4話 火中のシルティア
家庭用ゲーム機のコントローラーをとんでもない怪力によって粉砕されてしまった浩司と壊した張本人であるシルティアは現在、家電量販店へと向かっていた。
泣き止んだシルティアからすれば、手元にあった筈のコントローラーは力の入れすぎによって粉砕してしまっており、浩司から見れば自身のせいで壊させたという罪悪感のようなものに苛まれているという状態である。
しかし、シルティアとて多少の怒りは感じていた。
始まりは浩司の慰めにも近い形で対戦ゲームをする予定だったのだが、一人用でホラー要素満点であり、横では野次の如く煽るような言葉を吐き散らかす。
ゲーム中は画面に集中しなければマトモに操作も出来なかった故に言えなかった言葉は、語気を強めて言えてしまえるのだが、その機会はコントローラー粉砕によって遮断されてしまい、モヤモヤだけが残って、浩司の隣を歩いているのだ。
一方の浩司はかなりの恐怖がある。
コントローラーを握っただけで粉砕という怪力具合いにかなり動揺してしまった事とシルティアの表情から滲み出る『話し掛けるなオーラ』のようなものが浩司に発汗を起こさせていき、世間話する余地を与えてくれない。
更に言えば、自宅に待機を勧めた時は、目を細められた挙句に睨まれて、萎縮させられて、気圧されて半ば強制的な同行という死神に鎌が首筋を掠めているかのような感覚が付かず離れずという状態であり、生きた心地がしないのだ。
その結果、黙々と目的地へと脚を運ぶロボットのようになっている。
そんな現状維持が出来るほどに浩司の心臓も肝っ玉も大きくもなければ、強靭でもなく、頑丈でもない。
むしろのノミといった方がまだ可愛げがある部類である。
「あ、あの⋯⋯シルティアさん⋯⋯。あの」
「なんだ?」
「あの⋯⋯その。ごめんなさい⋯⋯」
公共の道路のど真ん中。通行者も後方や前方から続々と日曜日という休日を満喫するべく歩いている。
そんな中、浩司の言葉でシルティアの歩く脚は徐々に停止していき、完全に止まった時に背後で後を追う浩司へと振り返り、問い詰めるかのように迫り来た。
「何がだ?何がごめんなさいなのか、言ってくれ」
「え、と⋯⋯。半ば強引に苦手な事をさせた事」
「まぁ、それに怒ってもいるが、それだけでここまでではない」
「え?⋯⋯違うの?」
「はぁ〜。行くぞ。邪魔になってしまう」
「⋯⋯⋯⋯ごめん」
その零れたような謝罪はシルティアには届かない。
雑踏に囲まれた日常を謳歌する者達によって掻き消えて、理由を探るようにまた歩き出した。
━ ━ ━
僕は初めて、女性の機微というものに悩まされて、理解したいと思っている。こんな事、来る日はないと何処かで他人事のように感じていたのにも拘わらず。
シルティアという一人の女性が怒っている理由が違った。出逢って数日足らずで何もかもを知っているとまでは言わないけど、それでも少しは知れたと感じた上でのこの突き放され方はかなり来るものがあって、イヤに心に響く。
けれど理由は自分であり、間違ってるのも自分だというのに、目の前を淡々と歩く彼女を怒らせた理由と考えていた怒りの理由とが噛み合わず、齟齬が発生しているのが悔しいのだ。
何時もの僕ならば、そんな事は割と気にせず、ポイ捨て感覚でその手の事は放り投げるものなのだ。
友達が何かに怒っていようと、基本介入する気もない訳で、巻き込まれても知らんぷりでその意図も手放して、見放して、捨て去る。
それが僕、三崎浩司という人間だ。
けれど、今回はそんな手放しも、見放しも、捨て去る行為もやってはならない。むしろ、考えるべきなのだろう。
自分で巻き込んで、自分で苦しめて、自分で泣かせて、自分で怒らせているのが滑稽で愚かな人間以外でなくてなんだと言うんだろうか。
既に家電量販店に着いた僕達。買わなければならない物は既に決まっている。
手早く帰って、手早く解決するに越した事はない。
ゲーム売り場へと歩く僕。歩道を歩いている時は前方に彼女の背中が見えたが、今は後方で顔が見える。
キョロキョロと電化製品ガキになる様子であり、見るもの全てが目新しいというのが、此方からも伝わってきた。
「色々、見てきてて良いぞ?⋯⋯気になるんでしょ?」
「⋯⋯⋯⋯」
返事がなかった。此方を向いて、何かを言いたげな表情を浮かべた上で、諦めた顔をした。
そして、「判った」と一言だけ言って、トボトボと歩き出す彼女の背中は少し寂しそうだったが、すぐに合流出来ると思いそのまま僕も背を向ける。
