改革
レイが保護されているのは、JUKUの最上階。つまり、中川将軍のところだ。俺はMr.Tに、レイを中川将軍のところに連れて行くよう指示したのだ。ある確信があったからだ。間違いない、宗彩聖つまり高梨彩が来ていると予感したのだ。
台場に到着すると、入口でMr.Tが出迎えていた。彼に案内され、最上階へと向かった。エレベーターが開き、部屋に入ると、役者が勢ぞろいしていた。
JUKUの中川将軍、Mr.T大佐。AGUの北村総帥、側近の櫻井、松田、大谷。そして、保護されているレイ。さらに、北朝鮮の宗彩聖に、朴正恩。俺とかすみを加えれば、11人だ。おそらく、遅れて、捕獲した新垣将軍と青木将軍も現れるだろう。
これだけのメンバーだ。いやでも『気』が充満しているのが分かる。俺は、その気を全て飲み込んだ。しかしだ。今、この空間を支配しているのは俺ではない。支配者は、『レイ』であった。
部屋の真ん中で、朴正恩を四つん這いにし、彼にまたがりか、お馬さんごっこの真っ最中。時折、尻をたたいては、キャッキャ、キャッキャと大喜びしている。全世界を恐怖に陥れようとしている狂人の男、朴正恩を相手に完全に操っている。しかも、朴正恩自身、笑いながら楽しんでいるのが分かる。そんな光景を見ている他のメンバーも、皆、笑っている。
俺は身震いした。レイに対し、底知れぬ大きな力を感じた。この子は、ひょっとすると、とんでもない子なのかもしれない。
宗彩聖が近づいてきた。
『こんばんは。先日はどうも。』
彩が、笑顔で接してきた。その姿は老婆ではなく、既に元の姿に戻っていた。30代に見える。やはり、美しい。この前の「お別れ」は何だったのか。不敵な笑みは、きっと理由があるはずだ。
『この光景、凄いでしょ。わたくしも長年、朴正恩の側にいますが、こんなのは初めてですよ。正恩は、人に対し、心を開くことが、ほとんどありません。まして、初対面の人に、笑顔になるなんて見たことないですわ。あのお嬢さんは、特別な力をお持ちです。わたくしや、貴方のように、人の心を読み取る力ではなく、人の心を開かせる力があるようですね。心を和ませる力と言ってもいいでしょう。ここにいる全員が、あの子に夢中になってますわ。』
さすがは彩先生。俺が感じていたものを、すでに感じ取っていたとは。
『このお方が、かすみさんね。綺麗なお嬢さんだこと。ヒロ君が惚れるのも当然だわ。あら、この首飾りは。あなたのもとに行き渡ったのね。』
俺は、かすみに彩先生を紹介した。
『彩先生、こちらが、かすみです。ご存知の通り、俺の愛する女性です。そして、朴正恩を操っている、あの子の母親です。首飾りは、俺が贈ったものです。』
『なるほど。よく分かりました。かすみさん、この首飾りは選ばれた人に伝わると言われているのですよ。誰もが美しいと認める女性に渡るのです。見た目だけでなく、心も美しい女性にね。あなたは、神に選ばれし女性。いえ、あなたも神の一人なのですよ。あなたの正体をお教え致しますわ。あなたは、愛と美の女神アプロディーテ。別名「ヴィーナス」よ。』
俺は、それほど驚かなかった。なぜなら、かすみの姿と心の美しさを知っていたからだ。まさに、ヴィーナスと呼ぶにふさわしい女だと思う。俺が驚いたのは、この後のことだ。彩は話を続けた。
『かすみさん、わたくしも以前、その首飾りをしていた時があったのよ。』
『でも、ヒロが、以前はオードリヘップバーンが所有していたって言っていたわ。』
『その通りよ。オードリーヘップバーン、懐かしい名前ね。ここだけの秘密にして欲しいんだけど、以前、わたくしは、オードリーヘップバーンと呼ばれていたのよ。』
かすみも俺も、返答ができなかった。
