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14. 冷たい態度

「順調に進んでますか?」

「ええ、順調ですよ」


 書庫で、雨月さまに会った。雨月さまに会う時は勝手に人払いがされてある。


「園遊会の夏姫妃の出し物について、周皇后のご提案で変更があるとか」

「ええ。主上が気に入るかはわからない演目ですが、健全な後宮づくりには一役買うかなと」

「どういう意味です?」

「それは見てのお楽しみです。期待通りにいけばいいんですけど」

「……わかりました」


 そう言って雨月さまは、ふいっとわたしから離れた。


 最近ずっとこんな調子だ。必要な協力は雨月さまを通してお願いしているのだが、最近の彼はわたしとは目もあわさないし、極力顔も見ないようにしている。後宮に来たばかりの頃は彼の方からにこにこと笑顔で近づいてきたのに、最近は額に皺をよせていることが多い。


 わたしへの態度もそっけなく、冷たい。雨月さまはわたしのことをかなり評価してくれて、主上の正式な皇后にと思って下さっているらしいが、これが皇后にしたい相手に対するものだろうか?


 わたしは、訳がわからない理由でこういう態度を取られるのは嫌いだ。


「あの、雨月さま」


 窓辺に佇む雨月さまのところに、ぐいっと近寄った。

 彼はわたしを見てびくっとしている。……何よ、その態度。


「……雨月さまは、わたしのことがお嫌いなんですか?」


 雨月さまは、目を見開いてわたしを見た。


「最近、わたしを避けていらっしゃいますよね?お願いしたことは全部やって下さっているので黙ってましたが、わたしは何か雨月さまのご気分を害することをしましたか?」

「いや、それは……」


 慌てて何か言おうとしたところで、彼はまた一瞬顔をしかめて視線をそらした。


「……顔も見たくないほど、わたしが苦手なんですか?」

 

 わたしは、無性に腹が立っていた。昨日、宮廷内の情報を探ってくれている鈴玉から聞いて知ったのだが、どうやら主上がわたしのところに通うようになったのは雨月さまの提案だったらしい。


 別に、後宮問題に頭を悩ませる主上のため、優秀な側近の彼がわたしを利用したいと思うことは普通だし、異論はない。週に一度、少し主上と話す時間を作るだけで無体なまねもされてない。


 でもわたしは何度も雨月さまに、自分には好きな人がいるのだと言った。この人はわたしの気持ちをちっともわかっていない。わかろうとしない。それが悔しい。


「……なんでもありません。もちろん、周皇后を嫌ってもいません。そんなまさか」

「だったら最近の態度は何なんですか?」


 わたしは雨月さまを睨みつけた。

 すると、彼は観念したように顔を背けたまま、口を開いた。


「……最近、頭痛がするんです。それがなぜか、あなたといる時に起こるんです。そのせいです」

「頭痛?」


 わたしはそれを聞いて焦った。体調不良?

 しかもわたしと一緒にいる時に?


「だ、大丈夫なんですか?」

「大丈夫です。主上といる時は起こらないので、仕事に差し障りはありません。……周皇后には、失礼な態度を取ってしまい誠に申し訳ありませんでした。私の方こそ周皇后の気分を害してしまって」

「そ、それなら早く、お医者さまに見てもらったほうが……」


 早くいきましょう、そう思って彼の腕を掴んだら。

 雨月さまは怯えたような顔をして、わたしの腕をぱしっと払いのけた。

 

「あ……」


 雨月さまが、自分のしたことに青ざめる。わたしは驚愕で呆然としてしまい、少しの間動けなかった。


 今のは反射反応だ。触られて嫌だったということだ。

 彼はいつの間にこんなにわたしのことが苦手になってしまったのだろう。本当に頭痛がするのだとしても、こんな風に人を避ける理由にはならない。わたしに会うと頭が痛いのは、そこまでわたしが彼を悩ませているということだろうか。


 最近、雨月さまの顔がどことなく彼に似ているなと思い始めたことも、理由の一つかもしれない。

 彼も少し灰色がかった優しい瞳をした人だったし、雰囲気が似ているのだ。


 そんな理由は完全に個人的なものだというのに、雨月さまの反応にわたしは傷ついた。

 そして傷ついた気持ちを隠すために、雨月さまにくるりと背を向けた。


「勝手に触ってすみません。お大事になさってください」


 借りる予定だった本を携えて、書庫を出る。

 園遊会は来週だ。それまでもう彼に会うこともないだろう。







 










 


 


 



 

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