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曹家、ご挨拶①

続きまで読んで頂いて、本当にありがとうございます。

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感想、ブクマもお待ちしています。

 私の名前は曹瑞英(そうずいえい)。地方官吏をしている父に、料理屋を営む母、官吏を目指している弟、そして三年前に結婚した夫がいる。


 今日は久しぶりに曹の実家に行く日だ。叔父の曹雨月が結婚することになり、婚約者を連れて挨拶に来るのである。


 叔父といっても血縁関係はない。十年前、祖父が近くの川で拾った子供を自分の次男にした。彼の年齢は私より三つ下で、弟と言える年齢なのだが、父の家族に余計な負担はかけまいとした祖父の判断だったらしい。


 雨月は拾われた時こそぼろぼろで死にかけていたが、綺麗にされれば女の子のように綺麗な顔をした男の子だった。元々は裕福な家の子供だったのか勉強した形跡があり、祖父が面倒をみてやると、たちまち勉学の才を開花させていった。


 いつの間にか私より背が高く、大人っぽくなり、雨月は家族の贔屓目なしに素敵に成長した。私は一つ屋根の下に住む年下の叔父のことが、好きになった。


 かっこよくて頭が良くて優しい雨月はたちまち近所の女性たちの間で人気になり、私はよく彼女たちの告白の手伝いをさせられたものだ。


 雨月は女性たちにも親切に接していたが、誰の気持ちに応えることもなかった。その度に私はほっとしたけれど、雨月には都の官吏になるという夢があり、いつかはこの家を出ていくつもりだということを知った。そして、そのいつかは思っていた以上に早く来た。


 科挙に向かう彼を送り出す前日、私は雨月の部屋に行った。彼は荷造りの途中だった。


『ねえ、雨月』

『何だい、瑞英姉さん』


 雨月は、親しみを込めた優しい瞳で私を見た。


『もし、もし科挙に受かって都の官吏になったら……。私も一緒に行こうか?』


 これが私の、精一杯の気持ちだった。一緒に行っていい?とは言えなかった。

 雨月はとても驚いた顔をしていた。彼は少し黙っていたが、やがていつもの優しい顔で私に言った。


『ありがとう。でも、俺ひとりで行くよ。しばらくひとりでやってみたいんだ。父さんや兄さん夫婦、もちろん瑞英姉さんや天佑にも感謝してるよ。たまにはここにも帰ってくる。……姉さん、みんなをよろしくね』


 もしかしたら雨月は私の気持ちに気づいていたのかもしれない。よく気がつく人で、聡明で優しい人だ。


 私は結局『わかった、頑張ってね!』と言って、部屋を出た。その日、私は自分の恋が終わったことを悟って、雨月や家族に知られないように布団で口をおさえて泣いた。


 今はもう懐かしい思い出である。



***



「いやー、でもあの伯父貴が結婚するなんてなぁ!相手がどんな人なのか、父さんもまだ聞いてないんだろ?」

「ああ、なんか直接会って紹介したいんだそうだ。気を遣わんでいいと言われたが」

「そんなこと言ったってお茶菓子くらいは用意しなきゃと思ってたんだけど、良かったわぁ、瑞英がお菓子を持ってきてくれて」


 私は雨月が来る二日前から実家に戻っていた。両親も弟も雨月の婚約者について、何も知らないらしい。私たち家族は、謎の婚約者についての話でもちきりだった。


 夫も来る予定だったが急な仕事で来れなくなり、お詫びにと渡されたちょっと高級な菓子がそのまま振る舞われることになりそうだ。

 

「姉さんは伯父貴に会うこと自体、久しぶりだよな?俺たちはちょっと前にも会ったんだけど、伯父貴、まじでかっこよくなってるぜ!しかもあの若さで帝の側近とか、とんだけ優秀なんだよなー」

「ふふふ、天佑。あんたも雨月を見習って頑張るのね」


 私を除く家族は、少し前にも雨月に会っていた。なんでも帰りは大雨の中、予定を早めて帰っていったらしく、婚約者に早く会いたかったんじゃないかと色々な想像がされていた。


