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12. 秘密の演目

「まあなんて素晴らしい刺繍なの!これ、鳳凰ですわね」

「ええ。喜んで頂き光栄ですわ、陽花さま!」


 今日は春蘭さまとの茶会の日だ。刺繍の依頼をしてから春蘭さまは既にいくつかの刺繍作品を作り上げた。まだまだ作ってくれそうで、こんな図案はどうか、こんな色はどうかと色々と相談するうちに彼女とはすっかり仲良くなり、彼女もわたしを名前で呼ぶようになった。


「春蘭さま、久しぶりに刺繍をしてみてどうですか?」

「もう最高ですわ、陽花さま!図案を考えるのも、色を考えるのも、針を刺すのも。実家にいた頃を思い出しました。私は正直……後宮に来て良いことは何もなかったので」


 そう言った春蘭さまははっと口を噤む。確かに軽率だが、気持ちはわかっているから、わたしは安心させるように微笑んだ。

 ふふ、わたしはそんなあなたを助けに来たのよ!


「わたしの前では遠慮しないで頂戴。あなたの気持ちも良くわかるわ。主上の寵を頂いて四夫人に召し上げられても、それがあなた自身の幸せに繋がっているかは別問題よね」

「陽花さま……。私、家のせいでこんな立場に居ますが、陽花さまが皇后になって下さって本当に良かったと思っているんです。こんな風に刺繍に打ち込む時間ができたのも、陽花さまのおかげです」


 春蘭さまは目を潤ませて陽花に頭を下げた。彼女の実家は皇后の依頼ならば仕方ないと彼女に刺繍を許し、さらにわたしから主上に進言したことで刺繍道具を日常的に手配してもらえるようになったのだ。

 

 今の彼女は最初の茶会で会った時とは見違えるほど、自然な笑みを浮かべている。


「あのね、春蘭さま。実はお願いがあるのだけど」

「は、はい!私、陽花さまのためならなんでも致しますわ!」

「ふふ、ありがとう。今度の園遊会で夏姫さまが舞を踊られることは知ってる?」

「はい。もう後宮で大変な噂になってますものね」

「夏姫さまの衣装に、あなたの刺繍を施してもらえないかしら?きっととても素敵に仕上がると思うのよ」


 春蘭さまは驚いた顔をした。まあ当然よね。今主上のお渡りが一番多いのは夏姫さまなので、皇后としては面白くないと思っているのではないかと想像していたのだろう。

 

「もちろんかまいませんが、陽花さまはそれをお望みなのですか?」

「もちろんよ。望んでなければ信頼するあなたに頼んでなんかいないわ。わたしが立后して初めての園遊会ですもの、みなさんのお力をお借りして素晴らしいものにしたいのよ。それに、その衣装にはわたしの希望も詰まってるの」


 ふふふと扇子越しに笑うわたしを、春蘭さまはきょとんと見つめている。

 大丈夫よ春蘭さま、あなたもその衣装、きっと気に入るわ!


 わたしはこれでも、早く実家に帰るために心から側室たちを応援しているんですからね。



***



「みなさーん!お稽古お疲れ様でーす!」

「あらぁ陽花ちゃんよ、みんな!」

「きゃー!陽花ちゃん今日も来てくれたのぉ?嬉しいー!」

「ちょっと姉さんたち、陽花さまは皇后なんだからもっと礼儀正しく……」


 そんな風に慌てて年上の姉さんたちを諫めるのは夏姫さまだ。わたしは彼女の『胡蝶』との合同稽古の段取りをつけてから、何かにつけて差し入れを持っていっていた。


 夏姫さまは四夫人の中では秋明さまに次いで気位が高く、孤高の女人という感じだったが、先輩姉さんたちの中ではすっかり妹のような存在である。


「あの、いつも差し入れありがとうございます、陽花さま」


 照れながらそう言う夏姫さまは、ついさっきまでの運動で顔が蒸気しており、それが彼女の色気をしたたらせていた。


「いいんですよー。夏姫さまに舞をお願いしたのはわたしですもの、しっかり応援させて頂きますわ!舞は久しぶりと聞いてましたけど、すっかり皆さんと馴染んでしまいましたね」

「そうなのよ陽花ちゃん。この子昔から運動神経だけは良くてねぇ。でも歌とか楽器とか刺繍とか料理は、からっきしなのよ。お嫁にいけないと思ってたわ」

「ちょ、ちょっと姉さん!」

「うふふ。後宮は腕の良い料理人もいるし、必要なものはなんでも揃えてくれるからその点安心ですね。それはそうと!実はわたし、園遊会でおもしろーい提案を考えてるんですけど、夏姫さまとお姉さま方、ちょっと集まって下さいます?」


 なになにどうしたのー?と少し離れて座っていたお姉さま方も集まってくる。ようし、皆集まったわね。


 わたしは周囲の視線に得意げな顔でひとつ咳払いをすると、人差し指をぴんと立てた。


「実は園遊会の演目に、ひとつ加えて欲しいものがあるんです!」


 そして立てていた指をびしっと夏姫さまに向け、わたしは説明を始めた。舞姫たちとの秘密の演目。さて、お姉さまたち乗ってくれるかしらね?

 




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