10話 お隣さんは異世界人で転校生
2章、始まり。
この作品に出るあらゆる高校は実在しませんし、道も場所も適当です。
脳内でご想像しながら考えてみてください。きっと混乱します。
僕もしてます。←書いた本人
一本の電話を受けた。それは悼む電話であり、駆け付けなければならない事は必定的であった。
この視点、視界は誰のものか、私はすぐに分かってしまって、胸を締め付けられてしまう。
電車の中で落ち着かない様子で、降りる駅までの道のりをひたすらに待ち、十分という短い乗車時間が永遠にも感じてしまって、自動ドアに突撃する勢いで駆けて、受け付けに居る女性に慌てて声を掛ける。
止めて欲しかった。これは過去で、私の記憶ではないと知っていて、流れ込んでくる感情が何時までも付き纏い離れない。
「父さん!かあっ⋯⋯さん」
白い布に被せられて、台に寝かされている二人。
担当した医者が声を掛けようとするも、その悲痛な表情に思わず、口は閉じてしまい、看護師の女性は背を向けてしまう。
「とうさん、かあさん⋯⋯」
視界は徐々に歪んでいき、涙が溢れて、目頭の熱さに私は耐えられなくなっていく。
その二人の顔は形状が上手く定まっておらず、建物の崩落に巻き込まれてしまい、原型が一部崩れてしまっていた。
否定の声が聞こえた。拒絶の意を唱えた。間違いであると願って、祈って、それでも歪んだ視界に映る服装と背丈は確かによく知っている人物なのだと認識させていく。
私ではない彼の哭く声が、何時までも響き渡り、膝から崩れ落ちた彼と同じ視点であるにも拘わらず、徐々に離れていくのが、辛くて、どうしたら良いか分からない。
彼が独りぼっちになった瞬間、理解した時間と、死への恐ろしさを胸から声へと溢れ出したトラウマとなって、私の心は締め付けられる。
喧嘩別れをして、親孝行も二度と出来なくなった彼の背中を優しく擦る看護師。
だけど、一向に泣き止む気配はない。
どうすれば、この涙は止まってくれるのか。
どうすれば、この悲劇は回避出来たのか、私には分からない。
高校一年に進学する前の春休み、彼は家族を二人、喪失した。
段々と遠退く記憶と残響は、私の意識を開花させて、慌てて起き上がる。
「ッッ!⋯⋯⋯⋯生命の繋がりの繋がりで起きた副作用、か」
生命が繋がっているという事は、身体に発生した衝撃によるダメージだけが繋がっている訳ではない。
時に、記憶も垣間見えてしまう。
隣の部屋で寝ているコージの部屋へと急ぎ向かう私はそっと扉を開けて、その様子を確かめる。
暗がりで見えづらく、顔色は窺えないので、そっと足音を立てずにコージの寝ているベッドまで近寄り、その表情を見つめた。
汗をかいて辛そうな表情と、確かに涙が辿った後がある。
それが何を意味するか私は解ってしまい、手をそっと握る。
「⋯⋯消え──くれ。嫌だ、嫌だ」
「大丈夫だ。ちゃんと居る」
涙を拭い、辛そうな表情を浮かべる彼を起こさないように、膝をゆっくりと落とした私は、その手を握って、凭れ掛かった状態でまた瞼を閉じようとした。
「──ッッうわあぁぁぁぁぁ!⋯⋯はぁ、はぁ、はぁ」
「コージ、大丈夫か!?」
起き上がると同時に悲鳴にも近い叫び声を上げたコージの方へと向き直り、手をベッドにつけて近寄る。
「⋯⋯え?はぁ、あ、あぁ⋯⋯。シルティア、なんで?」
「叫んだからだろ?何か、嫌な夢でも見たのか?」
「⋯⋯なんでもない」
俯いてそう呟く彼はとてもそうには見えず、目元を手で隠してしまう。
そんな中、廊下から足音がする。
「大丈夫?」
「リディナ、起こして悪い」
妖精人であり、コージの家に住んでいるリディナ・ウーバンが眠たそうに目が殆ど開いておらず、片手に枕を引き摺りながら、やって来た。
私に買ってもらったパジャマ数着借りているという建前で、サイズも合わないせいでより、子供っぽく感じてしまう。
「ううん。それは良いけど、汗、凄いよ?」
「平気だって。何時もの事だし」
「何時もの事?」
「あぁ。だから、心配すんなって」
「何時もの⋯⋯」
「ところで、シルティアさん。そろそろ離してくれると助かるんですけど⋯⋯」
恐る恐ると口にした言葉に私は思わずコージと繋がった右手を見る。
途端に羞恥心のようなものに襲われて、勢い良く手を離した。
「⋯⋯あー!す、すまない」
「いや、いいんだけど。握ってたらシルティアも寝にくいだろ?」
「いや、そんな事は無いのだが⋯⋯」
座ったままでも寝れるようになった今の私なら、握ったままでも平気なのだが、コージにはそれを伝えていない。
