世界最強
AGUを後にして、俺はすぐにMr.Tに連絡した。宋彩聖のこと、朴正恩のこと、人民服をAGUに渡したこと、、、全てを話した。あとの処理はMr.Tに任せた。疲れた。早く、かすみに会いたい。俺は新宿に向かった。
Mr.Tから報告を受けたのは、香取将軍であった。JUKUのNo.2である。香取は中川将軍に噛み付いていた。
『中川将軍、この失態どうしますか?ヒロの処分ですよ。我々を裏切り、AGUに人民服を引き渡したのですよ。おかげで、今年の優勝はAGUにかっさわれますよ。がっかりですよ。』
香取の怒りは収まらない。
『あいつ何様だ。いつも一人で行動して、引っ掻き回しやがって、もう、あいつとは仕事できねえ。』
『香取。何を興奮してる。では、聞こう。今回の件で、我々が失った物は何だ。それは、単なるお前さんのプライドだろ。むしろ得たものの方が大きいぞ。よく考えてみろ。大局で物事を考えろ。それでも、ヒロの処分が必要だと考えるなら、殺ればいい。お前に出来るのならな。』
中川は、今回の件の資料を香取に渡した。これで、分からないようでは、香取の器の大きさも大したことがないということだ。
中川はMr.Tを呼びつけた。
『 T、今回のヒロの仕事だが見事であった。彼に感謝の品を渡してくれ。そして、今回の君の活躍に対し、君に大佐の地位を与える。』
Tは素直に喜んだ。
『将軍、有難うございます。で、この品物は何ですか。』
『これか?女性なら誰でも喜ぶものじゃ。意味、わかるな。それと、香取の動きに注意するように。お前とヒロに対し、面白く思ってないようだ。いいな。』
『御意』
俺は新宿に戻り、眠りについた。深い眠りだ。しかし、今の俺は、たとえ眠っていても、倒すことは出来ない。それほどのレベルに達しているのだ。
程なくして、ドアを叩く音がした。叩き方でわかる。Mr.Tだ。俺は、かぎを開け、彼を部屋に呼び入れた。Mr.Tは中川将軍とのやりとりを説明し、自身が大佐の地位に就いたことを嬉しそうに話した。そして、中川から預かった品物をヒロに渡した。
『何だ、これは?』
『将軍が、貴方にぜひと。今回の件でのお礼だそうです。』
綺麗に包装された箱を開けると、中から淡い水色の箱が出てきた。
『なるほど。将軍に礼を言ってくれ。それと、君にも昇進の祝いをしないとな。考えておくぞ。』
『それと、香取将軍が、ひょっとすると私と貴方を狙うかもと。用心なされと中川将軍より仰せつかりました。』
『分かった。それは、こちらで何とかしよう。まあ、まずは、乾杯しようではないか。』
俺は、Mr.Tを連れ出し、新宿の闇に消えた。
Mr.Tと別れた俺は、部屋に戻ろうとしていた。建物に近づく前から、物騒な気配がしている。そんなバレバレな警備をして何してやがる。俺は無視して、部屋の前まで来た。後ろから、拳銃を突きつけた男は一瞬に倒れた。それを見た男どもはざわつき、後ずさりする。俺は、わざと金色のオーラを広げて見せた。男どもは、恐れをなし、街に消えていった。
部屋には、香取将軍と青木将軍がいるのがわかった。二人の心を読み取った。彩先生のおかげで、対象者に手を触れずに、心を読み取ることができるようになっていた。部屋の中で、かすみを脅している。娘のレイを人質にとったようだ。場所は二人の心から、分かった。大宮駅近くのつぶれた工場だ。
『かすみ、10分待っていてくれ。』
俺は、そう呟くと、『気』を集中した。自分の気だけではなく、周辺の植物、動物の気も集めた。そして、気が高まったと判断した刹那、俺は瞬間移動を試みた。
『はあ、はあ、はあ、、、上手くいったようだ。』
初の瞬間移動はみごと成功した。息が乱れる。またも、見え見えの警備の男たちが見える。時間がない。俺は、男たちに向かい走り出した。バタバタと倒れる男。そして、ドアを蹴破り中に入ると、新垣将軍がレイを抱えていた。