二階建てのこの建物は、一階が洗濯機やテレビや蛍光灯等の家電が主な取り扱いで、端には携帯会社と連携してスマホなどの機器が並んでいる。
二階はゲームや玩具、カード売り場となっていて、シルティアは一階に残り、僕は二階へと向かう為、エスカレーターに脚を踏み入れた。
ズラーッと並んだゲーム売り場は子供連れの大人が多く居て、友達同士の人達が箱パッケージを持って何やら話していたり、上ではアナウンスが流れていたりと様々な声や音が鳴っており、ヤケに煩く感じてしまう。
休日に家電量販店に向かう事などは珍しくもなく、ごく自然で当たり前な訳で、人の声を聞いていても不快になんて思わなかったというのに、今日に限って劈くように感じるのは何故なのだろうか。
六千円程しているコントローラーの箱を手に取り、会計へと向かう。中々に高くて出費したとも思うが仕方がない。
壊したままだと、シルティアが引き摺りそうな気がしたというのもあるし、コントローラーが二つないと二人で遊ぶ事も出来ないのだから。
懐かしいな。そう何気なく感じていた僕は購入したコントローラーが入った袋を持ち、一階にいるシルティアの元へと戻るべく、エスカレーターへと脚を踏み込んだ。小学生程度の子供が後方からバタバタと音を立てて、止まって下まで行く僕を追い越そうと駆けて来る。
身体は揺れて、声を張って、僕の身体とぶつかりながら、前方へと去って行く。
後方に居る両親はエスカレーターで立ち止まって話し込んでおり、子供が走って前へと駆けて行った事は分かっていても、僕にぶつかった事もそのまま家電量販店に集まる人混みに消えて行った事に気付いていない。
「自業自得だな⋯⋯」
見つからなくても知らないし、親の責任もある。散々騒いで結果的に喚く羽目になっても言ってやりたいものだ。
『見てなかったお前が今更騒ぐな』と。
とはいえ、今この世界にはシルティアのような異世界から謎にやって来た人間が居て、僕達のようなひ弱な人間と比肩する事は、もはや烏滸がましい程の力と能力があり、何かを間違えれば大惨事に僕達は巻き込まれるのみ。
そんな彼女等が居る世の中になりつつあるせいで、多少の不安もあるが、逆に言えばシルティアさえ居てくれれば守ってくれるという事でもある。
彼女は僕の護衛であると言っても、僕だけを守るという訳では無いのだろう。それが彼女の良い所だ。
後方でようやく子供が居なくなった事に気付いた親御さん達の声が聞こえる。
エスカレーターを降りた僕は、シルティアを探すべく、一階を散策して行く。
僕は奥から行き、徐々に戻っていくようなルートを取る為、中古のスマホが置いてあるガラスケースや受け付けや案内や解説をする人達が座る受付まで行くと、真横で何やら真剣な面持ちでスマホの紹介映像とそのスペック表を見つめる人がいた。
その人の背後を通ろうとする僕。
「ごめんなさい。ちょっと、いい?」
「⋯⋯あ、僕ですか?」
「うん」
白のパーカーにフード被り、鼻元までが綺麗に見えて、目元が隠れている怪しい人に声を掛けられた。
背後を通っただけなのに、紺色のスカートを靡かせて声を掛けられた僕は、店員と勘違いしていると思い込んだ。
「すみません。僕、店員じゃないんです」
「知ってる。それでも声を掛けた」
「は、はぁ⋯⋯」
「今、新しいスマホっていうのは、どれ?」
どうやら新品の最新機種をご所望のようだ。思えば僕のスマホももう、そろそろ替え時かもしれない等と思いつつ、三ヶ月前に出たばかりの最新機種のスマホを指差してそれを示す。
「これですよ」
「ありがとう。⋯⋯どうやって買えばいいの?」
「えぇ?⋯⋯あぁの〜、店員さん呼んだ方が⋯⋯」
「何処の誰が店員?って人なの?」
正直、かなり困惑してしまった。店員なんて今さっき僕が歩いて来た通路にも、エスカレーターを降りている際にも目視で見つける事は容易であり、探そうとしなくてもすぐに見つかる。
ここで、適当な対応で去るのは簡単だし、言い訳だって思い付く。
だけど、困ってそうな声色からどうしたら良いのか判らないというのは本当に感じて、手間も大して取らないと考えた僕は提案した。
「分かりました。ちょっと待ってて下さい。僕呼んでくるんで⋯⋯」
「いいの?」
「呼ばないと買えないでしょ?」
「そ、そうなの?」
「ちょっとそこに居てください」
そう言い、僕は女性の元から離れて、近くに居る店員へと声を掛けて女性の居る場所まで案内したのだが、何故か居ない。
一分はおろか、三十秒程の事だというのに、どうして居なくなったのか。
(異世界の人に攫われた?⋯⋯何かに巻き込まれた?)