だが、それよりも謎なのは、何故か火照った感覚が私にある事であり、こういった感覚が何なのかが、私には解らないという事だ。
そんな謎を究明してしまいたいところなのだが、リディナが部屋に入って行き、コージをじぃーと見つめる。
「私も握る」
それだけ呟くと、コージの手を握って、布団に入り込もうとするのだ。
当然、止めようと私とコージは躍起になっていき、抵抗するリディナはコージにしがみついて離れない。
「おかしくない?ちょっと?ねぇ?ちょっと!」
「貴様、コージが困ってるだろ!はーなぁーれぇぇぇ〜〜ろぉぉ〜〜ッ!」
「先に握ってた人に言われたくない!私は離さない、逃がさない!取り押さえる!」
「意味合いが違ってきているだろう!馬鹿者め!」
結局、引き剥がすのと説得に一時間掛けてようやく、リディナをコージの部屋から連れ出す事に成功した私は襟元を掴んでリディナの部屋へと強制的にお帰り願ったのだった。
コージの部屋を過ぎる時、私は妙な胸騒ぎをして部屋を僅かに開けて様子を窺う。
ベッドには腰掛けておらず、呆然としながら机に突っ伏して、考え込んでいる彼を見て、私は扉の隙間を大きくしていく。
「⋯⋯シルティア。どうした?もう大丈夫だぞ?」
「それでも心配なのさ。何時もある事とは言え、気にはなる」
「あ〜。悪い」
「君は、謝ってばかりだな。私は心配する対価に謝罪ばかりは要らない。欲しいのは安堵だよ」
彼の感謝の言葉よりも、謝罪の数は出逢ってから圧倒的に多い気がした。
私と彼が出逢ってからすぐに、ご両親が死去なされた事は知っていたが、かなり酷い死に別れであったと今も頭にこびり付いている。
喧嘩別れと死に別れを一挙に纏め上げられたようなもので、天涯孤独を受け入れるというのは想像するよりも心にくるものがあったのだろうし、私自身が天涯孤独となった身ではない故に、恐らく安心させられる事は無理に等しいのかもしれない。
それでも、何かしてあげられる事といえば、話を聞くぐらいの事のみで、それしかしてあげられないのだ。
「⋯⋯⋯⋯一年前ぐらいから見始めたんだ。その理由も分かって無いけど、夢で何か見てるんだろうなって事は起きた後、何となく分かるけど、それでも忘れるから結局、こーモヤついたもんが残るっていうか⋯⋯」
「私も今日、君のご両親が亡くなった報告を受けた時の記憶を見たよ」
「え!?なんで、そんなの見れるのさ!」
「『生命の繋がり』はそういった効果があるのさ。君も私の過去を見る事があるのかもしれない。可能性の話だが」
「⋯⋯そっか。そうなんだ」
納得したように頷いたコージは、俯いて、肘を机につけた。
「コージのご両親の話、良ければ聞かせてくれないか?」
断られるかもしれない。そうも感じたが、意外にも此方を見たコージは話をしてくれた。
「そうだな。両親の話か。厳しい母親で、ルールには厳格な人ってのと、父親は、そんな母親と俺の間を保って、朗らかな人だったかな」
「怒られた事はあるのか?」
「勿論。米は一粒も残すな!とか。洗濯物は必ず規定の時間に出せ!とか。テストは点数悪くても絶対に見せろ!とかそんなのばっかだったけど」
「良い母親だったのだな」
厳格というよりも、キッチリとなされたご両親なのだろう。
私の母君とは少し違う母親というものに、少し胸が高鳴っていく。
「だと思う。厳しい人だったけど、ちゃんと自主性は持たせたい人だったっぽいから、やりたい事には口は挟まなかったし、父さんもそれに近かったからかな?自然とやりたい事はやらせてもらってた」
思い馳せているのだろうか、それとも何かを悔いているのだろうか。
表情は机に備え付けられている電灯のみが白く光っていて、険しいものへと変わったのが見えた。
「居なくなるって解ってたら、あんなつまらない喧嘩しなかったんだけどな」
「つまらない?」
「入学式に来る来ないの話。仕事があるから母さんに来なくてもいいって言ったんだけど、母さんは意地でも行くって言ってて。結局、どうするかはまた話せば良いって思って。⋯⋯けど、次の日になったら、誰も居なくて、部屋でゴロゴロしてたら連絡来てさ。『お父様とお母様が死去なされました』って言われてさ。なんのこったってなるし、訳分かんなくてさ」
「⋯⋯」
夢で見た光景が甦る。私もあの悲痛な叫び声を上げさせたくはない。
それを許してしまえば、恐らく、私は負けを意味する事になる。
ショッピングモールでの出来事からも想像は付いていたが、彼は『死』というものに関して、敏感な程に反応しやすい質なのだろう。
