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同居人は異世界人  作者: 紫芋
1章

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6話 ここで設定説明回ってマジ?←マジです

 金髪青眼のエルフさんと握手を交わして、仲良しこよしでさようなら、とは決してならないのが現状であり、僕の今置かれている実状なのだと、腹にある痛みがそう教えてくれた。

 シルティアが受けた傷みは僕にも影響を受けるように傷は付けられて、そして寝惚けた頭が活性化すればするほど、それは鮮明となっていく。


「えーと、リディナさん」


「リディナでいい。慣れ親しんだ呼び方の方が、私は良い。リディ、もしくはリーナ」


「了解です、リディナさん」


「むー」


 綺麗な顔して意外と可愛い。そんな風に思ってはいけないのだろうか。いいに決まってるから、そう思う事にした僕は、既に翌日になってしまった日差しを顔面で浴びながら、昨日の事を思い返した。


 結局の所、僕はシルティアの役に立つ訳でもなければ、声援や応援もしなかった⋯⋯出来なかった。


 叫んで、名前を呼んで、聞いて貰えずスルーされただけ。本当にそれだけの事で、倒れた人達を店の奥へと運んだだけで、リディナさんが使用した【治癒魔法】というもので傷を治している姿に正直、無力感を感じざるを得なくなり、ガムシャラに入口付近に倒れた人達を奥へと運んでいたのみ。


 だからなのかもしれない。シルティアを呼んでも耳に入ってこなかったのは。

 僕は何も出来ないし、出来ていない。


 事実傷を治したリディナと敵と接敵出来るシルティアと比べれば、僕のした事はゴミのようなものだろう。


 その後、突然の痛みに悶えて、蹲っている僕に駆け寄ったリディナさんが「助けたいから誘拐するね、良いよね?ありがとう」と僕の意見は一切喋らせずに連れ攫われた。


 しかもガッツリと戦闘中で、シルティアと恐らく襲撃者であろう男と矢だけで交戦して、逃げるちゃっかりっぷり。


 ひょっとして、リディナさんってやばいエルフかもしれない。そんなふうに思い始めた頃、机にあるテレビやポータブル充電器等を見つめて、疑問に思った事を口にする。


「リディナさん。これ、何処で買ったんですか?」


「昨日の電気屋さん」


「お会計しました?」


「置いたよ?」


「何処にです?」


「床に」


「会計してないじゃん!何やッつぅ〜!」


 思わず叫んだ拍子に脇腹に空いた感覚が痛みを走らせて、僕の身体を項垂れさせる。

 厳密には、僕の身体は傷一つ負っていないし、傍から見れば何やってるんだ案件なんだろうが、知った事ではない。


 既に家電量販店で倒れた際に、リディナさんには、僕とシルティアの間にある生命の繋がり(ライフ・ライン)の事を説明している為、こんな僕の状況を理解してくれている。


 標的がシルティアであるのなら、僕を殺せば済む話なのだが、そうしない辺り、この妖精人エルフは真っ当なのだろうと考えさせられるばかりだ。


「大丈夫?待ってね。感覚遮断の魔法を掛けるから」


「感覚遮断?」


「うん。痛みも傷も治らない。受けた本人であるシルティアが治さないと、君の傷みも治らない」


 両手を僕の方へと伸ばしたリディナさん。その手を僕は掴んで下げさせて唖然とさせてしまう。


「⋯⋯じゃあ、良いです」


「え?いいって⋯⋯どういうこと?」


「だから、治さなくてもいいって意味です。アイツも今同じ痛みなんですよね?僕がそれに耐えないのって違う気がするから⋯⋯」


 実際は泣き叫びたい程痛いけど、耐えたい、耐えてみたいっていう感情がある。

 おかしな事を考えてるのは承知しているけど、それでも生命の繋がり(ライフ・ライン)に繋がれているせいで、これからの戦闘で僕に対して遠慮が生じて、シルティアが死ぬっていう事態だけは避けたかった。


 やれる事はやらなきゃ割に合わない。やれる事があるなら可能な限りはしなければ、釣り合わない気がした。


 僕は弱いからこそ、何も出来ないからこそ、これぐらいはしなくちゃいけない。


 けれど、目の前で不安そうにする彼女は違う。

 本当に心配してくれているのは目に見えて判っていて、僕の為に魔力というものを消費してどうにかしようとしてくれている。


 申し訳ない気持ちの方が強まる一方、でもこの人が僕を攫ったんだよな、という敵意も湧いてくるのだ。


 仮にも今日は月曜日。学校は不登校で明日には帰れると仮定しても、何かしらの事を言及されるのは嫌気が差してしまう。


「何言ってるの?貴方は巻き込まれて、彼女はそれを気にしないで戦ってたんだよ?君の事、無視して」


「そりゃ、無視された時は正直に悲しかったし、悔しかった⋯⋯けど、それって僕に足りないものがあるからで、アイツのせいじゃないんですよ。僕はアイツを命の恩人だと思ってるし、アイツがこの世界で少しでも生きやすくする為に、僕は頑張りたい⋯⋯」


