴォワは一人おやつのクッキーに手をのばすのであった。




