第5話 フレンド
登校時にコンビニで購入した菓子パンを齧りながら爽は、クラスメイトから送られてきたURLの掲示板を眺めていた。
トピックには、今にも地面に飛び込もうかというところで固まった白い衣装の少女を人々が避けている動画が貼られていた。
どこから撮ったのだろうか。
少女を起点に人の流れが二手に別れ、見えない道ができているようだった。
『ビジーさんまとめ』
スレッドに集められた動画は、先日『テレパシー』で起きた集団ビジー事件に巻き込まれた脳端末者のもののようだ。
歩く途中で止まった人、ブティックを覗く人、転びそうになっている人。
二人組もいた。
顔がはっきりわかる動画もある。
爽はネッ友のアオイのことを思い出していた。
今見た中に、個人部屋で固まった彼の姿はない。
最後まで見て、良かった、と胸を撫で下ろす。
大切な友人がこんなところに晒されていたら、腑が煮えくり立っていただろう。
URLを送ってきたクラスメイトが近寄ってきた。
「見た? 最初の動画、すごくない?」
「あーうん。 ……まあ」
爽は生返事をして立ち上がった。
「トイレ行ってくる」
「おお」
クラスメイトが道を開けてくれる。
廊下に出てから大きく息を吐いた。
◇
夕飯を済ませてから自室で『テレパシー』にダイブした。
直接アクセスでアオイの部屋に入室した。
青いクマとゲームキャラのアイコンが浮かんでいる。
「アオイ : おつかれ」
「おつかれ」
クロから挨拶がない。
「クロは?」
青いクマのアイコンに向かって話す。
薄いオレンジの吹き出しがアオイのお気に入りらしい。
「アオイ : 一緒にゲームしてる」
「何の?」
「アオイ : スプラッシュ」
人気のゲームだ。
『テレパシー』でもできる。
アオイとクロはゲーム機版でやっているのか。
「今対戦中?」
「アオイ : そう」
「聞いていい?」
「アオイ : 何?」
「アオイって何に課金してたの?」
「アオイ : え? えー? あっ優先回線スタンダード」
音声入力だな。
「ありがとう。 俺は今日は帰るね」
「アオイ : うん。 またね」
「クロ : またね」
爽は二つのアイコンに手を振って、ガラスの扉を押し開けた。
足から落下する。
空を撫でUIを表示し、アクセス履歴から目的の部屋をタップする。
爽の姿が掻き消えた。
◇
到着した部屋は相変わらず賑わっていた。
『【求!情報】集団ビジー事件を調べようぜ未成年』
ガラス戸を押し開ける。
以前会ったうさぎ耳の少女、この部屋の管理人タケモトを探したが、すぐには見つからなかった。
人を避けながら奥に進む。
垂れ耳をつけた少女の頭の上にタケモトの文字を見つけた。
「おつかれ」
爽が声をかけると、タケモトは顔を向けてきた。
髪色も牛乳をたっぷりいれたカフェオレみたいな色に変わっている。
「おつかれ。 来てくれたんだ」
「何で耳を垂らしたの? 髪色も変えたんだ?」
「可愛いでしょ?」
「見つけづらい」
タケモトは鼻を鳴らした。
「で? 何?」
細い腕が組まれる。
「前話してた、巻き込まれた友達の課金の話。 優先回線スタンダードだったんだって」
タケモトは腕を解いた。
「わあ、ありがとう」
ぱっと明るくなった表情は、爽をどきっとさせるのに十分だった。
「あれから何かわかった?」
タケモトがチャットログに目をやる。
爽もつられて目をやった。
「 : アバター課金巻き込まれず」
「 : 回線サブスク巻き込まれてるの?」
……
「 : タケモトかわいい」
「 : 課金アワレ」
……
「 : 被害カキン」
「タケモト :ちょっとごめんね」
ほっそりとした手が爽の手を握った。
引っ張られる。
人混みの間をすり抜ける。
「タケモト〜」
全身水色と白で構成された少女がタケモトを捕まえようとする。
「ごめん後で!」
タケモトはうまくかわしてどんどん進んだ。
窓の外が明るい。
タケモトに手を引かれて、ガラス扉を潜った。
外に出ると、タケモトは爽の手を離し、UIを表示させた。
「フレンドになろう。 事件のことが話したかったらメッセージで送って」
「いいの?」
「君、嘘つきじゃなさそう」
根拠なくのたまうタケモトに複雑な気持ちになりつつ、爽もUIを表示させた。
タケモトからフレンドリクエストが届いていた。
「人を集めているんだよ」
「そこまでして調べたいの?」
承認。
「まあね。 大事件だから」
「未成年が役に立つ?」
「そんなに重視してない」
役に立つのを重視していない?
爽には理解し難かった。
「期待しないんだ」
なるほど?
……それって俺も?
浮かんだ言葉は掻き消した。
タケモトは続けた。
「ボク、ネカマ」
「オチきた……」
爽は肩を落とした。
「見抜いてたんじゃないの?」
タケモトが爽を覗き込んでくる。
「いや、まあ……」
「ボクの可愛さがわかった?」
爽はタケモトの肩を押して顔を上げさせた。
タケモトがふふッと笑う。
相手がネカマとはっきりした途端、驚くほど感情が動かない。
「有名なクラッカー、十代も多いんだよ」
「……そうなの?」
「うん。 ……だから、ボクたちも何かできるよ」
「何するの?」
「わかんない」
「犯人を見つける?」
「謎を暴く」
爽は思わず吹き出した。