『おやおや、お二人さん、ビックリなさったかしら。そうよね。わたくしが、オードリーヘップバーンなんて、信じろと言う方が無理よね。ヒロ君、わたくしが特殊能力を持っていることは、ご存知よね。その中の人体再生能力は、ヒロ君もお持ちのはず。修行を重ねれば、わたくしのように歳をとらなくなるの。かすみさん、わたくしの本当の年齢分かるかしら。驚かないでね。今年で127歳よ。あのヒットラーと同級生。』
とても、127歳には見えない。かすみと同じ年齢、つまり30前半にしか見えない。彩は続けた。
『そして、もうひとつ、わたくしの特技があるの。それは変装。普通の変装ではないのよ。わたくし、顔を自由に変えられるの。わたくし、変装して、かすみさんに会いに行ってるわ。詩織って、覚えてるかしら。あなたを拉致した女。あれ、わたくしが変装して、あなたに会いに行ったの。ヒロ君に相応しいかどうかを見るために。』
彩は続けた。
『かすみさん、あの時は、怖い思いをさせて、ごめんなさいね。傷つけるつもりは、ありませんでしたのよ。わたくしは、色々な女性になって、ヒロ君を誘惑したわ。でもね、かすみさん、ヒロ君はその誘惑を全て断ったのよ。あなたを愛してるからだと分かりました。あるいは、わたくしの魅力不足もあったのかもしれませんね。』
俺は、どう反応すれば、いいのか分からなかった。すると、かすみが話し始めた。
『彩さんは、美しいです。ヒロの目を見れば、ヒロが今でも彩さんに好意を持ってることが分かります。というより、私も心が読めるので、ヒロの気持ちは、お見通しなの。』
俺は、さらに、どうすればいいのか分からなくなった。この二人には、心が全て読まれている。嘘はつけない。素直にならざるを得ない。
そのとき、ちょうどいいタイミングで、レイが近づいてきた。
『ママ、大好き。早く、お家に帰ろう。』
朴正恩が、俺に気づき、笑顔が消え、顔を強張らせていた。
扉が開き、拘束された新垣将軍と青木将軍が部屋に入ってきた。俺はステージに上がり、そして、話し始めた。
『お集まりになられている皆さん、私はヒロと申します。これから、私が申し上げることは、決定事項だと、お思いになって下さい。不服があるものは、私に直接申して下さい。AGU及びJUKUについて、今宵、大改革を行います。まずは、JUKUは、本日をもって解散します。AGUに吸収合併の形をとり、下部組織として、特殊部隊のみ残します。そして、新たな人事を発動します。AGUの総帥には、中川総帥。北村さんは、AGUの会長になっていただきます。参謀に、Mr.Tがつき、松田、大谷は、Mr.Tのもとで働いてもらいます。
新垣将軍、青木将軍、お二人は将軍職を辞めてもらいます。もう、将軍ごっこは終わりです。二人の拘束を解いてやれ。新垣、青木、および櫻井は、実戦経験が乏しい。この3人は、CIAに出向。宗彩聖の元で修行してもらいます。つまりは、宗彩聖、朴正恩とともに北朝鮮に渡ってもらいます。』
顔面が蒼白になっている櫻井が声を張り上げた。
『こ、こ、こんな勝手な人事、真理子さんが許さないぞ。』
改革には不満がつきものである。真理子とは、北村の娘である。AGUで権力を行使している女である。実力があるのであれば、何の問題もない。しかし、この女は、ただ総帥の娘ということで、でかい態度を取っているに過ぎないのだ。
『櫻井!お前は何も分かってない。真理子には、辞めてもらう。なぜなら、この組織に必要がないからだ。この人事については、北村さんにも了承してもらえるはずだ。いいか、俺の言うことは絶対だ。俺の言葉は神の言葉と思え。俺は神だ!』
そう言い切り、俺は体を宙に浮かせた。場内は、ざわつき、そして静まり返った。俺は宙に浮きながら、話を続けた。