「それが彼女の事を少しでも聞いた貴方の結論なの?」


「⋯⋯どうでしょう。存外、僕って単純だから。きっと、彼女の助けになって自分も満足したいんですよね。お互いにいい事したなって。そんな感じ」


 きっと自己満足。分かっている。彼女がどうなのかは知らないし、聞く勇気もない、臆病者で小心者という自覚もある。

 もし、否定されたら立ち直れないし、地団駄踏んでソファに転がって床に落っこちて、頭ぶつけてしまうだろう。


「⋯⋯君は馬鹿だね」


「そうかもしれません。⋯⋯僕は馬鹿だから、あんな如何にも危ない人と関われちゃうのかも⋯⋯。でも、馬鹿で良かったと思ってます」


「どうして?」


「馬鹿じゃなきゃ、リディナさんとも逢えてないでしょ?ちょっと、嬉しんですよね。リディナが良い人で、そんな人と逢えた事」


「⋯⋯君は大馬鹿だね。解った。そこまで言うなら、感覚遮断の魔法は掛けない」


 青い瞳が瞼に隠れて、徐ろに立ち上がった。そして、近くにあるドラム缶の上に置いてあったらしいスマホを手に取り、出入り口へと向かう。


「どこに?」


「電話掛けに行く。私はこれでもシルティアを殺す為に来ているから」


「あ、あの!⋯⋯出来れば、止めて頂くって事は、出来ないですか?」


「⋯⋯無理だね。君は私にまだ恩がある」


「え?」


 素っ頓狂な声を出してしまったのは、言うまでもなかった。


 シルティアに因縁がある故に、それ関連の言葉が出るとも思っていたのだが、斜め上の解答が飛んできた僕の頭は一度フリーズして、再度起動し直すと、また考えさせられる。


「君が寝ていられたのは私の魔法によって一度痛覚遮断を受けたから。そして、君は既に私の買ってきた飲み物に口をつけた。二回分恩がある」


 つまり、彼女が僕に対して施した数が恩という言葉に変換されている、という事なのだろうが──正直、この人面倒臭いな。


 そう思ってしまっても罰は当たらない筈。


「そんな事言ったら、勝手に誘拐したので、一個取り消してください。後、商品選び手伝いましたよ?」


「商品選びは君をあの戦闘区域から君に瓦礫や障害物が当たらないようにしてたから無効だよ」


「何それ、知らない⋯⋯」


「言ってないもの。恩着せがましい事はしない。うん」


「今現在進行形で恩着せがましいんだよなぁ⋯⋯」


「⋯⋯後、一回。私の方が恩がある。だから、君の言う事は聞けない」


 逆に言ってしまえば、僕の方が一恩でもあれば、彼女になんでも命令出来てしまうという事だ。

 彼女の恩を感じる感覚がイマイチ掴めない為、どれが判定となるかは分からない。

 また、あまりに執拗いとそれすら逆手に取られかねない為、深追いはしないでおく事にした。


 けれど、そんな僕にも抵抗の意思はハッキリとあるのだと示してみたくなり、彼女に言葉を投げる。


「分かりました、分かりましたよ。じゃあ、僕は今日から一切飲まず食わずで餓死するまで何も飲食に手を付けません」


「その時は無理矢理食わせる。私、命の恩人になっちゃうね?」


「アンタ、それ無敵過ぎるだろ!」


「ぶい!」


 優雅に右腕を突き出して、瞼を閉じてからのブイサイン。口角も自然と上がっているのか、笑む様子はなんとも愛らしく思えてしまう。


「可愛いなぁ、おい」


 思わず本音が出てしまったが、まぁ良いだろう。


 そんな彼女は僕の方を見つめながら、扉を閉めて、鍵を掛けて鎖を巻き付けて行ってしまった。


 出て行こうにもどの道、此処が何処かまるで分かっていないのが現状であり、無闇に動くのはどうなのだろうか。

 もしかしたら、僕が住んでいる地区からかなり離れた所の可能性すらあり、腹部の痛みが動こうとする身体を無理矢理締め付けるようにして、ベッドへと身体を誘導した。


「暇だ⋯⋯」


 そんな呟きは廃工場と化したこの場所では寂しく消えていくのみで、布団に顔を埋めてしまう。


  ━ ━ ━


 廃工場を出たリディナはスマホを操作して、通話をする。相手は依頼人である男だ。


「もしもし、リディナ──」


『良いから、要件言えっての!』


 かなり苛ついた物言いで返事をされてしまい、落ち込んだ様子で口を開いたリディナ。


