第4話 タケモト
だんごまんが行ってしまった後、タケモトはチャットログを保存した。
ログは流れ続けている。
足跡発言が多い。
嘘が少ないと良いなと思いながら退室した。
赤紫のツインテールに白のウサ耳。白いパフスリーブのブラウスに合わせた、臙脂の膝丈のジャンパースカートの裾からはドロワーズが覗いている。レースのショートソックスに赤いオープントゥ。
可愛い。
己の姿を見下ろして、タケモトは頷いた。
喋り方だって可愛いはずだ。
だんごまんめ。失礼にも程がある。
エレベーターをおりる。
外の光は柔らかかった。
テレパシーにしか咲かない花の植え込みが秋の季節を伝えている。
個人部屋区画を出て商店街に入る。
ここでもテレパシーにしか生えない木が赤く染まっていた。
いつもは気にならない系統の外見ブティックが目に止まる。
アバター変えようかな。
ボーイッシュに。
いやいや。
ふりふりの方が絶対いい。
季節に合わせて?
それはありかも。
ガラスに映る赤紫のツインテールは、背景からやや浮いていた。
結局お気に入りのブティックを冷やかしてから、プライベート部屋区画に向かった。
いつものビルに入る。
エレベーターのコンソールに招待状をかざす。
扉が開いた。
乗り込みとすぐに動き出す。
開いた先は目的地の鐵太郎の部屋だ。
「おつかれ」
スカートを揺らして部屋に入るタケモトに挨拶が返ってくる。
「おつー」
「鐵太郎 : おつ」
「ユタ : おつかれ」
先客は三人。
シアン、鐵太郎、ユタ。
シアンはソファーに座ってくつろいでいた。
鐵太郎とユタはアイコンだ。つまりNon Dive Memberである。
「面白い話仕入れたよ」
「なになに?」
シアンが隣にこいとソファーを叩く。
タケモトはシアンのすぐ隣に座った。
「被害者は回線の課金勢かもって」
広がったスカートを整えながら言うと、鐵太郎のアイコンから吹き出しが現れた。
「鐵太郎 : ??? 俺は回線課金してるけど巻き込まれてないよ」
「鐵太郎は脳端末じゃないでしょ。サンプルは1」
「鐵太郎 : ボケてたわ。 サンプル1って本気か?」
「調べてみてもいいかも。 何に課金してるかと、サーバーも」
タケモトの手にシアンが手を重ねた。
「鐵太郎 : なるほど。 サーバーか」
「メンバーで巻き込まれたの、ジャスミンとマサトだっけ」
「そう」
「鐵太郎 : マサトは回線課金してるな」
「ジャスミンも。 ウコンと英語の人も回線課金してたはず」
タケモト「ユタさんどう思う?」
「ユタ : 調べていいと思う。 マサトとジャスミン以外はプレミアムメンバーだったと思うよ」
「私も巻き込まれてない。 プレミアムメンバーだよ」
シアンが付け加えた。
「シュウちゃんは?」
「《《ちゃん》》づけは嫌がられるよ。シュウはプレミアムじゃない。 でも巻き込まれてなかった」
シアンがタケモトの手をにぎにぎした。
シアンは可愛いので嬉しい。
薄いブロンドのウェーブボブ。グレージュのワンピースにシャツを羽織っている。上品。そのうちマネしたい。
「タケモト兄妹はプレミアムじゃないんだ」
「そこまでいらないから」
「鐵太郎 : シアン、近づきすぎ」
「だって可愛いんだよ〜」
「シアンも可愛いよ〜」
シアンがハグしてきたのでタケモトもシアンをギュッとした。
どうだ可愛いだろう。
「そうだ、未成年部屋のチャットログ持ってきたよ」
シアンが「可愛いねー」と髪の毛を撫でてくれる。
嬉しい。
「鐵太郎 : ありがとう。送って。 アナナス《アナライザーAI》に解析させる」
「OK」
そんなことをしている間にエレベーターが到着したことを知らせる音が鳴った。
大前が入ってきた。
こいつは可愛くない。美男美女になれるのに、わざわざゴツくて冴えないおっさんの姿をしている。
「おつかれ」
大前が手を挙げた。
「おつー」
「おつかれ」
「鐵太郎 : おつ」
「ユタ : おつかれ」
「事件の成人部屋のチャットログを持ってきた」
大前はタケモトとシアンの前を通り、奥のソファーに腰掛けた。
「鐵太郎 : サンクス。 送って。 今、タケモトが持ってきてくれたチャットログを解析してる」
「OK」
大前がUIを操作した。
「さっき話してたんだけど」
シアンが切り出した。
「大前って、課金何してる?」
「課金? 優先回線のスタンダードだけど」
「鐵太郎 : サーバーわかる?」
「ちょっと待って。……07サーバー」
大前は取り出したスマホに目を落としたまま言った。
タケモトも、スマホで自分のサーバーを確認する。
「ボク、03サーバー」
「サーバーがどうした?」
大前が何かわかったのかとタケモトに目で問うてくる。
「被害者が課金ユーザーかもしれないんだ」
「それで?」
「無課金の被害者がいないか未成年部屋で呼びかけてるところ」
「あと、プレミアムユーザーでも、もしかしたら被害者がいないかも」
シアンが続けてくれた。
「サンプルはここのメンバーと、プラス1だけどね」
シアンはイタズラっぽく笑った。
「プラス1?」
「タケモトちゃんが採ってきた」
「未成年部屋であった子が課金勢の友達が巻き込まれたって言ってたんだ」
「なるほど……」
大前の声はたまに低すぎる。
「成人部屋でも聞いてくるよ。 無課金勢とプレミアムユーザーに被害者いるか呼びかける、でいい?」
タケモトはシアンと目を合わせてから頷いた。
「鐵太郎 : 頼んだ」
「ちょっと行ってくる」
大前はそう言い残し、エレベータードアの向こうに消えた。
「タケモトちゃん、お手柄になるかもね」
タケモトは照れ隠しに小首を傾げた。
「可愛い、可愛い」
シアンが手をギュッとしてくれる。
「シアン、今度メイク教えて」
「いいよぉ。 今しようよ。 おすすめの設定とアイテム送ってあげる」
「嬉しい! シアン大好き!」
タケモトがシアンに抱きつくと、シアンもギュッと返してくれた。