僕の思考は早くなる。けれど、決して頭が良くなった訳ではなく、色々と考えて行くにつれて、思考がショートしていき、最終的にパンクする。
「あれ?⋯⋯なんで?!」
「お客様。お困りの方はこちらに?」
「は、はい!本当に居たんです⋯⋯。あれぇ?⋯⋯あ!居た!」
白いパーカーを着ている人は多く居ても、フードを被ったまま店内を歩いている人はそうはいない。
女性が先程居た場所から更に奥に進んで、テレビモニターやスピーカーが置いてある場所まで移動しており、目を輝かせながらズラリと並ぶ商品を見つめていた。
「あの!居てくださいって言いましたよ?どうしたんですか?」
安心した僕は女性の真横まで行くと声を掛けるのだが、女性は呆然とテレビの画面を見つめて値札とモニターを見比べていた。
「⋯⋯あ、ごめん。私、うっかりしてた。テレビっていうのも欲しかったから、見てたの⋯⋯」
時期的にはズレるが、新居に越して来たという可能性もある為、なんとも反応しづらい返しを送ってしまった僕なのだが、女性は構わずに続けた。
「どれが一番いいテレビなの?」
「どれがって言われても。テレビの大きさだったり、住んでる部屋で合った物、あと予算とで相談しながら選んで下さいとしか」
今目の前にあるのが四十万するテレビ。接続規格が三つあり、モニターの大きさも七十五インチもする大型テレビであり、何やらサービスなのかサブスクの機能まで付いている物だった。
仮に一人暮らしならばデカくも感じるそのテレビから目を離して、僕を不審そうな表情で見つめる。
「⋯⋯⋯⋯何言ってるの?」
本当に解っていない。というよりも知らないという言い方である。
テレビは知っているが詳しい事は何一つとして知らないこの感覚が何処かの誰かと妙な親近感が湧いた僕は、思わずに訊ねた。
「あのー、変な事を聞くんですけど、もしかして⋯⋯その、異世界から来ました?」
「うん、そうだよ。よく分かったね」
隠す素振りが一切なく、あっさりと認めたその人は淡々と僕へと視線を外して、前にあるテレビへと再度、視線を戻した。
「どうしてテレビを?」
「買わなきゃ、可哀想だと思って⋯⋯。ないと不便でしょ?」
「まぁ、人によってはそうかと思いますが⋯⋯。スマホもですか?」
「うん。あった方が良いかなって思って。私は必要としないけど、持たされてるし、この世界の人達って、スマホ無いと死ぬって聞いたから」
それを伝えたのは何処の誰なのだろうか。どの道、かなりの捻くれ者かロクでもない考えを持った輩な気がしてならない。
「それ言った奴がおかしいだけかと⋯⋯」
「じゃあ、君は無くても良いの?」
「いえ、無きゃ駄目ですね」
存外僕もロクでもない部類らしい。即答で答えてしまった。
「うん。良かった」
「え?」
何が良かったのか、僕はこの時、聞いておくべきだったのかもしれない。
けれど、異世界からやってきた人間の感性というか、何も知らなさすぎるこの人を僕は『そういう事を言う人なんだな』程度に収めてしまったのが、後に大変な事になるとは思いもしなかった。
「取り敢えず、スマホを買いに行きたいから、教えてくれない?」
「それは構いませんけど、お金あるんですか?」
「あるよ。大丈夫」
「そうですか。それなら、まぁ」
(まさか、奪ったとかじゃないよな⋯⋯)
何処からその資金が出たのか、という結論は強盗という線を考えて、一度傍で様子を見る事にした僕なのであった。
━ ━ ━
現在のシルティアは困り果ててしまっていた。
帽子を被り、比較的に目立たないようにするべきなのかもしれないとは考えつつも、目の前に居る小学生低学年程度の二人組の子供がベソをかいて泣き始めている現場を目撃してしまい、思わず駆け寄ったら母親ではないと分かるや否や、また泣き出すという行動を取られてしまい、アタフタとしてしまっている。
「あ〜、ど、どうすれば。こういう時、ジャイル辺りなら得意なのだが⋯⋯」
子供が決して嫌いという訳ではないのだ。元のシルティアの世界においても、子供からは憧れの視線で見つめられて、敬意を評される事が多かったのだが、自身から子供達と接しに行くという事はなく、一方的な憧憬は大人子供関係なく浴びて来た故に慰め方、接し方や、あやし方が一切分からないのである。
「ど、どうすれば。⋯⋯君達、泣き止んでくれないか?」
「おかぁぁぁさぁぁぁあん」
「泣くなよな⋯⋯ぐすん」
兄の弟に対して語り掛ける言葉は届かず、更にベソをかいて泣き出すその光景に慌てだすシルティア。
「落ち着いてくれ。母親は私が探してやる。だから、落ち着いてくれ⋯⋯なぁ?」
「ほ、ホント?」
「当然だ。二言は無い」
そうして、シルティアは二人の男の子の手を引いて、子供達の母親探しが始まる。
そのすぐ後方で二人の母親が慌てた様子で通り過ぎてしまったのを見逃して。
「君達の母親はどんな人なんだ?」
「優しい!」
「ふっくら!」
「そうか、優しくてふくよかな方だな」
人の多さが災いして辺りをチラチラと見るだけで目が回りそうになるシルティア。子供二人の手を離さないようにしているのだが、通行の邪魔にならないようにと、身体で庇うようにしながら人混みを掻き分けて行く。
(弱ったな⋯⋯。優しいなんて顔だけでは分からないし、ふくよかな体型の者はそこそこいる。このぐらいの子供に年齢を聞いても分かるものなのだろうか?)