 ただ、ここで文句は言えなかった。

 彼女は何もしていなければ、何も出来ていないのもまた事実であり、彼女からすれば下手に出るしかないのである。


「ごめん。昨日の時点で『紅閃姫』は仕留められなかった」


『⋯⋯まぁ、期待しちゃあいなかったがよぉ〜。お前、酷くね?』


「ごめん」


『そんで、どうすんの?』


「今日には終わらせる」


『期待して良いのかよ?』


「良いよ」


『期待しないで待ってるぞぉ〜って言った方が良いのかな?あっはっはっは』


 愉快な笑みなどでは決してないとリディナの耳は判断してしまう。

 どう聞いても、敢えて憤慨しそうになっているのを誤魔化すように笑っているようにも聞こえてしまえるし、邪険にされている感じが滲み出ていた。


 けれど、そんな報告をする為だけに連絡を取った訳ではない。

 通話をしたのにはちゃんとした別の理由があるのだ。


「ところで、聞きたい事がある」


『あ?何よ?』


「昨日、私とは別の奴が『紅閃姫』を襲っていた。何か知らない?」


『それ、成功したのか?』


 訝しむような声色は、先程までと違って真剣そのものであり、突然の変化にも近いその声に思わず上擦った声を上げてしまうリディナ。


「ううん。私が飛ばしたから、彼は殺れてない」


『そりゃ良い!早ぇとこ、その『紅閃姫』ってのを叩きのめしてくれないか?』


「解ってる。でも、彼の邪魔も入るかもしれない。何か情報ないの?」


『推測だけどよ。そりゃ、俺の商売敵が用意した殺し屋だろうよ。掴んだ情報だけで纏めてしまうと、まず昨日の時点でお前に始末して欲しかったのは、その殺し屋が昨日の段階で『紅閃姫』を殺すって情報が入っていたからだ。けど、それ止めたんだろ?』


「うん。止めたね」


『だったら、今日中だ!それしかねぇ!』


「どうして、今日までなの?」


 リディナの素朴な疑問。シルティアが今日、明日に異世界に帰れる目処のようなものが立っているのならば、まだしも随分と急かされているようにも思えるその言動に違和感を覚えてならなかった。


『そりゃ、その殺し屋が殺し屋として雇われてる期間が今日までだからだ。それの対抗馬としてお前は宛てがわれたんだから、今日までだろうよ?』


 そういうものなのか程度に納得したリディナの表情は納得のいっている顔付きには思えず、訝しむようなものであった。

 仮に、今通話している男が目の前に居たならば、怪しまれる事は確実であったであろう。


「仮にその殺し屋が今日失敗したら?」


『お前が殺ればいいだろ?』


「出来なかったら?」


『お前には死んでもらうだけだ』


「⋯⋯判った」


『話が早くて助かるぜ。あ、逃げても無駄だかんな?俺達ゃ、この国ならば何処でも、何時でも、お前を監視出来る。それを忘れんな?』


「でも、昨日の戦闘は見てないんでしょ?どうして?監視してるんじゃないの?」


 間違った事自体は決して言っていないのだが、空気とタイミングを読み違えたリディナ。

 そんな彼女と通話をしている男は眉間を思わず摘んで、瞼をグッと堪えるようにしている。


『⋯⋯⋯⋯お前、余計な一言が多いって言われねぇか?』


 絞り出すように出た言葉はもはや憐憫すら抱いたものであり、怒りや呆れは通り越してしまっていた。


「ううん。ない」


 そんな憐憫の情には一切気付かず、淡々と過去を振り返り、その結果として首を振った彼女。


 電話越しでは表情が見えない故に、男がリディナの飄々とした顔を見ないで済んだのは、不幸中の幸いである。

 見えてしまえば、感情の沸点は一気に最高潮なのだから。


『そっか⋯⋯まぁ、良い。そんなに見て欲しいなら、今日は監視も付けて置いてやるよ!』


「そんな事なら、シルティアの居る位置を教えてくれた方が有り難いんだけど?」


『お前、マジでその『紅閃姫』って奴の住処行ってないんだな⋯⋯』


「うん。だから、これから行く予定」


『ほほう!良いねぇ!盛り上がって来るねぇ!』


 調子が上がった様子で、通話は切られた。スマホからは何も聞こえなくなってしまい耳から離した彼女は男の言葉に首を傾げる。


(盛り上が⋯⋯る。何処が?)


