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18.情報の在り処

 予期せぬ人物の介入により、息を呑むような戦いは突如として幕を閉じた。


 私とエレシアは、少し遅れてからなじみのある酒場に戻ってきた。

 扉を開けると、すぐに怒号が入り口まで響いた。


「お前、結界が甘くなってたぞ。しかも、近づく人間に気づかないなんて一体何をやってたんだ!」


 その非難に対し、若い戦士が頭を掻きながら答えた。


「すんません!でも、戦いがあまりにも激しくて目を離せなかったんです……」


 何やら言い争う声が響く中で、酒場に足を踏み入れた私たちの姿を見つけると、周囲の空気が一変し、称賛の声でいっぱいになった。


「素晴らしい戦いだったぞ、ユリアーナ!」


 一人が声を上げると、その言葉が合図となり、場内は私の勇敢な戦いを讃える声で溢れ返った。

 酒場の中心から、背の高い獣人の男が杯を掲げて私を呼び止めた。


「にしても、あそこまで食い下がるとはな。俺も少し熱くなっちまったよ」


 その言葉にミカもニヤリと笑いながら杯を掲げ、私に乾杯を求めた。


「本当にな。お前の身体、頑丈すぎるぞ。どういう原理だ?」


 私は笑いながら、戦いの中で目覚めたエンチャントの能力について語り始めた。もちろん、霊魂の力の秘密はまだ誰にも明かしていない。そもそも、その力がどのように働いたのか自分でもまだ完全には理解していなかったからだ。


 心地よい音楽が流れる中、かつての戦いの緊張が徐々に和らいでいき、私たちは互いの健闘を讃えあった。酒が次々と回され、会話は次第に活発になっていった。


 その後、宴会はさまざまな話題で盛り上がりを見せた。しかし、楽しい時間の中でも、私の心は完全に晴れることはなかった。戦いの中でミカに一太刀も浴びせられなかった事実が、心の隅にずっと引っかかっていた。


 話し合いが一段落ついた後、間に少しの沈黙が流れた。そのとき、ミカが何かを決意したように私の肩を抱き、断言するように言葉を紡いだ。


「よし決めた。一緒に行くよ」


「え?」


 彼女の言葉に、私は驚きを隠せずに思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 勝負の中で彼女に一撃を与えること。それが、共に冒険をする条件だったはずだ。私の剣が届かなかったのに、どうして彼女はそんな決断を?


 そんな疑問が心をよぎる中、ミカがゆっくりと振り返り背中を見せた。彼女の服の端がわずかに切れ、その下に見える肌に細い切り傷があった。私はその傷が、あのとき掴んだ折れた剣の切っ先でつけた傷跡だと悟った。彼女が完璧に避けていたように見えたその動きの中でも、私の剣は微かに彼女を捉えていたのだ。


「でも……そんな、かすったような傷で――」


「一撃は一撃だ。有効打とは言ってなかったからな」


 ミカは軽く笑うと言葉を続けた。


「それに、興味が湧いた。お前に。一緒に冒険していると、きっと何か面白いことが起きそうだから」


 そういうと手下の男が不満げに声を上げた。


「えぇ~、姉さん。俺たちとのクエストは?」


 彼の問いかけに、ミカは軽く手を振りながら答えた。


「心配するな。グレンに話は伝えておく。あいつらなら、私がいなくてもきっと大丈夫だ」


 彼女の確信に満ちた答えに、男たちはしぶしぶ納得した様子で頷き、状況を受け入れた。

 ミカは私に向けて、真剣な表情で言葉を続けた。


「ユリアーナ。ただし一つだけ条件がある。報酬は全部もらうって言ったけど……」


 ミカは一瞬、オホンとわざとらしく咳払いをして、続けた。


「半分でいい。貸し借り無し。対等な関係で組ませてくれ」


 その言葉に、私は深く感銘を受けた。どんな厳しい条件を提示されるのかと思っていたが、ミカの提案は公平で誠実だった。彼女との冒険は、私にとって物理的な強さだけでなく、精神的な成長ももたらしてくれるだろうと確信した。


