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止まらない溺愛

番外編というか続編を書き始めました。甘くなる予定です。

引き続きブクマ、星評価、感想よろしくお願いします。


 今日は雨月さまのお休みの日だ。


 想いを確かめ合ってからのわたしたちは、子供の頃のように一緒に街に出かけるようになった。だけど一つだけ、子供の頃と大きく違うことがある。

 この日も街に出かけたあとで別宅に寄ったのだが、やっぱり違った。


 休憩室に入るなり、背後でぱたんと扉が閉められる。

 すると、すぐに後ろから雨月さまにきつく抱きしめられ、わたしはもう身動きがとれなくなった。


「陽花……」


 熱っぽい声を出す雨月さまに、わたしの顎がぐっと持ち上げられると、あっという間に唇が塞がれる。


「んっ……」


 そのまま体ごと捕らえられて長椅子まで運ばれ、雨月さまに膝抱きにされる形で座らせられ、長い口づけが始まる。


「……は」


 こ、呼吸が、もたない……!


 舌ごともっていかれ、息もうまく継げず、ふっと唇が離れた瞬間に息を吸うとまた唇をむさぼられる。

 そんな行為がしばらく続いてやっと離してもらえる頃には、わたしの顔は真っ赤になっていた。


「はあ、はあ」


 わたしを抱きかかえる雨月さまを涙目で見上げると、熱をおびた瞳がすぐ近くにあって。

 もう一度、今度は祈るように優しく口づけられる。そして抱きつぶされるんじゃないかと思うほど、雨月さまはまるでわたしの体の全て取り込むように、強く抱きしめるのだった。


 わたしは彼のぬくもりと匂いにつつまれてどきどきしたが、同時にこの腕の中にいればもう何も怖くないと思えるほどの安らぎを感じる。

 ようやく雨月さまがわたしの肩からゆっくりと顔を上げたので、わたしはその瞳を覗き込んだ。


「雨月さま……。大丈夫?」


 わたしが心配そうに聞くと、切なげな眼差しで頬を撫でられた。彼の怖いほど真っ直ぐな瞳に、わたしの姿が映る。


「陽花。俺はあなたが想像もつかないくらい、あなたのことを愛していますよ。俺がどれだけあなたを愛しているか、きっとあなたもわかってない」

「ふふ、雨月さまったら」


 そう言ってわたしはすり、と雨月さまの首元に頭を擦りつけた。彼はまたわたしの存在を強く確かめるようにきつく抱きしめると、


「早く結婚したい……。あなたの顔を毎日見たい」


 と、呟くのだった。



***



 あの一か月間の罰のあと、雨月さまが主上に解放された日。


『俺は陽花を忘れてこの十年、どうやって生きてきたんでしょう。あなたとの時間を十年も失ったことが悔やまれてならない。それに、あなたに好かれてることが今でも夢に思える時があるんです。陽花、どうか俺を捨てないで下さいね。あなただけを愛しているんです。あなたの愛がなければ俺はもう生きていけない』


 別宅の寝室で横になった雨月さまは、わたしに向かって必死に語りかけると、眠りながらわたしの手を離さなかった。


 雨月さまはわたしに関する記憶を取り戻したばかりなので、やはり戸惑いも大きいらしい。わたしは彼のことが十年も好きだったわけだが、彼の中では十年分のわたしへの愛が一気に爆発しているようだ。


 後宮にいた頃、主上に『その好きな人とやらは、そなたがそこまで愛するほど、そなたのことを愛していたのか』と聞かれて、疑念に駆られたことがあった。


 今なら断言できる、雨月さまもちゃんとわたしのことを愛してくれていたと。

 ……こんな姿を見ていたら思わざるを得ない。

 

 ただし、彼の愛情表現は成長して大人になっているわけで、わたしは自分でも恐ろしい程にどろどろに甘やかされ、溺愛される日々を送っているのだった。

 


***



「ねえお父さま、飛龍お兄さまはまだ帰ってこれない?」

「うーん、飛龍が西に出張に出てもう半年になるんだけどねぇ。手紙のやりとりはしてるから、陽花の結婚のことも知ってるし、じきに帰ってくると思うんだけど」

「……早く結婚しないと、雨月さまがもたない気がして」


 怪訝な顔をするお父さまだが、こっちは切実だ。雨月さまのお休みは週に一度か二度だが、普段から残業も多く、休み返上で働くこともある。


 休みの日くらいゆっくり家で休んでほしいと言っても、わたしに会えないと不安で眠れないからと言って、朝早くわたしに会いにくる。

 

