第10話 収束
「警察に相談した方がいいことは青森さんに言っておきました」
十和田が硬い表情で言った。
「上層部に報告すると言っていたので、連絡するまでもまだ時間があるでしょうが……」
「そうですか」
祐太郎は湧いた恐ろしさから距離をとろうと、長く息を吐いた。
「とりあえず、お昼を取っておきましょう。山形さんと、十和田さんは行ってきてください」
仙台が言った。
「わかりました。なるべく早めに戻ってきます。仙台さんも疲れているでしょう」
十和田が仙台を気遣う。
「まだ大丈夫ですよ。しっかり休んでください。その方が私も休めます」
仙台は淡く微笑んだ。
「すみません、行ってきます」
祐太郎は十和田と並んで部屋を出る。
出たところで祐太郎は十和田に言った。
「私は外で食べてきます」
「ああ、それもいいですね。僕はどうしようかな」
祐太郎は口角を上げた。
着いてくるんじゃないぞ。
「社食でいいか……」
十和田とはエレベーターで別れた。
◇
会社から出て、一番近くにあるカフェに入る。
クラブサンドとカフェオレを購入し席を探した。望んだ背に壁のある席には座れなかった。
スマホで『テレパシー』にログインする。
「おかえりなさい」の文字に少し安心する。
鐵太郎の部屋に直接アクセスした。
ユタの入室を知らせる通知に一番に反応したのはシアンだった。
「おつかれー」
「タケモト : おつかれ」
「ユタ : おつかれ」
「ユタ聞いてよ、ジャスミンとマサトがビジーに巻き込まれてるんだって」
シアンが身を乗り出して言った。
「ユタ : なんでわかったの?」
「招集メッセージを送ったんだけど、ステータスが動かないからって心配になって、もかちゃんと会いに行ったんだ。そしたらビジーになっててさ」
祐太郎はクラブサンドを齧った。
「タケモト : メンバーの巻き込まれはその二人だけ」
「あーもうすっごく心配だよ。病院に連れてってもらえてるかな?」
「タケモト : ボクたち、そこはなんにもできないもんね」
「ビジーはいつ終わるんだろう」
「タケモト : 端末なら強制終了だけど」
「ダイバーはなにを強制終了するの。怖いこと言わないで」
「タケモト : 本当だ。ちょっと怖かった」
シアンとタケモトのやり取りに和む。
情報は得られそうになかった。
けれどそれで良かった。
「ユタ : 落ちるね」
「来たばっかなのに?」
「タケモト : おつかれ。ボクもそろそろ休み時間終わる」
「もう、みんな忙しいんだね」
シアンがソファーに寝転んだ。
祐太郎は、それを見届けてログアウトした。
クラブサンドは食べ終えていた。
指先をおしぼりで拭き、目頭を揉み込んだ。
頭の中は自然と事件のことを考えた。
手掛かりが全て崎村につながっているのはおかしな話だった。
崎村は陥れられたのだろうか。
普通なら、端末を調べれば何かわかるはずだ。それなのに、なぜこんなにも痕跡が残っているのだろう。
崎村から送られてきたメールを思い出す。
「シミュレーターの更新もお願いします。」
ゾクっとした。
一体なにが目的なのか。
祐太郎はカフェオレを流し込み、席を立った。
◇
対策本部に戻ると仙台がいた。交代で安全性を検証している端末の前に座る。
十和田が戻ってきた。
仙台が休憩から帰ってこないうちに青森がやってきて、警察に相談することが決まったと告げた。
「君たちが事情を話すことになるから、事件から今までのことまとめておいてください」
青森は言った。
「警察にはどこまで提供していいですか?」
十和田が尋ねる。
「今、確認していいかな?」
祐太郎は仙台を待ちたかった。
十和田が目配せしてくる。
「仙台さんを待っていいですか?」
祐太郎が言うと青森は頷いた。
「わかりました。待つ間に概要を聞かせてください」
仙台はそれほど遅くなく帰ってきた。
「警察に提供する内容を確認します」
青森の言葉に仙台の顔が引き締まった。
青森が話し始めた。
◇
ダイバーの大量ビジーが始まって三日目の早朝にようやくサーバー03に負荷をかけているシミュレーターを強制終了した場合の、ダイバーたちへの影響を調べるの検証が終わった。
結果は「危険性は極めて低い」だった。
待機していた対策本部及び障害対策部の一部で検討会議が開かれ、結局、シミュレーターに送信されているシミュレーションデータを遮断することが決まり、速やかに実行された。
データを遮断されたシミュレーターは、穏やかにサーバー03に負荷をかけている処理を終了させた。
ビジー状態に陥っていたダイバーたちが目覚め始めた。
◇
「ひとまず収束ですね」
『テレパシー』の現地視察から戻ってきた仙台がほっとしたように言った。
「全員ビジーから復帰はしたんでしょうか?」
「まだの方もいるみたいです。順次回復すると思います」
「プレスリリースで、ビジーから回復したらテレパシーからログアウトするように呼びかけましょうか」
「そうですね」
終わった。
いや、まだ事後処理が終わっていない。
全てのダイバーが無事に目覚めるかもわからない。
けれどひとまず肩の荷が一つ降りたのを祐太郎は感じた。
◇
うたた寝から目が覚めた崎村がシミュレーターを動かしていた端末を確認すると、計算が途中で終了していた。
まあ、こうなるよね。
「テレパシー」から何度か送られてきたプレスリリースには全て目を通していた。
嘆息して、端末の電源を落とす。
端末の背面を開け、その一つ一つを取り出し、半分にへし折る。
全てを終えたところでインターホンが鳴った。
朝食がまだだった。
お腹減ったな。
「はい」
「警察署のものですが、お話をお聞かせ願えますか?」
「はい」
崎村は玄関に向かった。