 ……私には正直、あの雨月がそこまで情熱的に女性を好きになるところが想像できない。私が知る雨月は皆に優しいが、いつもどこか冷めている人だった。


 ひひん、と馬のいななきが聞こえた。


「おや、来たんじゃないか?」


 父が、玄関に出た。



***



「初めまして、周陽花(しゅうようか)と申します」


 雨月が紹介した婚約者を見ると、私も両親も弟も、ばかみたいにぽかんと口を開けたまま、しばらく固まってしまった。


 雨月はその人の腰を抱いて、まるで宝物を扱うような気遣いをしながら、我々家族を一人ずつ紹介していく。

 

 現れた婚約者は、同じ人間かと思うほどの、ものすごい美少女だった。艶々の黒髪、白い肌に薔薇色の頬、大きな黒い瞳、果実のように熟れた唇。可愛らしい雰囲気の中に、凛とした知性を漂わせる。

 服装は動きやすい格好をしていたが、どう見ても名家のご令嬢だとわかった。


 最初に、母が目を覚ました。


「あ、ああ!いやあね、こんなところにずっと立ってるなんて。ほらあなた、早く二人を中に入れてお茶を出してあげなくちゃ!」

「お、おお、そうだな。瑞英、母さんの手伝いをしておくれ。それと天佑!えっと、この人の座る席に座布団か何か……。し、食卓ももう一度拭き直したほうがいいかもしれないっ」


 父も母もだいぶ焦っていたが、私もかなり焦った。天佑はそれでもまだ動けず、私が何度もこづいてようやく目を覚ました。


 少し申し訳なさそうに「あの、おかまいなく」と言った婚約者の声は、天女か思うほど透き通った声で、天佑がまたもや腰を抜かしそうになる。


 私は「ちょっと何してるのよ!ぼさっとしないで」と弟を引っ叩くことで正気を保った。



***



 ようやく家族が落ち着いたところで、正式に紹介された婚約者は、あの誰もが知っている国いちばんのお金持ち、周家のご令嬢だった!!!


 お金持ちの家の人間は容姿まで金ぴかになるのだろうか。どうやったらこんなに美しい人間が生まれるのか、謎でしかない。そして数年ぶりに会う雨月もまた、さらに男前になっていた。美男美女を絵に描いたような二人である。


 ……ん?ちょっと待って、周家?


 私は思わず、口を出していた。


「あのー、失礼ですが、私の間違いでなければ、雲海帝が最近皇后に迎えられて、しかもそれが犯罪者を捕まえるための偽装工作だったって街で聞いたような……。その皇后が、周家の人だったような……」

「そういえば確かに……」


 と父も言う。帝の結婚は、地方の街でも噂は出ていた。ようやく雲海帝にできたあの周家出身の皇后が、犯罪者を捉えるための囮役だったなんて誰が思っただろうか。


 すると、陽花さんはからりと笑って「はい、それわたしです」と言った。

 ええーーー!!!!!


「じゃ、じゃあ伯父貴、まさか!帝のお后さまを略奪しちゃったのか!?」


 と、焦る天佑。私もまったく同じ想像をしていた。


 雨月は天佑に向かって苦笑し、陽花さんを見た。その表情に、私たち家族は全員「誰だ、この男」と思ったことだろう。


 なにしろ雨月は、もう陽花さんが愛しくて愛しくて仕方がないという顔をしており、声まで甘い。こんな表情は家族の誰も見たことがなく、普段から穏やかな顔をした彼にまだこんな甘い表情ができたのかと思うほどだ。


 そうして雨月から語られた二人の馴れ初めは、衝撃的なものだった。



***



「まさか雨月にそんな過去があったなんてなあ」

「まあまあまあ……!なんて運命なの!そんなことって、あるのねぇ、お二人ともよかったわねぇ」

「陽花さん!あの日の伯父貴、すごい勢いで雨の中都に戻っていったんですよ!俺たちが必死で止めたのに、まさかそんなことがあったなんて、いやもうびっくりだ!さっさと結婚しちまえよ!」


