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20. 再びの頭痛

「でもまあ、これで純妃も捕まったのでしょう?良かったじゃない」

「陽花さま!」


 鈴玉がなおも怒っている。


「わたしは無事だったし、いいのよ。もし主上や雨月さまが想定していた通りに夏姫さまが襲われても、きっと大丈夫だったはずよ。だって春蘭さまも雪麗さまもこれまで無事だったんだもの」

「どこが、よかったんですか?」


 怒気を孕んだ声を発したのは、雨月さまだった。


「あなたは私の不注意で死ぬところでした。全て鈴玉殿のおっしゃる通りです、いいわけない。私はどんな罰でも受けるつもりです」

「雨月さま」

「翠玉殿にあなたが毒に倒れたと聞いて、あなたが苦しんでいるのを見た時、私がどんな気持ちだったか……!なんて失敗をしたのだと己の無能さを呪い、あなたにもしもの事があったらと怖くてたまらなかった。医者を呼ぶと言っても、あなたはまだ呼ぶなと言う。あなたという人は本当に……!」


 そこまで言って、雨月さまは「うっ」と呻いて頭を抱えた。わたしは慌てて駆け寄ったが、まさかと理由に思い当たる。


「雨月さま、もしかしてまた頭痛ですか?」

「……っ、大丈夫です。気にしないで下さい」

「いや、気にしますよ!さぁ、ここで横になって下さい」

「……っ!いえ、ここにいるとむしろ……」


 辛そうに言ったあとで、彼ははっとしていたがもう遅い。


 ここにいるとむしろ、頭痛がする?わたしのせいで?

 

 そんなにわたしのことが嫌いなのか。すっと心の中が冷えていく感覚だった。


 そうね。わたしにもしものことがあったら、あなたは責任を取って、周家も敵に回して、今の地位を失うところだったかもね。若くして帝の側近にまで登り詰めたのに、失うものの大きさに恐怖したわよね。


 どうしてかしら、当たり前のことなのに。わたしは目から涙を流している。


 雨月さまはわたしの涙に気づき、慌てて何かを言おうとしていたが、もうどうでもいい。わたしは彼の顔を見たくなくて、くるりと背を向けた。


「犯人捜索、ご苦労さまでした。もうさがって、体を休めて下さい」

  


***



 ……雨か。どうやら外は雨が降っているらしい。


 皇后宮から仮眠室に直行したが、少し寝てしまっていたようだ。雨月はぼんやりと目を覚ました。


 周皇后を泣かせてしまった。泣き顔を思い出すと、また頭痛がする。その上胸まで痛くなるから、本当に病気なのかもしれない。


 こんなはずじゃなかった。謝るのは自分のほうで、純妃の件を知らなかった皇后を勝手に危険にさらした。その上皇后を傷つけ、さらに自分の罪が増えてしまった。嫌われていると思ったかもしれない。


 雨月にはもう確信があった。それは、雲海帝の皇后には誰よりもあの周陽花という女性が相応しいということだ。 


 園遊会で毒を盛られたときの彼女の毅然とした対応は、いくら無用な混乱を避けるためとはいえ普通できることじゃない。周浩然の娘はやはり只者ではなかった。

 

 好きな人が忘れられないから皇后になれない代わりに、誰が皇后にふさわしいか見極める?


 これほどの人材を逃す手はない。雲海帝も雨月も、このまま彼女には皇后でいてもらうつもりだった。


 なのに、死んでしまった男がまだ好きだという彼女はいつまでも意見を変えることはなく、いつの間にか四夫人たちの心も掴んでいた。


 どうして周陽花はこんなにも魅力的なのだろうか。なのに自分は、彼女のことを考えると頭痛がする。自分はなにか、とても大切な事がわかっていない気がする。


「本当に、嫌いなわけじゃ、ないんです……」


 雨月はさっき皇后に伝えたかったことを静かに呟くと、ひどい頭痛に悩まされたまま、寝台の上で気を失った。

 


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