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第3話 だんごまん

『【求!情報】集団ビジー事件を調べようぜ』


 人が群がるガラス面に表示された文字に、だんごまん−–爽は足を止めた。

 参加人数827

 Not Dive Member もかなり多い。

 そうだろう。

 テレパシーで沸騰中の話題だ。

 上限人数999人

 課金勢の部屋《ルーム》だ。

 成人部屋(ルーム)なので入れないのがもどかしい。

 集団ビジー事件には爽のネット友達が巻き込まれていた。

 そのネッ友、アオイは変わったことは何もないと言うが、爽は本当かどうか疑っていた。

 三日もビジーだなんてただごとではない。

 完全に固まっていたアオイの姿を思い出し、胸が痛んだ。

 ビジーが一週間、一か月と続いていたらどうなっていたことか。

 人をかき分けてなんとかガラス面にへばりつく。

 チャットログが見たことない速さで流れている。


「 : 変な記憶が残ってる」


「 : ある」


「 : 私も」


 ……


「 : オレのじゃない記憶が」


 ……



「『自分のものではない記憶』か……」


 爽はひとりごちて、再び人混みをかき分け、アオイの部屋《ルーム》に向かった。



 ◇



「おつかれ」


 入った殺風景な部屋の中に人影はなかった。

その代わりアイコン二つ浮かんでいる。

アオイとクロだ。

 青いクマのぬいぐるみのアイコンから吹き出しが出た。


「アオイ : おつかれ」


「まだダイブ禁止か」


 爽が聞くと


「アオイ : 一週間も経ってないよ」


「クロもまだ?」


「クロ : 僕は最初から自粛」


「そうだったっけ」


「さっき、ビジー事件の部屋《ルーム》できてたよ。 成人部屋(ルーム)だったけど」


 すぐさま吹き出しに文字が表示された。


「アオイ : 未成年部屋(ルーム)でもできてたよ」


「そうなん。 どこ?」


「アオイ : 412:161」


「アオイとクロは行ってきたの?」


「アオイ : 行ってきた」


「クロ : まだ」


「あー……部屋《ルーム》のログで見たんだけど、アオイにも自分のじゃない記憶あるの?」


「アオイ : ある」


 爽の予想に反して、肯定の文字はすぐに表示された。

 気持ちが高揚した。


「どんな?」


 しばらく間があった。

 聞いてはいけなかったかと思い始めた時、


「アオイ : なんか大人の人が悩んでた」


「へえ……」


「アオイ : 映画観たかんじ」


「へえ……」


 何かの手掛かりになりそうだ。


「クロ : 映画見せてたってこと? なんで?」


「アオイ : さあ?」


 何かの思想の布教だろうか?


「宗教っぽかった?」


「アオイ : そういうのは思わなかった」


 愉快犯かもしれない、そう思いついた。


「まあ、アオイが無事で良かったよ」


「アオイ : ありがとう」


 爽に部屋《ルーム》招待の通知が届いた。

 同じ高校のリア友だ。


「オレ、他の部屋《ルーム》行ってくるね」


「アオイ : じゃあね」


「クロ : じゃあね」


 爽は虚空に手を振ってガラスの扉を開き、両手を広げて身を投げた。



 ◇



 風を浴び、落下しながら考える。

 なぜ三人の中でアオイだけが事件に巻き込まれたか。

 アオイだけ持っていた特徴を考える。

 そういえば


「課金した」


 そう言っていた。

 爽もクロも無課金ユーザーだった。


 課金?

 まさか。


 ……確かめてみないと。


 部屋《ルーム》を検索しているうちに地面に墜落した。



 ◇


 その部屋《ルーム》は混雑していた。


『【求!情報】集団ビジー事件を調べようぜ未成年』


 上限人数999人

 参加人数 999人

 ほとんどNot Dive Member だ。

 チャットログが意味のない言葉で流れていく。


「被害者は課金勢?」


 隣に立つ、ツインテールでウサギ耳をつけた少女に聞くと


「それ、どこ情報?」


 ときた。


「オレ情報。 巻き込まれた友達が課金勢だった」


「なるほど」


「君も課金勢でしょ」


 少女の衣装は課金しないと手に入らないものだ。


「うん。 でも巻き込まれてないよ」


「じゃあ、課金勢だって断定できないんだ」


「そうでもないよ」


 少女は赤紫のツインテールを揺らした。


「どういうこと?」


「課金アイテムは何種類かあるでしょう?」


「なるほど」


「確かめてみる、価値がある」


 少女がいきなり手を挙げた。


「おーい! 被害者で無課金勢いたらノートに書いて!」


 大声で叫ぶ。

 チャットログにも大きな黄色の文字で表示された。


「大胆だね」


「ありがとう。 ボク、タケモト。 この部屋《ルーム》の管理人」


 タケモトが右手を差し出した。

 思わず応じる。

 ほっそりとした手だ。


「情報、ありがとうね」


 にっこりと笑った顔が眩しくて、爽は目を細めた。


「……どうも」


「ボク、可愛いでしょ」


「アバターでしょ」


 タケモトが弾かれたように笑い声を上げた。


「君、いいね!」


「みんな思ってる」


「意地悪だなぁ。 それでも楽しむものでしょ」


「ネカマだな」


「訂正。 君、ムカつく」


「オレはネナベ」


 タケモトが目を丸くした。


「嘘でしょ?」


「教えない」


「ムカつくなぁ」


 タケモトが片足に体重を乗せ腕組みした。

 爽は話題を変えた。


「タケモトは何に課金してるの?」


「うん? ……アバターと部屋《ルーム》拡張と家具」


「オレの友達は回線だと思う。聞いてくるけど」


「ボクと違うね」


 爽が頷いた時、部屋《ルーム》の招待通知が表示された。さっきのリア友の部屋《ルーム》だ。


「ごめん、呼ばれたから行くわ」


「OK。 また話しに来てよ」


「OK。 またね」


 爽は部屋《ルーム》を出ると、今度こそリア友の部屋《ルーム》に向かった。


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