 潮風が一切漂わない廃工場において、男の残した言葉を考えるリディナ。

 そんな時、お腹が鳴ってしまい、無意識に手を抑えてしまう。


「お腹空いちゃった⋯⋯」


 呟いた言葉に呼応するように、空腹感を感じ始めたリディナは、踵を返して、再度手間取るように鎖と扉の鍵を開けて、中へと入る。


 ベッドに寝転んで痛んだ脇腹を抑える浩史が顔だけを向けた。


「電話終わりました?」


「うん。⋯⋯ねぇ?その箱に入ってるお弁当、何が美味しいの?」


 机の下にあるダンボールに手を掛けて、漁るようにして、机の上へと並べていく。


 購入した本人でもあるリディナだが、どれが美味しいか、好み等は問わずにスーパーにあるものを片っ端から選んだのみで、弁当というものを食した事がないのだ。


 未知の箱、中に詰まった具材と米、おかずの魚のフライや海苔。

 五目ごはんが主軸の弁当もあり、机に並べて観察するようにして見ている彼女の横へ立った浩史は、リディナに問う。


「何がって⋯⋯。嫌いな食べ物はなんです?」


「マジョルーヌ・キャロットとミガラン」


「全然!知らん!」


「この世界だと、人参っていう食べ物に近いのと、カラシだと思う」


 異世界へとやって来た際に得た知識は元いた世界の食材との比較をさせる。

 けれど、あくまでも推測の域を出ない範囲であり、食べなければ確信的な事は何一つとして分からないのも確かなのだ。


「うーん、だったら⋯⋯。これかな?リディナさんでも食べられるのは」


「貰うね」


 受け取ったのは、鮭と卵ときんぴらごぼうと白米の上に海苔が箱に入ったお弁当。


 つまり、海苔弁当である。


 五百円程度のお手軽価格であり、浩史から見てもすぐ側にあるから選んだという理由ではあるが、それを興味深そうにして見つめるリディナはその弁当の箱を開けた。


「貴方は食べないの?」


「食べたら恩が増えるからヤダ」


「⋯⋯こうなったら、実力行使で食わせようかな」


 割り箸を丁寧に掴み、米粒を口元へと押し付けようとするリディナ。


 一歩、二歩と後退していく浩史は手を前で振りながら、拒否反応を示す。


「冗談、だよ?」


 そう言うと、バクバクと口に海苔が上に乗った米を食い、焦げ目が付いた鮭を頬張りながら、座り込んだ。


 脱力したように、肩から力が抜けて、腕をブランとさせて腹を抑えながらベッドへと戻った浩史は美味しそうに弁当を食している彼女を見る。


「この人、シルティアと違って冗談通じる側か⋯⋯」


「シルティアは脳まで筋肉に支配された人間だから、仕方ない」


「脳までって。⋯⋯そんな、腕や身体が筋肉に覆われているみたいな」


「貴方は知らない。シルティアが如何に怪力かを⋯⋯」


 それはある日の戦場において、魔物の腕を引き千切り、また別の日は巨大な熊と一騎打ちの戦いにおいて剣を持たずして、力ずくではっ倒した功績を挙げたり、更にある日の夜は、世界一硬いとされる岩にひびを入れたり。


 そんな光景を目の当たりにしてしまっているリディナは震えた様子で箸の動きが止まる。


 だが、異世界での怪力話には劣っても、浩史にもシルティア怪力話はあるのだ。


「あ、いや。それは知ってます。家のゲームコントローラーを握って粉砕されたんで」


「可哀想」


 泣くふりをするリディナは両人差し指を目元に当てる。ご本人がいれば激昂する可能性すらあるムカつく程の煽り方に浩史は苦い顔を浮かべるのみである。


「因みにリディナさんもシルティアもなんでそんな怪力持ちなんですか?パッと見だと、普通に華奢ですよね?特殊な訓練でも受けたんですか?」


 空腹が満たされたご様子であり、海苔弁当を完食したリディナは大きな欠伸をしながら、腕と背を伸ばして浩史を見る。


「魔力が原因かな。この世界の人達も持ってる」


「魔力⋯⋯。僕にもあるんですか?」


 羨望が湧いたように、目を見開いた浩史。


 ソワソワとした様子で、問い掛けられたリディナは首を僅かに傾げてしまうも、正しい知識を少年に与える。


「あると思うよ。使わないとそれは表に出ないから。だから、見えない」


「シルティアの赤色のアレが魔力ですよね?後、リディナさんの緑色のも。色って人によって違うんですか?」


 更に言えば、フィローネは水色の魔力を帯びており、人によって魔力の色の違いというのは、人が醸し出す雰囲気の違いのような物程度に見ていた浩史。


 けれど、人の雰囲気なんて抽象的が過ぎて、説得力にも、納得にも欠けていたのだ。


「うん、違う。血筋で変わるけど、シルティアとその家族は常に赤いし、私もその祖先も緑色」


「僕、魔力について詳しく無いんですけど、教えて欲しいなぁーって、駄目ですか?」


「良いよ。食べ終わったからね」


「ありがとうございます」


「⋯⋯でも、知ってどうするの?」


 空箱となったゴミを袋に放り込み、入ったのを見届けたリディナは立ち上がり、ベッドに座っている浩史の隣へと座った。


 目線を合わせるように、または逃がさないように。


「知っても⋯⋯私が彼女を殺せば、君は関わらなくなるよ?」


 リディナがここに居る理由、浩史を監禁している理由。それはシルティアの殺害が全てであり、それ以外の理由は存在しない。


 基本がブレていない彼女なのだが、一つだけ見落としていた事がある。


生命の繋がり(ライフ・ライン)で繋がってるので、リディナさんがシルティアを殺せば、確かに僕も死にますね」


「⋯⋯⋯⋯そうだった。失念してた⋯⋯。どうしよう」


「マジでこの人、殺し屋なのかな?」


 口をポカンと開けて、項垂れるような姿勢になってしまうリディナを見た浩史は思わず口にしてしまう。


 対象以外には比較的に優しい彼女の最大の失念であり、とんでもない誤算。

 計算通りに物事がいかないのは、何時も、何処でも、誰でも一緒である。


  ━ ━ ━


 彼女、リディナ・ウーバルの自論も込みではあるが、魔力について詳しい説明を受ける僕。


 魔力とは身体に流れている血液等とは違い、普通は視認出来ず、そこにあるというのが識別出来ない概念であるという事。


 魔力を用いて身体強化を行い、流し込む事で強度を向上させる事も可能で、応用性が高いように感じる僕なのだが、物に流し込んでも、その物質の硬度が送り込んだ魔力に耐えれなければ即粉砕するらしく、リディナさんはそうして戦う術を無くして死んだ者を多く見てきたらしく、魔力有りの者が魔力無しの者を一方的に蹂躙する様は悲惨そのものだったと語る。