店員に聞いて預かるという選択肢や入口付近で母親を待つという選択肢が皆無であったシルティアは当然のように歩きながらの捜索を続けており、物の見事にすれ違ってしまっているのだが、流れるまま店内の奥へと進んで行く。
子供と接する機会に恵まれなかったシルティアからすれば小さな子供との貴重な時間ではあるのだが、如何せんその内容が思い当たらず、泣きそうになる子供を抱えつつ、お兄ちゃんをしている子供の手を引いた。
「⋯⋯君達の母親はどんな服を着ていたんだ?」
「青!あと、真っ赤っか!」
「違うよ!オレンジだよ」
「赤だった!」
「オレンジ!」
「いや、別に喧嘩するほどではないだろ?⋯⋯君達?!」
抱えた子供が見下ろすようにしてシルティアに手を引かれている子供と口論が始まってしまい、ジタバタとしだしたタイミングでその後方を横通るようにして、浩司と白いパーカーの女性はスマホの購入の手続きとして席に着き始めており、またもすれ違ってしまう。
「え?身分証?」
「⋯⋯持ってる訳ないんだよなぁ⋯⋯。この人」
「これの事?」
「なんであるの!」
そんな驚きの声は子供達の口論によって掻き消されてしまい、テレビモニターが並んだ辺りで子供を下ろしたシルティアは、近くにある丸椅子に座らせた。
「オレンジだったもん!」
「あぁか!」
「オレンジだもん!オレンジだったんだもん!」
「こらこら、君達。こんな事で喧嘩するな。赤もオレンジも似たようなものさ。言い合う必要はないだろ?」
椅子に座らせた子供は脚をばたつかせて、お兄ちゃんである子供の身体をバシバシと蹴っていく。
蹴られた子供は脚を叩き始めて、最後には怒った表情になってしまい、腕が伸びた。
「こら!駄目だぞ!」
そんな伸びた腕を掴んだシルティア。丸椅子のすぐ後ろには鏡があり最悪の場合、後頭部を鏡が直撃というケースもあったが、それは回避された。
「うぅ!離して!はーなーーーーせ!」
「君は今、弟を押そうとしたろ?どうして嫌だと口にしない?」
「なんで僕ばっかりー!離せーー!」
「ばっかり?」
思わず離した手。弟も不貞腐れた様子で脚をばたつかせているが、シルティアはその脚を手で抑えて、子供達に話を聞く。
「だってコイツだけ、いっつもお母さんは⋯⋯優しいし。僕だってちゃんとやってるし」
「ほほう。例えば何をしたんだ?」
「コイツの好きなハンバーグとか分けてるし。一緒に遊んでる」
「食べ物を分け与えれるのはいい事だ」
「でしょ!!」
「でも、お兄ちゃんだって僕のミートボール勝手に食べたじゃん!」
「あれは、お前が俺のウインナー取ったからだろ!」
「こらこら。喧嘩して欲しくて聞いてるんじゃないんだぞ?⋯⋯まったく」
二人の頭を抑えるシルティア。思わず溜め息を零してしまい、お兄ちゃんは小石を蹴るように脚を振り、弟は丸椅子の縁を握る。
「美味しそうだったから食べてしまったのだろう?まぁ、私も小さい頃はよく姉上の好きだった宝石を借りて遊んでは怒られたが⋯⋯なんだ?」
思い掛けずに昔を思い出したシルティアだったのだが、二人の反応が変わった。
シルティアを見つめたと思えば、二人は目配せをして再度シルティアを見入る。
「あねうえだって」
「なんでお姉ちゃんじゃないの?」
「え?言い方なんて良いだろ〜!私の姉は姉上なんだー!」
元いた世界においては当たり前の呼び方もこちらでは珍しい部類に入る事と、まだ子供だという事も相まった結果、二人の標的はシルティアへと変更された。
膨れっ面をかまして子供達を見るも、二人にはそんなものは通じない。
「変なの」
「なぁー」
「な!こんな時に息を合わせてしまうとは⋯⋯」
仲良くなる最大の秘訣は、共通の敵を見つける事。
想定していない形で兄は丸椅子がある方へと歩き、弟が立ち上がる。
そして、お兄ちゃんはシルティアの手を掴んだ。
「ほら、行こう。変なお姉ちゃんも早くお母さん探してよー」
「わ、私は変なお姉ちゃんではな〜い!」
悲痛な叫びを鳴らしながら、引っ張られる形で母親探しの第二幕が始まる。
弟の手を兄が掴んで、誘導するように歩きながら、定期的にシルティアの方を見ながら、談笑が続くのだが、どれもシルティア関連のものばかりであり、母親の話はしなくなっていった。
「変なお姉ちゃんはお姉ちゃんいるんでしょ?どんな人?」
そんなお兄ちゃんの質問に、考える素振りもなくシルティアは答えた。
既に決まっている回答のように、当たり前の如く。
