44. 夕暮れの回想
ここまで読んでくださりありがとうございます!
クライマックス残り6話です。番外編も書こうかな~と悩み中。
ブックマーク、感想、星評価お待ちしています。特に感想をぜひ、励みになります。
『少しひとりにしてちょうだい』
一緒に旅に出る鈴玉にそう言って、わたしはもうずっと空を見上げながらここに座っていた。
さっきまで青空が見えていたが、今は夕暮れだ。太陽はもう隠れてしまったので、まもなく夜がやってくる。
夜中の移動は危険なので、この後は都の郊外にある宿に一泊する。まだ周家にも十分帰れる距離だが、今日発つと決めたのだから何が何でも家には帰りたくなかった。
本当はもう都を出ているはずだったのに、崖の墓に立ち寄って思った以上の時間を使ってしまった。その上ここで数時間もぼーっとしてるんだから、情けないわぇ。
今日で、わたしの初恋とさよならすると決めた。昨日主上にはちゃんと答えを出し、思った通り彼はわたしを解放してくれた。
約束は守る、良い帝だ。願わくば妃たちだけでなく、主上にも幸せになってもらいたい。わたしが抜けたことでこれからまたちょっと荒れるかもしれないけど、自分の奥さんたちの話なんだからそれくらいは頑張ってもらおう。
きっと主上は恋をしたことがない。だからこそ四夫人にも分け隔てなく寵愛を与えられているのはいいことだが、やっぱり恋はいいものだ。主上が心から愛し、そばにいたいと思う人に皇后になってもらいたい。
わたしにとって、雨はそんな人だった。身分の差なんか全然気にならないくらい、どこまでも優しく、素敵な人だった。絶対彼のほうが苦労するだろうに、わたしに結婚を申し込んでくれて、命を張ってわたしを助けてくれた。
だから出会わなければよかったなんて思っていない。例えわたしのことを恨んでいても、憎んでいても、もうなんとも思っていなくても、わたしの初恋は素敵な恋だった。
そろそろ行かなくちゃね。どこに行こうか?
いつか雨と駆け落ちするかもしれないと思って始めようとした乗馬は、雨が死んだあとに始めた。もう乗馬をする意味はないのかもしれないと思ったけど、馬に乗って風をきる感覚が大好きで、普通に趣味になった。
夏姫さまには言わなかったけど、舞の稽古の差し入れには、雪麗さまが作った料理ばかり持っていったわけじゃない。時々わたしも料理を作っていた。
料理も、雨のために習い始めたものだ。周家の料理長に、はらはらされながら包丁を持たされたのはいい思い出だ。
こう考えると、わたしは雨が死んだ後も、雨のおかげで楽しい日々を過ごせていた。勉強も続けたし、楽器もやった。残念ながら裁縫だけは全然上達しなかったけれど。……春蘭さまが羨ましい。
わたしはゆっくりと椅子から立ち上がった。
あの日、雨にお嫁さんになってほしいと言われた場所で。
すると、ことんと背後で音がしてはっとする。
ここは悪い奴らが入ってきたことでも苦い思い出のある場所だったので、わたしは懐に忍ばせた短剣に手を伸ばした。
……え?
「……どうして」
そこにいたのは、わたしの初恋の人。
曹雨月だった。