 肉体年齢が全盛期の時に遺伝によって決まっている魔力の総量はピークへと向かい、そこから落ちる事は無い。

 しかし、魔力にも強度のようなものがあるらしく、強度そのものは魔力を日々使い続けて鍛え上げなければならないらしいのだが、肉体改造で鍛え上げた事のない僕にはその苦労は少し分かりづらいのだ。


 そして、リディナさんは更に語る。


「あくまでも、魔力は糧なの」


「糧?はて、何のですか?」


「魔法の糧。この世界で言い換えれば、燃料」


 車を動かすのにはガソリンがいるように、人には食べ物がいるように、魔法とかいうオカルトの最高峰みたいなものにも必要なエネルギーがいる。


 それが魔法にとっては魔力であるというだけ。


「使える種類も数も遺伝で決まっちゃうけど、使えたらやっぱり便利だよ」


 格差社会が広がりそうな事この上ないが、魔法自体使えるようになったのが人為的や作為的でないのなら仕方ない気もしてくるが、王女であるシルティアだって、遺伝子によって決められた魔法を駆使して戦っているのだ。


金髪ちびっ子(フィローネ)』や『茶色い鱗の子竜(ワイバーン)』と紅く光る何かをまとって、窮地を救ってくれたが、あれがようは魔法なのだろう。


 そう考えると男の子心が燻るというか、何かワクワク感があるのだ。

 けれど、良く考えれば僕はこの世界で生まれて育ってる立場で、リディナさんやシルティアのようにあちら側からやって来た存在じゃない。


「僕、リディナさんの世界の人間じゃないから魔法なんて使えませんって」


 自分で言ってて悲しくなってしまう。


 とはいえ、自分で期待して勝手に失望しているだけだから、何だよって話に落ち着いてしまうのだが。


「世界全体が薄い魔力の層みたいなので満ちてるから、それを吸収出来る人なら、見えるようになって、何時かは使えるようになるかもね⋯⋯まぁ、居ないと思うけど」


「ん?⋯⋯え!あの軽く言いましたけど、この世界に魔力、あるんですか?!」


 隣に座る彼女に迫る勢いで前屈みになる僕に驚いた様子のリディナさん。


 僕はどうやら本当に単純らしく、何かしらの方法で魔法が使えるのではないかってまた勝手に期待している。


「あ、あるよ。因みに君は、シルティアと繋がってるから見えづらいんだよ。余計な事をする筋肉だよ、ホント」


「そうですか。まぁ、そのおかげで生きてるので。ははは⋯⋯」


(吸収ってどうするんだろ。聞いてみようかな?)


 リディナから距離を離して、改めて痛んだ身体をベッドに預けた僕。


 この世界にも魔力があるのなら、魔力っていうのはどうやって補填しているのか。


 思えば、あれほどボロボロだったシルティアも食べて寝てを半日してるだけで回復していた。

 本当に傷が嘘のように治っていたが、あれはなんだろうか。


「あの、シルティアを拾った時、ボロボロだったんですけど、次の日には全快してて、何か理由ってあるんですか?魔力が戻ったから、うんたらかんたらと言ってたんですが?」


「⋯⋯魔力って一日で人によりけりだけど、ある程度は回復するの。人の身体も傷が付いても治るでしょ?あれと同じ⋯⋯」


 死んで入れ替わる細胞と一緒なのか、少し疑問は残ったが、自然治癒するという意味では同じなのかもしれないと理解した僕。


「じゃあ、魔力が回復したら、傷が勝手に治るんですか?」


「ううん。魔法か自然に治すか、ここだとお医者さんに見てもらわなきゃ駄目だね」


「え?じゃあ、シルティアって勝手に治ったか、魔法使ったって事になりますよね?⋯⋯そんなすぐに治る程の傷だったかな?」


「多分、あの子の剣だろうね」


「剣?あの赤い?」


 赤と金の装飾が施された綺麗で重厚感のある直剣。


 初めて会った雨の日は、地面に転がっていて、勝手に消えたと思えば、ショッピングモールで伸ばした右手に自然と現れたあの剣。


 どう見ても漫画とかアニメさながらの剣で西洋の剣ってイメージがあるあの剣はとても凄い人が造ったのだろうと何も知らない僕でも判る程には魅了されるものであった。


「うん。あれって神造器(アーティファクト)だから。えぇと、簡単に言えば神様が、大昔に造っちゃった武器なり防具なりの事だよ」


 造った人ではなく、神様との事。


 神様って神話でも人になにかよく渡して試練与えたりする話が多いが、そういうのが当時のトレンドだったのだろうか。

 僕は神様なんて居ない派だから、正直軽く見てられる程度だけど、あくまでもこの世界の神様は居ないであって、シルティアの世界にも居ないとは断言は出来ない。


 本当に居たとしても、何故神造器(アーティファクト)なんていうものを造ったのかを知ろうとは今の僕には思えない。


「シルティアの奴も言ってたな。女神なんちゃらの加護があらん事を〜的なの」


「『女神リャーナ』だね。バルファザル王国は美しい女神によって創設された国としても有名だから、信仰が厚いんだよ。王族なんて必然的にね。だから、シルティアも『女神リャーナ』の名前を出したんじゃない。まぁ、あの子が信仰で跪いているなんて私から見たら笑い話だけどね」