「誠実で博愛の持ち主で、綺麗な人だよ」
「せいじつ?はくあい?何それ?」
「曲がった事が嫌いで誰でも優しい人という事だ」
「そんな人いるの〜?」
「私の姉上がそうだから居る。懐かしいな、私もそんな姉上を目標に頑張っていた頃を思い出す」
見上げたシルティア。思い馳せるようにして、表情が自然と緩んでいくが、そんな様子には興味なさそうにお兄ちゃんは続けて言葉を投げた。
「じゃあ、弟とかいた?」
「いや、妹が一人居る。君らのような喧嘩はなかったが、中々に野心家なんだ。手が付けられないと気が抜けなかったのが懐かしい⋯⋯」
「やしんか?シマウマさんの事?」
「ばか、それ野生だろ?」
「馬鹿って言ったぁ!」
握られる手の力が強まる。手をブンブンと振り回すその仕草がなんとも子供らしいが、今現在いる場所は人通りの多い店内の通路。
シルティアが間に入り、その動きを静止させて、停止した脚を誘導するように、兄弟二人の手を繋いで歩き出す。
「今のは良くなかったな」
「でも、間違えたのはコイツだし」
「間違いなんて誰でもあるさ」
「お姉ちゃんも?」
「あぁ。私とて間違いは犯す。今日も一緒に住んでる人の大事なものを壊してしまってな」
傍から見れば、買い直せば良い程度の事で、別段宝物という訳でもないし、プレミアが付いていた訳でもなければ、謝罪や弁償を求められた訳でもない。
それでもシルティアが意識せずに壊したというのは事実であり、泊め置いてくれている者の私物を破壊したという事実は変わらないのだ。
「彼氏?」
「ん?いや違うが?」
「でも、一緒に住んでるんでしょ?」
「一緒に住んでるからといって、彼氏彼女の関係とは限らないさ」
「でも、お父さんもお母さんは結婚してるよ?付き合って結婚したって」
「君達の両親はそうだろうが、私と彼はそんなんではないんだよ」
生命で繋がっている関係とは言えない。言える筈もない。相手は子供で無関係で話す事も憚られる程だ。
傍から見れば生命で繋がっているというのは、何よりも繋がりが強くも感じるそれは、一種の制約のようなものであり、シルティア本来の行動を大きく制限するものでもある。
けれど、それでも良しとしているのは、単に浩司自身が悪意や敵意を感じさせない何処までいっても普通の人間であり、守るべき対象としてシルティアが見ているからに他ならず、決して恋愛対象や恋慕を期待して接しているなんて事はない。
「じゃあ好きとか?」
「う〜ん。大事ではあるし、好きか嫌いと言われれば好き寄りだが、君の思う好きと私の思う好きは違うと思うぞ?」
「そうなの?何が違うの?」
「ええ?!⋯⋯何が違うか⋯⋯。どう言えば伝わるのだろうか⋯⋯。うぅ〜ん」
恋慕と友愛の違いを説明するというのは難しい。
そんな事を話した経験もなければ、例えで出された記憶もシルティアにはなく、そういった話は終ぞ舞い込んだ機会も訪れなかった女性だ。
『紅閃姫』と呼ばれ始めてからは特に女っ気よりも、戦の主将を優先し、誰よりも前に出て、敵を屠り、荒ぶる魔物を駆逐していき、後ろで支える兵を鼓舞する。
紅い閃光が敵を蹂躙するその様から名付けられた二つ名は彼女の象徴そのものであり、誰にも成し得ない唯一無二。
喩え、それが捨て駒であっても、彼女は殉じたとしても、その名を後世に残せる程の武勇を冠して、武勇しか持ち得ない存在なのだから。
「嫌いなんじゃん」
「いや、そんな事は無いぞ?本当に!」
「よくお父さんが言ってたよ。愛さなきゃ、一緒に暮らしてないって」
「君達のお父さんは子供に何を吹き込んでいるのだろうか⋯⋯」
思わずに呆れてしまうシルティア。けれど、子供達からすれば、それが父親であり、そう言われて育った。
軽口のように呟いたのだが、お兄ちゃんがそれに反応する。
「だって、お父さんとお母さんが喧嘩した後に仲直りしてたら、教えてくれたんだもん」
「⋯⋯喧嘩か」
「うん。喧嘩」
「私も仲直り、したいなぁ⋯⋯」
一緒に住んでいるから毎日必ず一回は話さなければならないといった条件がある訳では決してないのだが、それでも心根から漏れた呟きに自身でも驚いたような表情を浮かべたシルティア。
(思えば、私はキツく当たり過ぎたのかもしれない⋯⋯。コージも謝ってはいたし、意地が悪い態度を取ってしまったのも私だ⋯⋯)
家電量販店に向かう途中、その謝罪に対して中身がないようにも感じてしまっていたのは事実だが、申し訳なさ自体は伝わっていたシルティア。