『新垣、俺を怒らせるな。お前に10秒やろう。その間に、その子を離せ。よく考えて判断しろ。10,9,8,7,6,5,4,』
『分った。は、は、離す。』
レイが俺に近づいてきた。
『新垣、お前は正しい判断をしたようだ。だが、言っておく。次は10秒などやらんからな。目先を見るのでなく、未来を見ろ。世界を見ろ。お前の成長を期待する。じゃあな。』
俺はレミを抱えて、廃墟を出た。
『急がねば、かすみが危ない。』
レイと一緒では瞬間移動は使えない。
『レイちゃん、おじちゃんのこと覚えてる?』
『うん。覚えてるよ。新宿のおじちゃん。』
『そっかあ。じゃあ、新宿までママを迎えに行こうか。空を飛んで。』
『いいよ。』
『じゃあ、しっかり掴まってね。』
俺は、レミを両手でしっかりと抱え、空に向かってジャンプした。そのまま、猛スピードで飛び続けた。5分で、新宿に着いた。俺は宙を浮くことも覚えたのだ。
もはや、俺は世界最強と言っても過言ではない。
部屋の前にはMr.Tが待っていた。俺が呼び出したのだ。レイをMr.Tに預けた。俺は正面から自分の部屋に入った。香取将軍と青木将軍に挟まれ、かすみがいた。
『香取、青木。お前ら何をしてやがる。俺を相手に命は惜しくないのか。』
『随分偉くなったものだな。自分の置かれた立場が分かってないようだ。かすみは、俺たちに寝返った。もうお前の仲間ではない。』
『それで。何がしたい。言ってみろ。』
『ヒロ、自決しろ。さもないと、かすみを殺す。』
『ひとつだけ忠告してやろう。新垣は5秒で降参した。レイは無事保護した。安全な場所に避難させている。かすみ、心配かけたな。俺が来たからには、もう大丈夫、安心しな。』
『お前、バカか。この状況で、救い出せると思うのか。』
黄金の光が走った。眩しい光だ。香取が一瞬で蒸発した。
『俺をバカ呼ばわりした罰だ。さあ、青木よう、お前はどうする?』
すでに余裕はなく、ガタガタと震えている。
『香取は木村を嫌っていたようだが、俺に言わせれば、どちらも同じだ。女、子供を利用して己の欲のみに走るとは、地に落ちたもんだ。青木、お前に10秒やろう。決めるがいい。10,9,8,7,』
『分った。降参する。俺は利用されただけだ。許してくれ。』
『もっと人を見る目を養え。初心に戻り、弱い人のために尽くせ。』
青木はへなへなと、床に倒れこんだ。
『かすみ、こっちにおいで。』
俺は、かすみを抱きしめた。
『心配かけて悪かった。責任はすべて俺にある。娘さんは、安全なところで保護している。さあ、迎えに行こう。』
外は、雨が降ってきた。おれは悩んだ結果、愛車で迎えに行くことにした。かすみをエスコートし、車のエンジンをかけた。台場まで15分といったところか。車の中で、かすみにキスをした。そして、ことの経緯を掻い摘んで話した。相変わらず、かすみは美しかった。俺は、スーツの内ポケットから、水色の箱を出し、かすみに渡した。
『まあ、これは。ティファニー。』
箱を開けると、まばゆいばかりの宝石に彩られたネックレスが現れた。俺は、それを手に取り、ゆみの首に着けた。
『綺麗な君が、さらに綺麗になった。』
俺は、本当に、そう思った。
しかし、中川将軍に、宝飾の知識があるとは思えない。何かあるな。俺は直感した。
『かすみ、このネックレス見たことあるよ。映画の中で、オードリヘップバーンが身につけていたのと、そっくり。』
なるほど、女性なら誰でも喜ぶというのは、こういう理由か。俺は確信した。
『そっくりだろう。なぜなら、同じ物だから。映画の中で、使われたネックレスそのものだよ。かすみ。』
かすみは、微笑んだ。その姿は、天使そのものであった。




