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春の結婚式

ここまで読んで頂きありがとうございます!

やっとここまで来ました!

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 祝福の花があちこちで舞う。

 春のある日、周家の本宅はたくさんのお客様で溢れ返っていた。


 雨月さまは真っ赤な婚礼衣装を着たわたしを見て、呆然としていた。そういえば婚礼衣装の相談は多忙な雨月さまには一切できなかったなぁと思いつつ、彼が蕩けるような笑みで「世界で一番美しいです」と言ってくれたことが、何よりも嬉しかった。


 会場にはわたしの知らない人もたくさんいた。周家のたったひとりの娘の婚礼に、政界からも財界からも多くの人々が集まっていた。その上西国の皇子まで来ていたものだから、招待客たちは仰天していた。周家は外国の皇族まで呼べるのか、と。


「初めまして、陽花殿」

 

 と挨拶してくれた第六皇子は、人に厳しい飛龍お兄さまが認めたというのも頷けるくらい、素敵な人だった。


「しかし残念だな、もっと早くに知り合えてたら、雨月殿に取られる前に僕があなたを花嫁にできたかもしれないのに。噂には聞いていたけど、こんなに美しい人だったなんて」

「ふふふ、ありがとうございます。殿下こそ、とても素敵ですわ。きっとわたしなんかよりずっと素敵な方にお目にかかれましょう」

「いえ、陽花より素敵な人はいませんよ。……殿下、今日は来て下さってありがとうございます。今度は妻も連れて、西国に遊びに行かせて頂きます」


 わたしの目にもはっきりとわかるくらい、第六皇子と雨月さまの間に友情関係があるのを感じた。

 ふふ、わたしもぜひ西国に行ってみたいわね!


 皇子が去り、客人たちとまた挨拶を交わしていると、会場に騒めきが起こった。


「主上!」


 事前に聞いてはいたが、普通は帝がいち官吏の結婚式に足を運ぶなどあり得ない。これも周家の力か、いや曹雨月はそれほどの側近ということか、と皆が囁いた。


 主上が式に来てくれたのはもちろん祝福のためだが、雨月さまの醜聞をふり払う意味もある。結婚式の日取りが決まり結婚の話が公になると、やっぱりわたしが仮初皇后だったことが取り立たされて、側近の略奪婚だという声があがったのだ。


「主上、この度は娘たちの結婚式にご足労頂き、誠にありがとうございます」


 お父さまが挨拶し、わたしと雨月さま、お兄さまたちが続く。主上はとても柔らかな顔をしていた。


「雨月、周陽花、本当に良かったな。おまえたちが再会し、ここまで来るのに、奇しくも俺が一番近くで見守っていた気がする。途中はらはらすることもあったが、祝福するぞ」

「ありがとうございます、主上。わたしこそ、主上にお仕えできて何よりも光栄に思っているのですから、今後ともよろしくお願い致します」

「おお、そうか。なら明日からまた仕事するか?」

「いえ、それは勘弁下さい。明日から数日はお休みを頂く約束です」


 そう言って雨月さまは、隣にいたわたしの腰をふわりと抱くと、甘い瞳で見つめた。すると主上が急に咳払いをする。


「……すまんが、誰か塩を持っていないか」

「それならここに持ってますよ、主上。僭越ながらわたしの指に塩をつけますので、お舐めになりますか?」

「やめろ!自分の指を使うわ!」

 

 と、主上は飛龍お兄さまを見て赤くなっている。

お兄さまの色気は男の人にも効くけど、主上とお兄さまがこんなに砕けた関係だったなんて知らなかったわ!


 そのあとお兄さまたちと主上は、西国の皇子の元へと行った。国同士の積もる話もあるんだろう。


 それからはわざわざ都の結婚式まで来てくれた曹家のご家族や、雨月さまの同期官吏だという人たち、その他祝福に訪れて下さったたくさんの人たちと会った。宴会はいつまでもいつまでも続きそうなくらい、豪華な食事や酒が次々と会場に運ばれ、主役の席にいたわたしと雨月さまはもう目まぐるしかった。

 

 挨拶の列が途切れて、ふうと思わず息を吐いたとき、隣に座る雨月さまに手を握られた。


「……陽花、そろそろ行きましょうか」

「え?」


 悪戯っ子のように笑う雨月さまにきょとんと頭を傾ぐと、手を引かれて宴の会場を出る。そのまま彼が廊下を歩いていくので、わたしは慌てて声をかけた。


「う、雨月さま、どうしたの?」

「宴はこのまま朝まで続きますよ。でも俺たちは新婚ですから、好きにしていいんです。もういいかげんあなたを独り占めしたい。……だめですか?」


 ぴたりと足を止めた雨月さまがこちらを振り返る。切なさの中に情熱を込めた瞳に、わたしは思わず息が止めた。

 

