第11話 崎村千晴
崎村の家を訪ねた刑事達の前に姿を現した崎村はごく自然な様子だった。
「お待たせしました」
大きくドアを開け放ち、私服の刑事を疑う様子もない。
制服を着た警察官が二人同行していた。怪しく思わなかったかもしれない。
刑事は身分証を示しつつ口を開いた。
「あなたの端末が犯罪に使われた可能性があります。提出していただけますか」
「そうですか。どうぞ」
崎村はそう言って道を開けた。
刑事達が拍子抜けするほどスムーズだった。
通された部屋で彼らが見たのは、背面が開き、中身がへし折られ床に散らばった端末だった。
「これは一体……」
言葉を失う刑事に崎村は事もなげに言う。
「さっき壊しました」
刑事は顔が強張った。顎を引いて崎村の目を見つめる。
「他に端末は?」
「ありません」
二人の警察官が顔を見合わせる。
「署までご同行願えますか?」
「はい」
刑事は警察官達に目配せした。
警察官が壊れた端末を集めて持つ。
警察の車の中でも崎村はおとなしかった。
◇
崎村の家の最寄りの警察署で、崎村の事情聴取が始まった。
「あなたのアカウントからユーザーをビジーに陥らせるほどのデータがサーバーに送られていました。心当たりはありますか?」
「はい。私が送りました」
落ち着いた様子で崎村が言う。
「それはどんな?」
「シミュレーションデータです」
「そのデータを送ることで、他のユーザーがビジーに陥ることは分かっていた?」
崎村はぴくりとも動かない。
生理的な瞬きをするだけだ。
「いいえ、これほど大事になるとは思っていませんでした」
「なるほど」
反対に、事情を聞く刑事は自然と身を乗り出していた。
「あなたは一ヶ月まえに、テレパシーの運営にバグ発見の報告しているそうですね」
「はい」
「その時、運営で使われているシミュレータに更新パッチを送りましたか?」
「はい」
「その更新パッチに今回テレパシーで起きた、ダイバーの大量ビジーを引き起こす悪意ある内容が含まれていたのはご存知ですか?」
「はい。私が作りました」
崎村の言葉は滑らかだ。刑事の息が詰まった。
何とか気持ちを落ち着かせ、質問を続ける。
「それはなぜ?」
「たくさんのシミュレーションをしたかったからです」
「……それはどんな?」
刑事が崎村の目を覗き込むと、崎村はそれを拒絶するように目を瞑った。
「……黙秘します」
崎村は目を開かない。
刑事は身を引いた。
「テレパシーの運営から、ビジー状態のダイバーが多数発生しているという発表がありましたね」
崎村が目を開いた。
「はい」
「ご自身のシミュレーションが原因だと気づきましたか?」
「はい」
「それでも、止めなかったのですか?」
「はい」
「あなたは、たくさんのシミュレーションをするために、テレパシーの運営に悪意のある修正パッチを送り、多くのダイバーを巻き込んでシミュレーションを行った、ということで間違いありませんか?」
「間違いありません」
重苦しさを感じているのは自分だけのようだと刑事は思った。
◇
押収された中身が割れた端末からは、やはりデータを取り出すことはできなかった。