 と、両親と弟には感動の嵐が巻き起こっている。

 ……私もびっくりだ。それで結局、雨月は帝からこの人を勝ち取ったというわけだ。


 照れた雨月の隣で、陽花さんは少し怒りだした。どうして大雨の中、馬で走るなんて無茶をしたんだ、もっと自分を大事にしろと涙目で怒っている。無理もない、彼女は一度、雨の日に雨月を失ったのだから。


 そんな陽花さんに、雨月は少し申し訳なさそうに「すみません」と言って、彼女の頬を撫でる。その動作があんまりにも甘くて、驚いた。


「でも、あの時飛び出してなければあなたを逃すところでしたよ。とっくに旅立ってしまっていたでしょう?」

「それはそうだけど、いくらなんでも危険すぎるわ」

「大丈夫、俺は昔と違って馬の操作も、身を守ることもできますから。まあ例えあなたが旅立っていても、追いかけるつもりでしたが」


 雨月と陽花さんは、完全に二人の世界に入っていた。


「えっと、母さん?悪いんだけど、俺に塩くれない?めちゃくちゃ舐めたい気分なんだ」


 天佑の言葉に、私も、きっと両親も、完全に同意だったと思う。

 顔合わせもひと段落ついたので、わたしと母は夕食の準備を始めることにした。



***



「お夕食の準備、わたしも手伝います」


 いやいやいや!周家のお嬢さま、帝の皇后にもなれるくらい偉いお嬢さまに、我が家の夕食の手伝いなんてさせられるわけがない!

 ただでさえこんな夕食でいいのかと、家族全員ふるえているくらいなのだ。


「い、いえ!陽花さんは座ってて下さい!」


 と私は言ったが、陽花さんはきょとんとした。しまった!陽花さんではなく、陽花さまと呼ばなければならなかっただろうか。


 しかし彼女はにこりと微笑んだ。む、無理、なにこの可愛い生き物は。


「そんなに気を遣わないで下さい。わたしのほうこそ、これから曹家の皆さんに家族と思って頂きたいのですから」

「か、かぞく、ですか?」

「もちろんですわ。それにわたし、料理もするんです。だから何を任せてもらっても、少しは手伝えるかと思います」

「で、でも」


 迷っていたら、母がやってきた。


「まあまあ、陽花さんお手伝いしてくださるんですか?」

「ええ、もちろんですわ。えっと……あら?」


 急に陽花さんは可愛らしい手を頬に当てた。


「そういえば呼び方をどうしましょうか。雨月さまはお二人のことお姉さまとお呼びしてますけど、お二人は親子ですものね。二人ともお義姉(ねえ)さま、になるわ……」


 陽花さんの発言に、私と母は思わず顔を見合わせ、ぷっと吹き出してしまった。


「そういえば雨月さんが結婚した時に、お嫁さんになんて呼ばれるかなんて考えてなかったわねぇ。私のことは(しん)さんでいいですよ。瑞英(ずいえい)はどうする?」


 と母に聞かれて、私は陽花さんを見た。見た目は可愛らしいお嬢さまだが、過去の話を聞いて、彼女が心根まで素晴らしく、芯の強い方だとわかる。あの雨月が惚れ込んだ人。


 ……なるほどね、私なんかじゃ、雨月に見向きもされなかったわけだ。


 私は昔の自分に苦笑し、彼の選んだ人が自分の想像をあまりに超えてきた人だったので、もはやこの事態が面白くなってしまった。なので。


「あの、陽花さんが良ければ、私のことはぜひ姉とお呼び下さい!」

「まあ、嬉しいわ。わたし、兄は二人いるんですけど姉はいないので、こんな素敵な姉ができて嬉しいです!よろしくお願いしますね、瑞英(ずいえい)義姉(ねえ)さま!」


 この日、私と陽花さんは義姉妹の関係を結んだ。


 陽花さんは、見た目だけじゃなく、中身までとても素敵な人だった。



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