「え?どうしてです?漫画とかアニメとかでシスターが拝む様子って割とありますけど、他人ってそれを笑ったりしませんよ?」


 むしろ邪魔しちゃ悪いよね、あっち行こ、となるまである。


 修道服に身を包んで像なりタペストリーなりに祈るなんて健気だなぁと思うだけで、それ以上の感想は湧いて来ないものなのだが、リディナさん的には違うようだ。


「それは、その人の事をよく知らないか、イメージが付き過ぎてるだけだね。信仰自体が悪いって事じゃなくて、その人の生き様とやってる行動に、見てる人は懐疑的なまでに違和感が生まれてるんだよ」


「シルティアが何かしたと?」


「したというか、やらざるを得ないというかね。⋯⋯兎に角ね、神様や女神様を信仰するよりも身体を動かして暴れてるのがお似合いって事」


 かなり棘がある言い方で反応に困ってしまう。


 彼女とシルティアにはそれなりの因縁があるようだが、それを聞いても良いものかも判断が付かない僕は、本来の質問へと軌道修正を図った。


「そ、それで⋯⋯その、シルティアの使ってる剣は神様が造ったというのは解りました。でも、どうして治ったかを聞きたいというか⋯⋯」


「私も詳しく知らないよ?多分って言ったよ?」


 多少苛ついたのか、困惑したのか微妙な感じに眉をひそめたリディナさんは首を傾げて僕を見る。


 こんなに綺麗な人で、華奢な身体付きをしていると分かっていても、実際に取っ組み合いの喧嘩になれば百パーセント僕は敗北するという事を危うく忘れそうになり、ハッとなって頭を下げた。


「あ、⋯⋯すみません」


「怒ってないから良いよ。それに本当に知らないんだ。私もあの剣を持った彼女としか会ってない。魔法が派手で凄い目立つ、目立ちたがり屋な魔法と馬鹿みたいにでかい斬撃。あんなのインチキって思える」


 馬鹿でかい斬撃というのは知らないが、目立つのは判る。あれで雨の中、暗くなった雨の夜でもすぐに彼女だと視認出来た訳で、意外と判別もしやすいと思った。

 そして、そんな魔法をカッコイイ、使ってみたいと思った僕も含めて、知らず知らずのうちにリディナさんは攻撃している事に気付いてくれない。


くれないの魔法だけに、気付いて()()()()ってね!)


 ⋯⋯何考えてるんだろ。


 切り替えるように、頭を振った僕とそれを見て不思議そうに見つめるリディナさん。


 魔法について、僕はリディナ先生に聞きたい事があるのだ。


「そういえば、魔法の時って何か叫んでましたけど、あれって必須なんですか?」


 そう、それはシルティアが叫んでいた『スカーレット』?という単語の事だ。


 初めて聞いた時は鼓舞のようなものかとも思ったが、何故か発光をし始めるし、速くなるし、ワイバーンの翼とかバッサバッサと斬り倒すしで、状況が理解の範疇を超えてしまって、本人に聞く事を忘れていたのである。


 ショッピングモールでのあの遺体を目撃してしまったというのも大いにあるが──いや、止めておこう。

 これ以上は気分が悪くなるばかりで、いい事が本当にない。


 そんな僕の心境とは別に、軽い口調で話し始めるリディナ大先生。


「魔法はね、【詠唱】っていうのを言わないと基本的に使えない。⋯⋯まぁ、例外は居たけど」


「詠唱ってあれですよね?よく台詞的な奴ですよね?」


「そう。なんで言わなきゃいけないかは知らない⋯⋯けど、憶測ていいなら言える」


 僕は彼女のその言葉に手を伸ばして、どうぞとジェスチャーを送る。

 それを受け取った彼女の言葉は弾む。


「多分、生物自体が【詠唱】っていうのをイメージを象らないと【魔法】にまで昇華しないんだと思う。人だって慣れない事をする時、見本を見て頭でそれが出来るかイメージするでしょ?あれと一緒。そうしないと創れないんだよ⋯⋯【魔法】は」


 小学生の頃にやった鉄棒の逆上がりはどうも苦手で、人のを見ていた。

 それが自分に出来るものかどうかを考えて、イメージを作っていたのが思い出される。


 魔法が使えるようになるまでの経緯は知らないが、使えるようになるまでのプロセスにはイメージというものが必要不可欠なのだろう。


 あれをしたい、こうでありたい。というような。


 けれど、そうなると遺伝的に使える魔法が決まるというものと矛盾が生じる事になる気もする。


 双子の子供がそれぞれを全く別の環境に送ったとして、一方が劣悪で、一方が裕福とする。

 リディナ先生の仮説が正しければ、使える魔法は同じという事になるが、話してくれた内容が事実ならば、その双子はそれぞれ別の魔法を覚える気もするのだ。


 それとも、僕の見通しが甘いのかもしれない。


「因みに例外って言うのは?」


「【最後にして(レナトゥス・)偉大なる勇者(ブレイヴァー)】と【災源アーク()魔女(ウィッチ)】っていう私達の世界ではトップ層の化け物、それと行方不明の【評導者バイザー】って人達は詠唱なしでボンボン魔法を撃てる。要は頭がトんでるって思って」


