17.vs.強敵「ミカエリヤ・フォン・ドルンハイム」戦 ⑤
ここまでの戦闘を通じて、私は魔力の使い方に関してある直感を得ていた。
元の世界で学んだ魔力の制御方法。この世界でも同じように通用するならば、きっとできるはずだ。
腰に差した剣を抜き、まずは剣に魔力を込める。すると、その剣がほのかに魔力を纏った。
身体と同様に、剣にも魔力を”エンチャント”する。物体に魔力を込めたことはないのでどれだけ持つかわからない。
そして仕上げに、――自分自身の体に身体能力向上の魔力を多重エンチャントする。
ミカがにやりと笑った。
「だったら、こっちも全力で行かせてもらう」
一瞬の静寂の中で、私は力強く地面を蹴った。
まるで猛禽類が獲物を捕らえるかのような敏捷性で、私は一足目で地面を蹴り上げ、魔力を足に集中させることで瞬時に加速した。この技術は、単に速度を上げる以上のもの――空間を縫うような動きで、一瞬で戦場の距離を詰めることができる。
その加速を更に2足目、3足目と魔力を掛けて増幅させる。それぞれのステップで、私の速度は音をも凌駕する勢いで増していき、効果が途切れる前に次なる加速を重ねる。その結果、私のステータス画面に表示されるMPは目に見えて減少していく。しかし、それでもまだ足りない。私は自らの魔力をすべて注ぎ込み、想像を絶する速度で最大の一撃を放つ決意を固めていた。
「すげぇ!なんだあの速さ!まじで見えねぇぞ!」
「こりゃもしかして....」
観客席からは信じられないといった声が上がる。戦いを見守る者たちの間で期待が高まる。
私は全てを懸け、さらなる加速を掛ける。ミカの周りを目にも止まらぬ速さで駆け回る。相手の視線がわずかに逸れたその瞬間、私は疾風のように急接近し、そのままの勢いで抜刀した。
しかし、剣を振るうその瞬間、ミカは私の動きを見失っていなかった。
彼女の巨大な金槌が、まるで運命を決定づけるかのように、私の剣を迎え撃った。
激突の瞬間、強化されたはずの私の剣は真っ二つに砕け、切っ先が宙を舞った。ミカがその光景を見てにやりと笑った。
――まだだ。
折れた剣を捨て、左拳でミカの脇腹を狙って一撃を加えようと体を動かす。しかし、ミカは私の意図を見抜いていたかのように、その金槌を私の左拳に合わせ弾かれた。
しかし、それは本命ではない。視界の隅で、宙を舞っていた剣の切っ先を右手で掴み取る。
予期せぬ行動に、ミカも観客も「なに!?」という声を上げる。
――終わりだ。
折れた剣に魔力を込め、力の限り、全力で突き刺す。この一撃は、すべてを賭けた最後の攻撃だ。
勝ったと思ったその瞬間。
剣の軌道は虚空を切り、私の視界が激しく横揺れした。無情にも全力で振りかざしたその剣が彼女に届くことはなかった。
空中と地面が入れ替わるかのような錯覚を覚えながら、私は壁に叩きつけられていた。その衝撃は、まるで巨獣による一撃のように強烈だった。魔力壁を貫通して、全身を激痛が襲う。
私が全力を込めた攻撃は、彼女にとっては読みやすいものだったのかもしれない。一瞬の出来事だった。
防御を無視した私の攻撃だったが、ミカはその隙を見逃していなかったのだ。体重の乗っていない左拳を弾いた後に金槌を巨大化させ、右手で振り下ろした剣の切っ先が届かないようにあえて体を密着させてかわし、そのまま殴り抜けていた。その反応速度と対応力はまさに熟練の戦士が示す最適解だった。
次に体を起こそうとした瞬間、ミカはもはや私に迫るところまで距離を詰め、振り下ろす巨大なハンマーの影が私を覆った。
避ける余地などないと悟った私は、目を閉じ、体を横にして防御態勢を取るしかなかった。
バチィッ、と。何かがぶつかり合う衝撃音が響いた。
再び目を開けたときにはシールドを張るエレシアが目の前にいた。
エレシアが放った魔法のシールドが、猛烈な勢いでミカのハンマーと衝突していた。激しいぶつかり合いからは、風が荒れ狂い、粉塵が舞い上がる。
その力が互いに拮抗し、衝撃波が爆発的に広がると、両者は同時に後退し、一定の距離を保つように見合った。周囲の荒れ狂った風と舞い上がった粉塵が、徐々に落ち着きを取り戻し始める中でエレシアは言った。
「だいぶヒートアップしてますよ。ここらへんでよいのではないでしょうか」
その言葉に、戦いを見守っていた獣人の男が宣言し、降りてきた。
「ルール違反だぞ、エレシア。お前が出るなら、俺も出る。二対二だ。」
彼らもまた、戦いの熱気に引き寄せられたのだろうか。
「フェンさんも参戦だ!」
会場は更に熱気の渦に巻き込まれた。
獣人の男が、腰から小剣を抜き取ると、その刃からは不気味な紫色の剣気が漂い始めた。
その隣で、止める気はないとでも言いたげなミカが挑発的な眼差しで私たちを見据えている。
「まだやれるよな、ユリアーナ!?」
目の前の二人からとてつもない覇気を感じる。
体力も魔力もすでに限界だ。それでも――。
私ははぁはぁと息を切らしながらも、彼らに向けて強い眼差しを返した。
――もう少しで、ミカに手が届く。
「お嬢様、あれだけ無茶はしないようにと……」
エレシアの心配する声が耳に届く。
「エレシア!」
私はなんとか体を起こし、エレシアの肩を掴む。
「お願い……」
「でも、お嬢様、もう魔力も……」
そんなことはわかっている。魔力も体力ももう限界だ。それでも。――ここで退く選択肢なんてありえない。
「あなたと私が一緒なら――、きっとあいつに手が届く!」
背後から、風がエレシアに向かって吹きぬけた。
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スキル『看破共鳴』が発動します
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私の言葉に、エレシアの呼吸が荒くなる。
「私に力を貸して!」
「――はい!」
私の切実な願いに、彼女は力強く答えてくれた。
彼女の手を取り、私たちは立ち上がる。この戦いに絶対に勝利してみせる。私の決意が再び全身を駆け巡った。
その時だった。
闘技場の雰囲気がヒートアップする中で、突如男の声が響いた。
「ここで何をしている!」
派手な帽子にお役人のような正装を身に纏った男は険しい表情で闘技場の入り口に立っていた。
「ここは立ち入り禁止だ……ぬわっ!」
その時、真っ黒な雲のような――まるで煙幕のようなものがその正装を身に纏う男の顔を覆った。
「やべぇ..."センサー"のグランベルトだ!ずらかるぞ!」
そう言うと、観客席にいた男たちが一斉に蜘蛛の子を散らすかのように逃げ出した。
まるで予行演習でもしたことがあるかのような、信じられない速度で皆が退散していた。
「ちっ……せっかく盛り上がってきたところなのに」
ミカと獣人の男は残念そうに顔を見合わせた。
「"センサー"って?」
「風紀を取り締まってる政府の犬の総称だ。ちなみにあいつは隊長。ああ見えて相当な実力者だ」
二人が私たちの間を駆け抜ける時に耳打ちした。
「またあの酒場で。あと、お前らも早く逃げたほうがいいぞ」
私とエレシアも、一瞬戸惑うがすぐに状況を察知した。
ヨタヨタと、煙幕にもがいている男の存在を前にして、私たちも手を取り合いその場から急いで退避した。
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