けれど、だからこそ、『浩司は何故、自身のその気持ちに気付いてくれないのか』という気持ちが先行していき、結果的に突き放すような態度を取ってしまった。
そんなヤキモチした気持ちは心に深く残り、消化不良でも起こしたように溜まり続けて痛めていくも、目の前に純粋に近い子供達相手でその解消法を掴めそうになっている。
「喧嘩してるの?」
「あぁ。私にも非はあるが、そもそもその非をさせたのが彼なんだ⋯⋯。私は騙されてしまって⋯⋯うぅ!」
だが、忘れてはいけない。そもそもの発端は浩司が昨夜から言ってくれていた『対戦ゲーム』という言葉に偽りがあったのだという事を。
本人は軽いジョーク、冗談のつもりだが、それが後にシルティアにとっては大打撃と出費をさせる事に繋がってしまっているという現実は確かにあるのだ。
「泣かないで」
「⋯⋯大丈夫だ。ちょっと思い出してしまっただけだ」
「でも、お父さんとお母さんも喧嘩した後、仲直りできるから、お姉ちゃんも出来るよ」
「だろうか?だといいが。⋯⋯いいか、か」
仲直りをした後の事を想像したシルティア。
仮に上手くいき、その後にも平穏が訪れて何気ない会話での談笑や自身の嫌いな事を踏み抜いた結果に憤慨する自身とそれに対して謝罪する浩司という図が浮かび、それが少し嬉しく感じたシルティア。
決して、罰したいや加虐性に目覚めたという訳ではない。純粋にそういった日々を浩司という存在が居る事で彩れるというのが嬉しかったのだ。
(そうか⋯⋯。私は、コージと笑っていたいんだな⋯⋯)
答えは得られた。彼女の思う一つの日常と平穏の在り方とその居場所には既に浩司が居るという事。
そうあって欲しいという事を掴んだ彼女は微笑んだ。
すると、手を引かれている弟が指を差して叫ぶ。
「あ!お母さん!」
「ん!何処だ?」
思わずに弟を見ると、既にその方向を差していた。
それを嬉しそうに見つめるシルティアと駆け出そうとするお兄ちゃんと後を追い掛けようとする弟。
「前、前!」
「あの婦人か。ちゃんと手を握っていろ」
「うん!」
誰が先に母親と接触出来るか勝負をする場面では決してない。仲良く二人の手を繋いだシルティアは、ふくよかな青のパーカーと黒を基調とした赤色とオレンジ色のブランド物のTシャツを来ている女性へと歩み寄ったのだった。
━ ━ ━
スマホを購入した白いパーカーの女性は満足そうな表情で次々と家電を買っていく。
カゴもカートも持っていない為、わざわざ僕が引っ張り出して来て、女性へと手渡して並んで買い物を続けていた。
「ごめんね。私、選ぶの下手で⋯⋯」
「気にしなくていいですよ。⋯⋯にしても随分と買い込みますね⋯⋯」
「うん。最後にはテレビも買う」
スマホを購入する際に、封筒に入った札束を机の上に置いて、一括払いを言い出した時は正気かと目を疑ったが、本当に金はあるし何故か身分証明出来る運転免許証も所持しており、一つの疑問が浮かんだ。
「あの、この世界に召喚されたのって何時頃ですか?」
「四日前だね」
「へぇ〜、四日前ですか⋯⋯。免許って四日で取れるんだぁ〜」
残念ながら知らない。運転免許が最短何日で取れてどんな試験をしているのかも、オートマとマニュアルの違いも詳しく知らないし、大型一種、二種の違いも解らないド素人。それが僕だ。
そんな僕が運転免許取得にかかる費用も時間も知れる分訳もなく、スマホで検索するという子供達もしないまま、女性の言葉を鵜呑みにする。
「取ってくれたんだ⋯⋯。あ、このケーブルって充電器のだよね?」
「そうですけど、最新機種の買ったならこっちになりますね」
「え?⋯⋯なんでこんなに違うの?統一しない理由ってなんだろ⋯⋯楽なのに」
「まぁ、スマホを製造してる側も一つじゃないからですかね?」
大して知らない事を口にする僕だが、女性は気にも留めない。
ケーブルを一つカゴに放り込み、続けてポータブル充電器を選んでいく。
「君と私は出会ってすぐ仲良くなれたのに、どうして仲良く出来ないんだろう⋯⋯」
「そういう問題でもないような?⋯⋯まぁ、僕は横から合ってるか合ってないかも解ってない事言ってるだけなんで、助力にもなってませんよ」
僕自身も自信のない知識は披露するつもりはないし、確信が持てなければ口にしたくない。
けれど、女性よりも僕の方が幾分か知識がある為、口にせざるを得ないだけで、仮に僕ではなく別の博識な人が間近に居るならば女性に急ぎ伝えて去ってしまうだろう。