 そ、そんなの、だめなわけないじゃない。


 思わず涙目になって口を尖らせると、雨月さまは小さく笑う。そうしてまたわたしの手を引くと、家の外の馬車に乗せた。



***  



 別宅に着くと、婚礼衣装を外され、湯浴みをさせられる。いつも夜の身支度は翠玉や鈴玉が手伝ってくれるが、今夜彼女たちは結婚式を手伝っているので、別の侍女たちだった。


 どきどきしながらいつもより丁寧に湯浴みをする。湯船には花が散らされ、体を磨かれ、湯上りには香油を塗られる。


 念入りに体を磨かれたこと以外は、普段の入浴とそう変わりはしない。けれども、これから始まることを考えると、心がふわふわして、落ち着かなかった。


 夜の支度ができたので、侍女たちに見送られる。普通は寝室に行くところなのだろうが、わたしはふと、違う場所に足を向けた。


「あ……」


 本がたくさん置かれた勉強部屋には、同じく湯浴みした雨月さまが、月を見ながら窓辺に立っていた。


「陽花」

「ふふ、まさか雨月さまもいるなんて」


 ここは別宅の中でもわたしたちの特別な場所だ。かつては雨月さまでも、この部屋しか立ち入りが許されていなかった。たくさんの本を読み、おじいさまと勉強した場所。幼い彼がわたしに求婚してくれた場所で、記憶を取り戻した彼がもう一度求婚してくれた場所でもある。


「……まだ、信じられないんですよ。あなたにお嫁さんになって欲しいと言ったのは本気でしたけど、本当にそれが現実になるなんて」

「うん……」


 雨月さまは左手で隣に立ったわたしの手を取ると、右手でその甲を大事そうに撫でた。


「もう、俺のお嫁さんなんですよね?」

「ふふ、そうよ。さっき雨月さまのお嫁になったわ。わたしたち……やっと一緒になれたのね」


 やっと。本当にやっとだ。十年の想いが報われた。感無量になって彼を見上げると、ぐいっと体を持ち上げられた。


「きゃっ!う、雨月さま?」


 雨月さまはわたしを抱えて、何も言わずに勉強部屋を出て行く。廊下を歩いた先に何があるかを知っているわたしは、ぎゅっと彼の肩に捕まった。


 寝室の扉が開かれ、寝台の柔らかい生地の上にふわりと仰向けにおろされる。雨月さまはじっとわたしを見下ろしながら、宝物のようにその頬や髪を撫でた。


「俺の陽花。そう、呼んでいいんですよね?」

「……っ」

「もう二度とあなたを離さない」


 灰色がかった彼の瞳に、色が宿る。

 わたしの胸はどきどきして、こんなに近くにいたら心臓の音が雨月さまにも聞こえるんじゃないかと思うほどだった。はじめての不安と緊張で胸が押しつぶされる。同時に、大好きな彼を今まで以上に近く感じて、心から愛しかった。


「うん……離さないで。もう絶対わたしを離さないで」


 雨月さまはわたしの両手を縫いとめて、噛みつくように唇を塞いだ。深く口づけられ、切なさと喜びで胸が苦しくて、息が弾む。


 彼の唇が首筋に、胸におよび、縫いとめていた手は腰に滑り込んでいく。いつの間にか布がはだけられ、お互いの熱い肌に触れる。恥ずかしい……!でもそんな気持ちは、彼を求める自分の心に従っていたらどうでもよくなっていった。


「……!」

「陽花……、あいしてる」


 何度も何度も愛してると言われて、胸の鼓動が止まらない。いろんなところが気持ち良すぎて、体が無意識に反応する。触られる場所全部が熱くて、どろどろに溶けてしまうんじゃないかと思った。


「……あっ」


 ……!


 彼の熱が全身にほとばしる。感じたことのない感覚に、頭がくらくらした。優しく何度も口づけられ、甘やかされ、どうしようもないほど幸せで、何も考えられない。


 彼の背中にしがみつき、二人の間に少しの距離もいらないというように、重なって、絡まる。雨月さまの目はいつもの穏やかな瞳が嘘みたいに、わたしを激しく求めて離さなかった。




 こうして、夜が更けていったことにも、朝が近づいていることにも気づかないまま、わたしたちは長い長い春の夜を堪能したのである。






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