第8話 バグ対策部 郡山
祐太郎は仙台と共にバグ対策部を訪れた。
郡山はいるかと尋ねると退勤済みだという。
祐太郎は仙台に目配せした。
「どうします?」
「また明日、朝イチで来ましょうか。問題のシミュレーターが何か分からなくても対応はできますから」
仙台が、バグ対策部に残っていた社員に明日郡山を訪ねると託けて対策本部へと戻った。
「早かったですね」
本部に割り当てられた部屋のドアを開けると、十和田が顔を上げて振り向いた。
「郡山さんが、退勤してたんです」
「ありゃま」
仙台が十和田の肩越しに安全性の検証画面を見る。
「まだかかりますよね」
「そうですね」
「ユーザーの状況を把握しておきましょうか」
「テレパシーから戻らないという問い合わせは増えているみたいです」
十和田の言葉に仙台が大きく鼻から息を吐いた。
十和田が続ける。
「医療と連携が必要かもしれませんね」
「……そうですね。医療の方は……消防でいいんでしょうか……」
仙台の発言は語尾までため息になっていた。
初めてのことで皆戸惑っていた。
「とりあえず消防に相談してみましょう」
祐太郎は外部連絡用端末を手に取った。
◇
病院には目覚めないダイバーたちが運び込まれ始めていた。
夜中にテレパシーの運営発表がされた。
十時間を超えてダイブし続けている脳端末者については、脱水のおそれがあるため、病院に搬送するよう呼びかけられた。
呼びかけは各マスメディアで流された。
医療現場はひっ迫した。
◇
翌日。
祐太郎は仙台と共に、再び郡山を訪ねていた。
「なんでも聞いてください」
郡山の表情は硬い。
仙台が祐太郎に頷きかけてから切り出した。
「問題を引き起こしているサーバー03で動いているシミュレーターなんですが、郡山さんの署名が付いているんです。心当たりはありますか?」
「シミュレーター……ですか? ……いいえ」
郡山が眉根を寄せる。
嘘を言っているようには見えない。
仙台が祐太郎に目配せする。
「一カ月ほど前なんですけど……」
「……はあ。うーん……ないですね」
郡山はますます渋面になる。
祐太郎は持っていた端末でシミュレーターの資料を見せた。
「このシミュレーターなんですけど……」
郡山の目が見開かれた。
「このシミュレーターは知っています。……その、僕の端末で使っているバグ検証用のやつで……でも、アップロードしたことはないし、まさか、そんな……」
仙台が首を傾げる。
「どういうことですか?」
祐太郎が割って入る。
「端末を見せてもらってもいいですか?」
「もちろんです」
郡山の顔から血の気が引いていた。
「このシミュレーターはどこから?」
「バグハンターから提供されたものです」
「……なるほど」
「一ヶ月前?」
「いいえ。二年前から入れているソフトです。何年もバグを報告してくれてる方のもので、導入時に安全性のチェックはしています。……確か一カ月前にも、報告してくれていました」
「そのメールか何かは残ってる?」
「消していません。……シミュレーターのパッチと、報告されたバグの修正パッチがついていました……」
郡山が口を引き締めて俯いた。
仙台が鋭く睨みつけた。
郡山が跳ねるように顔をあげた。
「このシミュレーターは論文もあるんです! その論文の執筆者の方から提供されたんです!」
「どういうこと?」
「それはっ……わかりません」
「とりあえず、確認しましょう」
祐太郎は郡山の端末の前に座った。
メーラーを立ち上げる。
「どれ?」
仙台が冷たく言い放つ。
「ええと……」
祐太郎はゆっくりスクロールしていく。
「あっ、これです。C.Sakimura さん」
「さきむら?」
祐太郎の聞いたことがある名前だった。
シミュレーターの開発者だったはずだ。
「はい。……このメールです」
変哲のないメールだった。
祐太郎はフラッシュメモリにメールごと添付ファイルを保存した。
「確認だけど、崎村さんからきた他のメールも見せてくれる?」
仙台が言った。先程より声音が柔らかい。
「はい」
祐太郎は崎村のメールを検索した。
年に三、四回のやり取りがあるようだった。
一つ一つ確認するが、特段おかしなところはない。丁寧な人という印象だ。
「崎村さんが乗っ取られてたんでしょうか……」
郡山がぽつりと言った。
「とりあえず、直近のパッチだけ解析にかけましょう」
仙台が画面から顔を離す。
祐太郎はフラッシュメモリを取り外し椅子を引いた。
「何か思い出したことがあったら教えてください」
そう郡山に声をかけて立ち上がる。
郡山は表情が無くなっていた。
その態度は祐太郎には演技をしているようには見えなかった。
祐太郎は仙台と一緒に郡山に礼を言い、本部へと、オレンジ色の照明が灯る廊下を早足で戻った。