「そんな事ないよ。この世界の事に詳しい人が居る。それだけでも充分大助かり。それに君は優しいから」
「そうですか?そんな事はないと思いますけど?」
褒められたのは意外で、思わず照れてしまう。
そんな女性も僕を見て口元が緩んだような表情を見せる。
目元が見えないというのに、良い人そうだなんて、この時に僕は思い始めてしまって、なんとも単純な奴だと、後になってからも思う。
そんな、女性の口元が元の素へと戻ると、雰囲気が変わった。
言いにくそうに口篭るようにも見えるが、僕はポータブル充電器をカゴに入れながら見つめる。
「君は『紅閃姫』と一緒に住んでるんでしょ?優しいからそうしてるんだろうし、彼女も甘いからきっとそれを許したんだと思う」
「『紅閃姫』?」
「シルティア・フォン・ユーベルアインだよ。彼女は私達の世界では『紅閃姫』として名を馳せてる」
厨二病のような二つ名。そう思わざるを得ないと同時に、有名になるとそんな称号が貰える事に少し胸が踊った。別に、此処がその異世界ではないというのに。
「凄い奴なんですか?シルティアって?」
「凄いよ。彼女、お姫様なのに武勲においては本物だから。私と同等⋯⋯、ううん。場合によっては負けるかな」
「アンタも凄い人なの?」
「⋯⋯⋯⋯そうだね。凄い人だね」
間があった。それが何を意味しているのかその頃の僕には知り得ない事で、恐らくその場で理由を問うても答えてはくれなかったであろう。
含みが明らかにあるその言い方には、当然僕も気にはなったが、深く追求する事はしなかった。
「私はそれでも言わなきゃいけない」
申し訳なさそうに女性は僕の顔を見る。初めて青い瞳と邂逅して、綺麗な瞳だと息を呑んだと同時に、次に来る言葉に警戒を示すように、眉が下がった。
「君は優しいし、君のような人が巻き込まれるのは嫌だから。⋯⋯だから言う。シルティア・フォン・ユーベルアインとは縁を切って」
「え?」
「脅されて⋯⋯いや、違う。彼女はそんな事はしないだろうから、きっと理由や事情があるんだろうけど、それでも彼女は意外かもしれないけど敵が多いの」
「敵が多い?アイツ、何か悪い事したんですか?!」
「そんな事ないよ。持ってる魔力が多い事と彼女の持つ剣が優れすぎている事と、私達の世界で彼女とは断ち切れない関係にあるだけ」
「断ち切れない、ですか?」
かつて喧嘩しあった仲程度でそこまで言わない。
そんな時に、初めてシルティアと出逢った日の事を思い返していた。
ボロボロの衣服等はこの世界に召喚された際の状況を聞かされた為、言わんとしてる事は解る。
けれど、辻褄が合わない。
どうして放課後に複数人の男の声だけで逃げるような事をしたのか。まるで、あの何時も通っている通学路の横道で僕と出逢った時には、既に誰かと交戦した後で付け狙われていたようにも考えられる。
夜になってシルティアを襲っていたフィローネに関しても、最初からシルティアを狙っていた訳ではなく、後からの途中参戦に近い旨を言っていたのだ。
文脈通りならば、シルティアはあの日の夜、連戦していた事になる。
僕はワイバーンを倒した彼女を知っていると同時に、フィローネにズタボロにやられている彼女も知っていて、同じ異世界出身の人達から見れば、強くない部類と捉えていた。
けれど、本当はメチャンコ強くて、その末に僕と会ってしまった結果──情けない程ひ弱なお節介を働いてしまって上に、行動の制限が掛かってしまったのだとしたら、僕はかなり情けない奴になるのでないだろうか。
けれど、もう終わった事でお互いに解消しあった話だ。僕は彼女を助けて、彼女は僕を助けた。
これで終わりの話だったというのに、何か僕は取り返しのつかない事でもしたのではないかと堂々巡りな考えが浮かんでくる。
そんな僕とは別に目の前まで歩いて顔色を窺うようにした女性は言う。
「私達の世界は戦争三昧。慢性的な食糧難や魔物の襲撃、環境が酷くて衣服なんて上級国民の人しか綺麗じゃない。だから、この世界の常識では多分語れない」
「僕が聞いた話だと、何年か前に食糧難は無くなったと⋯⋯」
聞いていた話と違うと、そう思った。
バルファザル王国は数年前までは食糧難で、それからは食事の質は兎も角、量自体は賄えているのだと教わっていたが、女性が言うには違うらしい。
「無くなってない。バルファザル王国は他国を侵略して、制圧して、魔物を何時でも狩れるギルドと人脈を多く作って、農作物を作る場を設けて、バルファザル王国だけが得をしただけ。世界全体で見れば、貧困は止んでないよ?」