 二週間前に雨月さまのご家族のところにも挨拶に行ってきたところだ。あと両家の家族で結婚の報告をしていないのは、出張から全然帰ってこない飛龍お兄さまだけである。


 結婚にあたり、雨月さまは独身寮に住んでいるので二人で住む家が必要になるが、そこは色々と話し合った結果、わたしの別宅に住むことにした。


 別宅と言っても普通の名家の屋敷くらいの規模なので、十分だと思う。というか、これでも周家の別宅の中では小さいくらい。数多くの別宅を都にも地方にも所有しているのが周家なのだ。


 結婚式の準備については、わたしと雨月さま以上に、お父さまと宇航お兄さま、翠玉と鈴玉が張り切って進めている。わたしは死んだと思っていた雨月さまと再会できたことに胸がいっぱいで、一緒になれればなんでもいいと思っているのだが、そうも言っていられないのが周家だ。名家は本当にめんどくさい!


「飛龍お兄さまが来ないと結婚式の日取りが決められないわ。もしかして、わたしを結婚させないために戻るのを渋ってるんじゃないでしょうね?」

 

 飛龍お兄さまもわたしを相当可愛がっているので、急に結婚と言われてショックを受けているかもしれない。ちなみにわたしが雲海帝の仮初皇后になった時は、お父さまが飛龍お兄さまがショック死する可能性を危惧し、わたしの後宮入りを伝えなかったそうだ。


「そんなに早く結婚したいかい?いやあ、ずっとお父さまやお兄さまたちと家にいると言ってた頃が懐かしいな。ついこの間のことなのに」

「そ、そりゃあね。お父さまには急に見えるかもしれないけど、わたしはずっと好きだったから急じゃないわけで……」


 もごもごと答えるわたしを、お父さまは微笑ましいような、呆れたような顔で見ていた。



***



「雨月、実は頼みがあるんだが」

「なんでしょう」


 雲海帝は、執務室に書類を持ってきた雨月におもむろに話しかけた。


「周陽花を後宮に招きたい」


 そう言った瞬間、雨月の顔が固まった。雨月は元々冗談もわかるやつなのだが、周陽花のことではかなり鈍くなる。余裕がなくなる。


 雲海帝は雨月の変貌ぶりに内心かなり驚いているのだが、これが恋というやつか、と良い観察対象にさせてもらっている。

 雲海帝はくくっと笑った。


「誤解するな、特例だが四夫人の話し相手に招きたいんだ。かなり寂しがっているのでな」


 それを聞いて雨月はあからさまにほっとした顔をしたので、ちょっとからかいたくなった。


「別に後宮にそのまま入ってもらってもかまわんのだぞ」

「それだけは主上の命でも聞けませんね。陽花は俺の命なので。愛しすぎて死にそうなんですよ」


 雨月はさらりとそう言って、自分の主人に笑みを向けた。


 ここまでくれば雨月も雲海帝の冗談に気づいているわけだが、返しが溺愛すぎて帝の眉もぴくりと動く。


 雨月は容姿もすこぶる良いのにこれまで女と噂が立ったことはなく、帝と比べて柔らかい顔立ちをしているので、かつては官吏たちの間で、帝と側近の禁断愛が囁かれたくらいだ。……あほらしい、すぐに握り潰してやったが。


 その男が今やこうも女に骨抜きとは。

 まあ記憶がなかっただけで、雨月の話を聞けば、彼が元々どれだけ周陽花を愛していたのかわかる。


 周陽花に皇后になれと言った時、十年前に死んだ初恋の相手が忘れられないと言われてその愛の深さに驚いたものだ。だが、今となっては周陽花よりも雨月の愛のほうが大きいんじゃないかと思うときがある。