「ミカ……ありがとう。改めて、よろしくね」


 そう言って、私たちは握手を交わし、お互いの新たな冒険への決意を確かめ合った。


「予定通り、明日出発でいいんだよな」


「ええ、もちろんよ」


 ミカはその言葉を聞くと、顔をほころばせて宣言した。


「よし、それじゃあ今日は私たちの成功を願って、盛大に決起会をしよう!」


 彼女の声は酒場全体に響き渡り、その元気な声に応えるように周囲の仲間たちも一斉に盛り上がりを見せた。まるでこれから私たちが迎えるであろう未知なる体験への序曲のように、場は期待と希望で満ちあふれていた。



 ♢ ♢ ♢



 星空が輝く中、私たちは城へと続く道を静かに歩んでいた。


 隣を歩くのは、あの獣人の男だ。名を『フェン』というらしい。宴会の席で自己紹介してくれた彼もミカと同様に、私たちの冒険に加わることになった。

 曰く、このフェンも私に興味が湧いたのだとか。


 夜風が冷ややかに頬を撫でる中、エレシアと私は、フェンに案内される形で、亀裂が発見された場合に必要となる、『国への申請手続き』を行うために城へと向かっていた。

 夜が遅くなりすぎる前にと、宴会での楽しい時間を早々に切り上げ私たちは足早にこの夜道を歩いていた。


 なぜ「亀裂」という私だけが所有している情報財産を国に公開する必要があるのかと最初は訝しんだが、どうやら明確なメリットがあるようなのだ。

 話によると、国に申請しておくと探索に便利なアイテムを供給してくれるらしい。

 自由申請ではあるが、特にデメリット無く貴重なアイテムが手に入るのでお得であること。

 そしてもう一つは、他の亀裂の情報が手に入ることだ。むしろ私はそっちの方に興味があった。


 今回の亀裂の報告ついでに、国で発生報告のあった亀裂の状況を探る。守秘義務もないらしいので好きに聞けるし、何よりも正確性だ。世間に出回る情報にはラグや噂、嘘が絡む分、管理している国に直接聞くのとでは大違いだ。

 今までの亀裂の情報を調査することで、私の元いた世界への帰還に大きく近づくことができる。


 明日の亀裂探索の行き先が私の故郷ならば最高。

 もし、他の亀裂の発生先に私の故郷と思しき情報があったのならば大手柄。

 そしてもし有益な情報が無かったとしても今後発生する亀裂の傾向を知れるという点では、異世界に侵攻する上で大きなアドバンテージになると踏んだ。


 まぁその辺りの事情についても手続きの時に詳しく聞く予定でいる。


 そんなことを考えていると、前を歩いていたフェンが振り返り、沈黙を破るかのように話しかけてきた。


「改めてよろしくな」


「ええ、よろしく」


 差し出されたその手を握り返すと突然、強く腕を引かれ、瞬間的に腰を掴まれ、顎をグイッと彼の方に引き寄せられた。


 うっ。と声を上げる暇もないくらいに彼の顔が目の前に迫る。


「お前の生態、興味深いぞ。ユリアーナ。見たことない魔力の色をしている。とても綺麗だ」


 吐息がかかるくらいの距離で、その獣人は囁いた。


「もっといいケツしてたら俺はお前に惚れてたかもな」


 その予期せぬ行動に、私は一瞬で何が起こったのか理解できずにいた。


 エレシアが間に入って私たちを強引に引き離した。


「冗談だよ。俺は人間の女には興味ないから安心しろ」


 そう言うと、再び前を歩き始めた。

 酒は飲んでいないはずだが、酔っているんじゃないのかこいつは。

最後まで読んで下さり、ありがとうございます!

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