 何故か、語気が強まるリディナ大先生の口から、随分とカッコイイ二つ名が並んだが、何故か気になるのは【最後にして(レナトゥス・)偉大なる勇者(ブレイヴァー)】と【災源アーク()魔女(ウィッチ)】の二人であった。


 真っ先にその二つ名を挙げた事もあるのだろう。


 無意識の内にその二人を頭の中で想像してみる。


 一人は金髪でもう一人は銀髪の男女。


 名称不明な勇者の装備(笑)な甲冑を身にまとって、剣を振り回す如何にも勇者みたいな者と、黒いドレスとヒールを履いて、宙に浮いて高笑いしながら人を虐殺する高飛車な女。


 そんなのを想像してしまい、何故か鼻で笑ってしまった。


(そんなに奇想天外な奴らな訳ないか。むしろ二つ名を受け入れてそうな奴らっぽいし、変人ではあるんだろうけど)


 僕なら憤死してしまう。恥ずかしさで。


 想像して欲しい。街を歩いていて、横切った人や、建物の窓から偶然顔を出した人達に、二つ名で呼ばれて手を振られたり忌み嫌われたりするのだ。


 僕なら家に引き篭る自信がある。

 ましてやこの世界はネットがあり、拡散待ったなしの緊急事態案件である。


「どうしたの?」


 どうやら、馬鹿みたいに考え込んでしまった為に、リディナ大先生の講義を邪魔してしまったらしい。


「ご、ごめんなさい。なんでもないんです」


 言える筈がない。勝手にとんでもない変人へと脳内補完して勝手に満足してた事もそうだが、会った事もない奴らを小馬鹿にする感じだった為、リディナ大先生にはとてもじゃが言えない。


 言ったら怒られそうな予感すら僕にはあった。


 話を戻す為、僕は咳払いをして、状況を整え直そうとして、リディナ先生を見つめる。


「詠唱なしって、頭の中で思い描いた図面とかイメージを紙にすぐに描けるみたいな感じなんですか?」


「まぁ、それで大丈夫。私にはその感性が解らないからその辺はお任せするよ」


「⋯⋯思ったんだけどさ」


「なに?」


「もしかしてだけど⋯⋯。妬いてる?」


 詠唱無しの人物の名前を挙げた時、そして、その話題をする時、妙なぐらい棘がある風に聞こえてならないと感じた僕は思わず聞いてしまう。


「⋯⋯⋯⋯妬いてない。羨ましいだけ」


「まぁ、言い方次第だけど⋯⋯。僕からしたら、魔法を使える時点でリディナさんも上澄みみたいなもんに感じるけど、違うの?」


 僕だって羨ましいと思ってしまう。魔法だよ?使ってみたいかと聞かれたらそりゃYESと口を大きくしながら言う。


 そんな僕とは生まれと育ちの環境、世界が違うリディナさんは面白くは無いのだろうと感じた。

 露骨なぐらいに表情は暗くなってしまい、視線は僕から逸れていく。


「違う。私は弱いよ。少なくても妖精人エルフの中では弱い部類」


「嘘!⋯⋯あんなによく分からない格好した人とシルティアを手玉に取ってて?!」


 僕も倒れ込んでしまっていたからちゃんと見た訳ではないけど、視界に捉えた光景を見ていた限り、かなり優勢な感じに、シルティアと家電量販店を襲撃した革ジャンの男を圧倒していた印象がある。


 まぁ、唸って痛みに耐えていて、声はちゃんとは拾えなかったが、何となく言ってる事も理解しているつもりだ。


 彼女は僕の為に怒ってくれている事も、それとは別に僕を誘拐しようとした彼女に怒ったシルティアの叫び声も何となくではあるけど。


 二人は因縁の相手感があるのだという事も屋上で寝かされている時に気付いたし、そのぐらいバチバチだった感じはする。


「正面衝突なら間違いなく負ける。搦め手込みなら私ってだけ。それに、妖精人エルフは本来、魔法が得意だから」


「イメージ通りってやつですね」


「でも、私は『魔法』よりも『肉弾戦ぼうりょく』の方が得意だから⋯⋯。だから、皆みたいになれない」


「へぇ〜。妖精人エルフってそんなに凄いんですね⋯⋯。よく知らないですけど。体力なくてMPメッチャあって、回復と攻撃の魔法が得意。そのくせ速いし美男美女が多いってイメージが拭い切れないなぁ。老けにくいとか、森にずっといるとか!」