 周陽花は雨月が死んでも生きていたが、雨月は彼女が死んだら後を追って死ぬかもしれない。

 正直、ものすごく愛が重い。たくさんの妃に平等に接することができる雲海帝には、重すぎる。


 雲海帝は軽く咳払いをした。


「日取りの設定は任せる。よろしく頼む」

「わかりました。早速陽花に伝えますので、今日は残業せず早めに帰らせてもらいますね」


 ……しまった。

 雨月に早く帰る口実を与えたしまったらしい。

 雲海帝は呆れた顔で側近を見送った。



***



「え!わたしが後宮に?」


 平日にも関わらず、珍しく夜に雨月さまが周家を訪れた。

 翠玉が用意したお茶とお菓子を前に、わたしの部屋で横並びに座っている。


「ええ、四夫人の話し相手に。どうですか?」

「もちろん行くわ!皆さんとはお手紙のやり取りしかできてなかったから、久しぶりに会うのが楽しみねー」


 わたしは満面の笑みですぐに返事をした。


「わたしはいつでも空いてるから、日取りは雨月さまにお任せするわ」

「ありがとう。また決まったら連絡しますよ」

「ええ!ふふ、でも今日は嬉しい。平日に雨月さまに会えるなんて、なんか主上から贈り物をもらったみたいね」


 わたしがそう言うと、雨月さまは少し瞠目して、どこまでも優しげな目でわたしを見つめた。


「俺もそう思いますよ。これで今週も仕事に励めそうだ」

 

 と、彼は言うけれど。


 あれ……?


 どうしたんだろう。いつもならこの流れ、わたしを押し倒す勢いで口づけの雨が降るか、抱擁されるところだ。わたしは思わず目を丸くした。


「う、雨月さま、その、いつもの、しなくていいの?」

「?いつものって?」

「だ、だから、その」


 じ、自分でそれを言うのは恥ずかしい。

 でも、本当はわたしだって雨月さまといちゃいちゃしたいし、触れたいんだもの!


 わたしはぎゅっと隣に座る雨月さまの服を握った。

 雨月さまは不思議そうな顔をしている。


「陽花?」

「だ、だから!わたしに、その、触れなくていいのかなって」

「……」

「せ、せっかく来てくれたから、わ、わたしも、雨月さまに触れたいなって、思ったんだけど……」


 は、恥ずかしい。猛烈に恥ずかしい。

 言ってしまってから雨月さまの顔がまともに見られず、疲れてるのかもしれないのに、とか、軽い女だと見られたらどうしよう、とかいまさら考えていると。


 すっと頬に手が当てられて、次の瞬間にはもう、雨月さまに噛みつくように唇を奪われていた。


「んっ」


 繰り返される口づけはやっぱり情熱が止まらなくて、わたしは必死に雨月さまにしがみついたけれど、受け止めきれるかわからない。頭が真っ白になって何も考えられない。


 やっと唇が離され、息を吐いたら、今度は雨月さまに両手で頬を挟まれた。わたしは胸がぎゅっと苦しくなった。死んだ彼を想っていた頃の苦しみとは違う、生きている彼への溢れんばかりの愛しさで。


「……俺の気も知らないでそんな可愛いことを言うなんて、反則すぎる」

「え……?」

「ここはあなたの実家だから我慢してたのに。それに夜だから……。俺だって触れたいに決まってるでしょう?止まらなかったらどうするんですか」


 と、止まらなかったらって……。

 そうだったのね。申し訳ないことをしちゃったわ。


 雨月さまはわたしの唇を親指でなぞる。そうしてまた、結局止められないのだというように、わたしに口づけた。そのまま唇が頬に、さらに首筋にと及ぼうとしたので、わたしは彼の胸をおさえて慌てて止めた。


「ご、ごめんなさいね、あなたの気も知らずに」

「本当ですよ」


 と拗ねている口調でも、目元はひたすら優しい。


 彼がわたしのことを心から望んでくれているのは、この溺愛ぶりでよくわかっている。これでもかなり我慢してくれていて、ちゃんと無事に結婚するまではと、わたしと家族に気を遣ってくれていることも。


 わたしは嬉しくなって、ふふ、と笑った。


「ねえ、雨月さま」

「はい」

「早く結婚したいわねえ」

 

 今夜、飛龍お兄さまに手紙を書こう。


 お兄さま。もう待てないから、早く戻ってこないと可愛い妹が結婚しちゃうわよ?

 




次回、雨月の実家、曹家での顔合わせ編です!

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