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25.始まりを告げる鐘の音

 森の奥深く、雷狼を討伐した開けた岩場に足を踏み入れると、目の前に広がる景色は一層禍々しさを増していた。昨日見たときよりも、亀裂から発する瘴気が明らかに濃厚で、まるでその黒く広がる亀裂が何かを吐き出そうとしているかのようだった。快晴の空の下、日差しが強いにもかかわらず、この場所だけが異様に冷たく、ひんやりとした空気が漂っていた。


 亀裂の周囲には杭で簡易的な囲いが作られており、それを二人の警備兵が頑丈な姿勢で警戒を固めていた。彼らの目は何かを警戒するようにキョロキョロ動いており、常に環境をチェックしていたが、私たちを認識すると、敬礼をして迎え入れてくれた。


 エレシアが前へと進み出て、「私が話を聞いてきます」と言い、警備兵たちのもとへと向かった。


 その間、私は周囲を警戒しながらも自分の状態を再確認するため、こっそりとステータス画面を呼び出した。

 ******************************

 ユリアーナ

 職業【セレスティアル・エンチャンター】

 レベル:10

 HP:496 / 496

 MP:285 / 285

 筋力:53 体力:50 敏捷:15 運:16 魔力:64

 ******************************


 体力も魔力も全快。ステータスにも目立った異常なし。……よし。

 確認を終えると、エレシアが戻ってきた。


「メンバーが揃い次第、いつでも突入OKとのことです」


「ん、了解」


 私たちが話していると、茂みがガサガサと音を立てて揺れ、心臓が一瞬で高鳴った。しかし、現れたのはミカとフェンだった。彼らはいつものように落ち着いており、その姿が緊迫した空気を和らげる。


 ミカが軽く手を挙げて笑顔で挨拶する。


「おっす」


 フェンも続けて、若干申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にする。


「すまんな、少し遅れた」


「ええ、大丈夫」


 私は彼らの顔を見て、緊張が解けるのを感じながら、ほっとした笑みを返した。

 彼らとの再会が、この緊張した状況の中でも心の支えになるのを実感する。


 ミカが亀裂を見上げながら、思わず口にした。


「にしても……思ってたよりもでかいな」


「確かにな、お前の身長の三倍はありそうだ」


「身長で例えなくてもいいだろうが」


 フェンはクックッと笑った。ちなみに私は一度ミカの身長の小ささを指摘してバチキレられたことがあるので隣で苦笑するだけだった。

 そんな様子を見守りながらも、私の意識は亀裂に釘付けだった。目の前の亀裂は、これから私たちが直面する未知の挑戦を象徴している。私は一歩前に出て、深く呼吸をして亀裂に近づいた。

 警備兵が声をかける。


「亀裂所有者ユリアーナ、並びにパーティメンバー三名ですね。スクロールと、チョーカーはお持ちでしょうか」


 スクロールはちゃんと持ってきていたが、チョーカーは…ああ、しまった。ポケットに入れたままにしていた。急いで取り出しながら、私はふと重要なことを思い出し、一旦場を離れることにした。


「あ……ちょっと待っててね」


 そう言い残し、皆が何事かと怪訝な顔をする中、少し離れた場所へと急いだ。安全な距離をとってから、私は胸元につけていたペンダントを服の上からコンコンと叩いた。少しすると、もぞもぞと魔力を纏った半透明のフェレット――この世界の私が化けた動物――が胸元から顔を出した。


「なに? 出番?」


「いや違う。向こうではあんまり話しかけないでね」


「なんでよ。せめてテレパシーくらいならいいでしょ?」


 この世界の私が不満そうに言いながらも、いたずらっぽく目を細めた。


「いいけど、おかしな奴だって思われたくないから返答しないからね。それに――」


 チョーカーを見せると、納得したような表情を見せた。


「――あぁ。そういうこと」


「わかるでしょ。監視されるから。これをつけたら迂闊な行動はしないでよ?」


 にしし、と笑い「了解」とだけ言うと、フェレットは私の胸元をぺちぺち叩いてペンダントに戻って行った。

 内心、もう、とため息をつく。

 なんでこいつはこんなに緊張感がないんだろう。最初はもっとクールなやつかと思ってたのに。


 そんな思いを胸に、私は急ぎ足で仲間のもとへと戻った。


「ごめん、もう大丈夫」


 ミカがからかうように言った。


「なんだ。俯いてたけど、緊張してたのか? リーダー」


 リーダーと呼ばれると少し驚く。明らかにミカの方が実力者であり、指揮をとるべきだが、今回私がその役割を担っている。


「少しだけね」


 そう言って微笑みながら、私は首にチョーカーを装備した。

 再び亀裂に近づくと、警護していた兵士が道を開けてくれた。


「ご武運を」


 彼らが呼びかけると、私たちは更に一歩前に進んだ。

 亀裂を守る囲いを越え、目の前には不気味に瘴気を発している深淵が広がっていた。亀裂の前で立ち止まり、私は深く息を吐いた。緊張しているわけではない。怖いわけでもない。ただ、この一歩が私たちの希望を押し進める一歩になることを祈って。


「ここから先は、何が起こるか誰にも分からない。やっぱり辞めたって言っても、もう遅いからね?」


 私は冷静に仲間たちを見回した。


 フェンは自信満々に答えた。


「準備万端だ」


 ミカは力強くうなずいた。


「任せろ」


 エレシアは静かに言葉を返した。


「どこまででも付いていきます」


 四人は一瞬、お互いを見つめ合った。その視線の交錯は、未知との対峙への決意を新たにした瞬間だった。

 周囲の森は静まり返り、まるで時間が止まったかのように静かだった。


 意を決して、目の前に渦巻く瘴気に触れた。

 ここを潜ったその先には、私の故郷があることを願いながら。


 そうして、亀裂の先に広がる未知の世界へと足を踏み出した。その瞬間、体が亀裂をくぐり抜けると同時に、目の前の視界が眩しく白く染まった。強烈なめまいのような感覚が全身を襲い、現実感が揺らぐ。周囲の景色は瞬く間に崩れ、形を失った。


 もみくちゃにされたような感覚の中で、私の意識は次第に暗闇に飲み込まれていく。重力が消え去り、体が空中に浮かんでいるような軽やかな感覚に包まれる中、全てが静寂に沈み込んでいく。



 コーーーーン……コーーーーン……コーーーーン……



 遠のく意識の片隅で、鐘のような音が鳴り響いた。



 どこかで聞いた、その音を。



 何の音かと思い出そうとする暇もないくらいに、私の意識は完全に闇へと飲み込まれた。







 ************************

 次元介入を開始します

 達成報酬:『賢者の石の欠片』

 難易度:★★★★★★EX

 ************************










 ************************

 頑張ってね。ユリアーナ。

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最後まで読んで下さり、ありがとうございます!

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