 はい、殆どゲームの知識です。

 というか、基本そこからしか人間以外の種族の情報を取り入れていないまであるし、知ろうとする機会少なくないですかね。


妖精人エルフだって老けるし、一歩間違えたら魔物になるよ?」


「え?」


 魔物という単語に僕の表情筋は麻痺をしたように固まった。


 魔物と言われて思い浮かべたのはあのショッピングモールを襲った『火ばかり吐く小竜(ワイバーン)』だが、あれと同様になるという事なのだと、僕は思考が途切れてしまう。


 こんな、綺麗な人が『殺人小竜(ワイバーン)』と同じになるなんて、誰が信じられるだろうか。


妖精人エルフは特別だから。なにかの弾みで魔物になる。『妖精獣エルバス』って呼ばれてたかな?」


「いやいや!え?あ、あの、え?!リディナさんも⋯⋯な、なる可能性あるの?」


「あるよ。その仕組みは解ってない。だから、基本的に妖精人エルフは人里に行かない。行くのははみ出し者な私か相当に重い罪をもった者だけ」


「アンタ、はみ出し者なんだ⋯⋯」


 悪い意味で言ったつもりはない。むしろ、ならないように人里に降りない方が懸命で明確ならそうして欲しいものだったというだけの話。


 けど、言い方がまずかったのか、落ち込んでしまうリディナさん。


「ご、ごめん」


「いや、こっちこそごめんなさい。意外って言うか。優しい人だって思ってたから、どうしてだろうって思っちゃいまして⋯⋯」


「『優しい人』より『強い人』が求められる時代だからね。強くないと対処出来る事、少ないから。だから⋯⋯」


 首を傾げた。僕が首を傾げて、彼女が不安そうに見つめる。


 どうしてそうなるのだろうか。


『弱い人』は『強い人』と比べられて要らなくなるというのならば競争社会や勝ち負けの世界ならよくある事でまだ解る。


 よくやるゲームでも弱いキャラクターよりも強いキャラクターで進んだ方が得だし、現実の人生においても、やり直しが効かないのだから、その方が自然の摂理だと言われて納得も出来る。


 けど、僕は『優しい人』と言ったのに対して、比べるものの基準が『強い人』である事が理解出来なかった。


「『優しい人』と『強い人』って、両立しますよね?強くて優しいなんてそりゃレア中のレアだし、欲に負ける人も多いですけど、僕から見れば、リディナさんは強く感じるし、優しい人だと思います。まぁ、僕の偏見ですけどね?」


 僕基準というのは僕の視点で僕の感じる指標。


 事実として、僕よりも強いし、何も言わなくても人を治そうと魔法を使っていた。

 これが優しくないのなら、何が優しいのだろうか。


 率先的に傷は見ていたし、目的の為に手段を選ばない人物という訳でもない。

 むしろ、友好的であろうとするのに裏があるかと疑いそうになる僕の方が悪く感じる程には良い人なのだと、声を大にして言いたいぐらいだ。


「⋯⋯君は優しいんだ」


 消え入りそうな声が耳に響く。


 僕はそんな大層な人間なら、高校生活を謳歌しながら、無償のボランティア活動に勤しんでいる頃だろうが、現実としては怠け者で適当で面倒臭がりな普通の人間。


 嫌な事は嫌な顔しながら、人の顔色を窺いながら楽な道に行きたがる臆病者と捉えてくれても文句は言えないぐらいに普通で、短絡的かつ単純な存在が僕だと自称出来るし、誇りに思っている。


「まさか。優しい奴ならもっと上手く言いますよ?甘い言葉掛けますし、全肯定のイエスマンになります」


「そういうものなの?」


「落ち込んでるが傍目で見ても分かるので、多分優しい人はそうするんじゃないですか?身内なら変わるかもしれないですけど⋯⋯。でも、僕は優しくないんで、肯定しませんよ」


 自分に甘く、他人に厳しくありたい。それが僕、三崎みさき浩司こうじ、十六歳の囁かな願いである。


 だから、他人には甘い言葉よりも苦い言葉を。


 好きな食べ物が被ってしまい、それが目の前にあるのならば騙してでも食いたいのが僕だ。


「⋯⋯⋯」


 だから、ぼくが投げる言葉はきっと、自分を納得させるものなのだろう。


 シルティアがいる日常というのを確固たるものにしたい僕の甘えで、それが揺るがないように楔を打っておくだけの言葉。


「リディナさんは優しくて強い人だって言い続けます。リディナさんが変わらない以上は、ずっと」


「⋯⋯もう行かないと」


 顔を逸らして立ち上がった彼女。


 ベッドは微かに揺れて、左方向にある扉へと歩んでいく。


「ここから出たら駄目だよ?私、鍵よく閉め忘れるけど、間違えても出たら駄目。貴方にシルティアを殺す所、見せたくないから」


「⋯⋯」


 彼女は颯爽と行ってしまう。淡々と歩き、振り返る事もしないリディナ先生は殺し屋のリディナさんへと戻り、倉庫の出入口の扉を閉めた。


 出入りの度に聞こえてきた鎖の音と鍵の音が聞こえなかったのに、思わず微笑んでしまうぼくは右わき腹を手で抑えて、机にあるスマホを見る。


 自身のは暗くなった家電量販店で色々としてる間に落ちて踏まれて、壊れてしまったが、その代わりは既に彼女が買ってくれている。


 講義のお時間が始まる前にポータブル充電器でスマホを充電していた僕はそのスマホを手に取った。


「嘘が下手だなぁ⋯⋯。ちょっとしたら行くか〜。スマホの充電、もう良いよな。⋯⋯げぇっ!初期設定からですか?⋯⋯め、めんどいッ!」

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