15. お父さまとの再会
園遊会当日になった。本当に皇后になるつもりはさらさらないが、帝の園遊会の素晴らしさはお父さまやお兄さまに聞いたことがあったので、思いがけず参加できてわたしも興奮していた。
わたしが提案した『胡蝶』による例の演目もある。企画者としてもどきどきだ。
わたしの席は主上の隣だった。四夫人たちは舞台に出る夏姫さまを除き、既に参列している。わたしが三人に手を振ったら、三人共にこやかに手を振り返してくれた。主上がじとっとした目でわたしを見たが、気にしない、気にしない。
「皇后よ、そなたは随分四夫人たちと仲を深めたようだな」
「え?おほほ、主上のお望み通りでございましょう?」
「……まあそうだが。皇后は俺との仲ももっと深めてくれてもいいと思うんだがな」
「まあまあ。さ、主上、出番ですよ」
主上が園遊会開催の辞を述べると、宮廷楽師による演奏が始まった。参列する貴族や妃たちの前にはこれでもかと贅沢な宮廷料理と酒類が並べられ、あっという間に宴の雰囲気になる。そして雲海帝の皇后になった周家の娘であるわたしには、多くの視線が集まっていることも肌で感じていた。
大臣たちと有力貴族たちが主上とわたしの元に挨拶に訪れる。「主上がこのように美しい皇后を迎えられたとは何とめでたいこと」「周皇后の美貌はこの国の宝でございますな」「これで我が国の後宮も安泰。主上の御世はますます栄華を極めること必然ですな」……などなど、賛辞が次々と送られる。そんな中。
「やあ陽花」
のんびりとわたしに声をかけたのは、お父さまだった。
「お父さま!」
「周浩然。遅かったな」
「それはもう。娘が皇后になったので、私の所にも貴族たちがこぞって挨拶に来て大変だったんですよ。埒が明かないので息子に任せてきました」
後宮に入ってから一度もお父さまに会っていなかったので、わたしは思わず目を潤ませた。
「元気にしてるかい、陽花。主上からおまえが頑張っているとは聞いてるけどね」
「ええ。翠玉も鈴玉もいるし大丈夫よ」
「皇后よ。そこは嘘でも俺に良くしてもらっていると言うべきではないのか?」
「ははは。私の教育が至らずすみませんね主上。この子は昔から素直な子でして」
と、和やかな会話を繰り広げると、お父さまはふっと真顔になった。
「陽花。おまえ、本当にこれでいいのかい?」
お父さまが何を言いたいのかはわかった。わたしの目下の課題は、後宮の秩序を正し、皇后に相応しい人物を見極めること。それが終われば皇后位から退き、実家に戻る。……例え、出戻り皇后に二度と結婚の望みがなくとも。
「ごめんなさい、お父さま。お父さまやお兄さまたちの立場まで脅かしちゃう……?」
位を退く時は、未知の病にかかってとても皇后の仕事を務められなくなったとか、精神を患って狂ったとか、理由を作るつもりだ。だが皇后が出戻るとなれば、どうしても悪い噂が広まるだろう。周家にどのくらい影響力のある醜聞になるか。
「そんな事で貶められるような家ではないよ。何とかなるさ」
お父さまが笑ってそう言うってことは、きっと何か手を回してわたしを守るつもりなのね。
元々主上が勅命を出してまでわたしを皇后にという話だった。頑なに断らず、妥協して協力すると申し出たのだから、多少の善処はしてもらいたい。
「しかし、おまえのこんな姿を見たら、亡くなったおまえのお母さまと結婚した時を思い出すよ」
そう言って目頭を押さえるお父さまは、今でもお母さまが大好きだ。わたしはお母さまのことをあまり覚えていないが、お父さまとお兄さまたちが話してくれるお母さまは、とても素敵な人だった。
「そう?わたし、お母さまみたいにはとてもなれないと思うけど」
「お母さまと同じくらい綺麗だよ。ここにいるどんな姫よりも美しい。おまえは賢いし、男なら立派な官吏にもなれただろう。ずっと隠していたのに主上に見つかってしまったな」
お父さまは、はははと爽やかに笑う。
確かにね。でも、初恋が未だに忘れられなくて、結婚に消極的だったわたしがまさか一時でも誰かの妻になるなんて思いもしなかった。
「大丈夫よお父さま。お父さまやお兄さまたちと同じように、主上には心を込めて尽くすわ。それで、うちに帰ったら、またよろしくね」
主上はわたしに何かを言おうとしたけれど、「主上、例の演目が始まります」と後ろで控えていた雨月さまの声がした。
雨月さまとは、先日書庫で別れて以来会っていなかったが、正直まだ気まずい。どうしてわたしが嫌われてしまったのかも、結局わからずじまいだ。
そして大勢の拍手に迎えられ、『胡蝶』の舞姫たちが颯爽と舞台に現れた。




