39. 最期の瞬間
『出ろ!』
鍵が開けられ、わたしと雨は小屋の外に出された。かなり長い時間、小屋に閉じ込められていた。雨脚は強まり、辺りはもうすっかり暗くなっている。
そして気づいたが、ここは大きな川のそばだ。崖が見える。こんなに大きな川は都から繋がっている川で、おそらく周囲の様子からここは都の郊外なのだろう。
鬱蒼とした山が、辺りを覆い尽くしている。
『……っ!お父さま!』
視界の少し先に、お父さまがいるのが見えた。一人でいるのだろうか、こんな危ないやつら相手に。
しかしお父さまはいつもと変わらない調子で。
『やあ陽花、待たせて悪かったね』
と爽やかに笑った。黒服の男たちはあっけに取られているようだが、わたしにはわかる。この顔はめちゃくちゃ怒っている時の顔だ。雷より怖い罰がこいつらに下る。
『のんきに構えてるが、本当に一人で来たんだな』
『ああ』
『ではおまえと帝が捕まえた、コウエツさまを解放しろ』
『あいつはもう死んだ。生きていない』
黒服の男たちの動きが止まった。
『嘘だ!知らせをもらった。早く助けに来いと』
『それは誰かの罠じゃないかな?そもそも罪を犯して捕まえたやつを、解放するわけないだろう』
『いいのか?そんな言い方して。娘を崖から突き落とすぞ』
男の一人がじりじりとわたしを連れて崖の方へ向かった。
雨は別の男に捕まったまま、じっとお父さまを見つめている。
しかし、わたしがそれ以上崖に向かって進むことはなかった。どこからかやってきた別の黒服の人が、わたしを掴んでいた男を襲い、敵の男は昏倒した。
『なに!?くそ、やられた!』
そして二人の男が慌ててこちらに向かってくる。しかしわたしを助けた人は、すごい速さでその二人を叩きのめした。
残るは小屋の前で雨を捕らえている男だけだ。
『く、くそう……!こいつがどうなってもいいのか』
雨をとらえた男は短刀を振り回しながら、その人を警戒した。が、次の瞬間、なんと男が抱えていた雨が男の腹と顎下に一撃を喰らわせたのだ。そして男が倒れると、「陽花!」と言って、走ってわたしのところに来た。
『あ、雨……。どうして、い、いま、なぐっ』
『ああ、縛られてた縄なら自分で解いた。縛られた時に後から解けるように細工をね』
ど、どんな細工?でも、とにかく無事でよかった!
『そうだわ、お父さま』
少し離れたところで、お父さまとさっき自分を助けてくれた黒服の人が話している。お父さまの作戦だったのだわ。
わたしたち、助かったのね……!
わたしは安堵して、雨と顔を見合わせた。
そしてお父さまがわたしに駆け寄ろうとしているのがわかった、次の瞬間。
どおん!と光と共にものすごい衝撃が走った。次いでバキバキバキっと木が倒れる音と、何かとてつもないものが近づいてくる音がする。
……とにかく逃げなければ。わたしは雨に手を取られて立ち上がろうとするが、恐怖で足が動かない。
次の瞬間、山の方から大量の土砂が迫っていた。「陽花!」と雨の声が聞こえる。
すると、わたしの体が投げ飛ばされた。体が地面に叩きつけられる。思わず一瞬目をつむって、目を開けた瞬間。
目の前で、土砂に押しつぶされ、崖の地面が崩れて、人が落ちていくのが見える。信じられない、信じたくない。
『あ……あ……あめ……あめ、雨!!!!!いや、いや、いやああああ!!!!!』
急いで崖のほうに駆け寄ろうとしたわたしの体を、誰かが抱えて走り出す。崖からすごい勢いで離れていく。
それでも、先ほどの光景が頭から離れない。離れるわけがない。さっきわたしを投げ飛ばしたのは雨だった。迫り来る土砂から、わたしを庇ってくれたのだ!
足場を失った雨は、崖下に転落していった。