これは僕の勘違いだったのだろう。けれど、どう勘違いしたのかが整理できないでいる。
僕はデカイ大陸があって、彼女の国と周りにある国のみで構成されたものを想像していた。
簡素で茶色一面の地図に見窄らしいオブジェクトを三つ四つ程置いて考えた稚拙な図面。
けれど、今になって思えば、彼女は一言も『国が四つしかない』とは言っていない。大陸はあってそこに国造りを行って発展させて住んでる人はいるけれど、国は僕達の住んでいる世界同様に様々あって日々戦争をしているという事を何故考慮しなかったのだろうか。
そしてもう一つの勘違いは、彼女自身が何も知らないという事。
馬鹿にする訳でもなく、僕から見た評価だと、彼女は素直で真面目。それ故に仲間内の嘘にも平然と騙されて、気付けば自国以外の事を何も知らない愉快素敵な武勲あるお嬢様に育ってしまったのではないか。
騙されたというよりも、心配をかけないように敢えて漏らさないようにした可能性もあるが、僕はそれを知り得ない。
知れる機会は果たしてあるのかすら解らない。
そんな二つの勘違いの可能性を思考していく僕を黙って見つめていた女性は痺れを切らしたように、腕を指で数度突いて、僕の反応を見た。
「大丈夫?」
「あ、はい。ちょっと考え事を⋯⋯」
「君に荷が重いのは当然。だって、君は普通の男の子なんだから⋯⋯」
『普通の男の子』だと言われてモヤッとした僕。
言わんとしている事は解るし、僕もそうありたい所だが、それだけでは彼女に──シルティア・フォン・ユーベルアインという女性の傍に居る権利そのものを剥奪されている気分となった。
普通が良いに決まっているのも分かっていて、戦争や争いでギクシャクするよりも毎日のんびりとぐうたら出来る時間の方が平和だという何よりの証明になる訳で、僕だって争い事よりも毎日適当にいい加減で生きて行きたい。
それを許さないのが戦争や争い事で、そんな火中に居るのが彼女なのだろう。
けれど、もし、本当に彼女がその中から抜け出したくても抜け出せないとなったら、僕はどうするべきなのだろうか。
「あの⋯⋯。シルティアが狙われる理由っていうのを、全部掴めている訳では無いんですけど⋯⋯、あの、どうにか止めさせる訳にいきませんか?争うのって?」
「無理だね。彼女の国はやり過ぎてる。それに尾を引いた形で彼女に襲い掛かる者もいるから無理だね」
「でも!アイツには関係ないん──」
「こら」
優しい声色で僕の頭を優しく小突く。
痛くもなんとも無いのに、妙に心に響いたそれは僕の言葉を遮らせて、口を閉じさせるが、反対に彼女の口を開いていく。
「間違ってもそれは彼女に言わない方が良い。彼女はどんなにしたって一国の姫君で、それは覆らないし、彼女も納得してる事。私は少なくても本人から聞いてる。そんな彼女の思いを無碍にするような言い方は駄目」
アドバイスのようなものなのだろうか。僕と彼女の同居を裂こうとしているが、それは結果として僕の為であり、彼女の為ではない。
女性から見た僕は弱くありふれた普通の学生で、それ以上の事もなく、きっと下に見ているといった事もない。
純然なる純度百の心配なのだろう。
嬉しい気持ちがある反面、僕という存在は女性の言葉によって確約されたようなものであり、なんとも言えない気持ちに追いやられて行くものの、女性は続けて言葉を紡いでいく。
「それに、彼女は自分の国の非道さを知らないし、バルファザル王国が悪って気付いていない」
「ちょっと待ってください。戦争の事はよく知りませんし、起きて欲しくないとは思いますよ?でも、戦争したらバルファザル王国だけが悪いっていうのは違うんじゃないですか?」
「そうじゃないんだ。あの国はね、バルファザル王国は──」
爆撃音が響いた。続いてガラスが砕け散るような音と悲鳴の声色。
濁声のようなものが響くと女性と僕はその爆心地なる場所へと視線を向けた。
ショッピングモールの再来が起きた。
慌てた様子で爆心地となった家電量販店の入口付近から人は遠ざかっていき、焦った様子で転ぶ人も見かけてしまう。
女性がそんな人達を起こしながら、後方へと誘導させてく様子を見た僕は叫んだ。
「シルティアァァァァァッ!!!」
この声が届いているのかは解らない。多く人の雑踏と悲痛の叫びで揉みくちゃになってしまって届いていないのかもしれない。
それでも、僕は彼女が無事である事を祈って、叫んだ。