他人が目の前で死ぬ事を許容しないし、否定気味な彼は、危ないと分かった上で何かをしようとする。
ご両親の死がその取っ掛り部分なのだろう。
「さぞ、辛かったろう。私も姉の訃報を聞いた時も似た感情であった」
「感情?」
「どうしようもない後悔と、もしもの未来の想像だ。私の世界は戦ばかりであるが、人の死を悼む気持ちぐらいは誰にでもある」
「⋯⋯もし生きてたら、母さんと父さん。シルティアを見た時、なんて言ってたろ?」
あの日の夜、仮にご両親が存命の中、家に招き入れられたと仮定したら、私はどうしたのだろうか。
コージのご両親は、私をどう見たのだろうか、その答えは、早くに結論がやってきた。
「⋯⋯さぁな。私が挨拶したら、君の前に出て、引き剥がそうとしていたかもしれない」
「だったら、無理矢理シルティアの手掴んどくよ」
「言うではないか。もし、ご両親が断ってたら、私は潔く去るつもりだったがな」
「それはさせなかったよ。怪我人見て、外を出させようとあの人達はさせないだろうし」
「そうか。なら、きっと今以上に、家の中は騒がしくなってたのかもしれないな」
会ってみたかった。それは嘘ではないし、命を救われている身でもあるのだから、あの日、殴られる覚悟ぐらいはしていたのだ。
だが、ご両親は既に死去なされており、それ以上でも以下でもなく、想像でコージのご両親というものを練り上げていく。
今度、アルバムを見せてもらう事となり、私は意気揚々と話をしてから、自室に戻るのであった。
━ ━ ━
平日の火曜日、在学している僕は当然行かなければならないのだ、学校に。
約七百九十平方キロメートル面積がある『巡流町』は、太平洋が比較的に近く、自宅から自転車で三十分走らせれば、広大に広がる海が見える。
そんな砂浜海岸が比較的に近く、潮風とウザったいくらいに広がるかつては透き通っていた透明の海すら何時でもウェルカムなくらいに近場にある『私立舞坂高校』は僕の在学している高校があり、最終登校時間八時四十分までに行かなければならないのだが──。
「起きろぉぉぉぉーー!コージ!!起きなければ、学校に間に合わないぞぉぉぉ!」
「ふぇ?」
はい、寝坊しました。深夜三時まで起きてしまっていた僕は結局、八時十分を過ぎてから、ようやく起こされたのである。
「コージ。朝ごはん作って。私達、作れない」
「うわぁぁあ!しまった!はっ!⋯⋯寝坊じゃぁぁぁーー!」
スマホの画面に映し出される時刻を見て、ようやく大変な事態になっている事に気付いてしまった僕は、慌てて起き上がり、部屋を急いで出た。
「うわっ!急に起き上がっ──おい!コージ!慌てて走ると転けるぞ!」
「そんな間抜けなギャグシーンは起こさんよ?」
目覚まし時計は付けました。付けた上で起きれない僕クオリティ。
本当に呑気な脳ミソに乾杯して、開き直ってやりたいのだが、もうそんな猶予もない。
急いで歯を磨いて、服を脱ぎ、着替えを始めている頃。ズボンを履き終わりシャツを着ようとしている時、裾を掴まれて不意にその方向を見た。
「ご飯、作って。お腹空いちゃった」
あら可愛い。なんて、言えないし言える余裕もない僕はまず、焦る事を諦めてリディナの顔を見て言った。
「そうだな。食べようかリディナ」
「わーい。じゃあ、待ってるね」
そうして、リディナは明るい表情を浮かべて、ルンルンな小さなスキップをしながらダイニングの方へと向かって行く。
僕はそれを何も言わずに見送って溜め息を吐いて、僅か口角を上げた。
「⋯⋯はぁ〜。まぁ、僕のせいか」
遅刻が確定した瞬間、何故かシャツを着るスピードは一気に落ちて、ゆったりとし始めた僕。
キッチンへと向かった僕は卵と味噌、ウインナーを冷蔵庫から引っ張り出して、料理を始めた。
「うん、ベリーグゥ〜ット」
「え?何がだ?」
ダイニングテーブルに向かい合うように座っている二人の困惑するような会話に聞き耳を立てながら、卵焼きと僅かに焦げ目のあるウインナーを同じ皿に、味噌汁を作ってダイニングテーブルへとそそくさと持っていく僕を黙って見ているだけの二人。
最後に白米を椀に盛って、二人分の朝ごはんを完成させて僕はフライパンをシンクに放り込んだ。
「僕はもう行くから、食べ終わったら皿はこのシンクに入れて、水に漬けておいて」
「えぇ、一緒に食べないの?」
「いや、僕もう遅刻だから。それに昨日もサボってるし、流石にまずいんだ」
「せめて、ウインナーだけでも食べておけ」
「私のもー」
「いやあの。⋯⋯あ〜んっ。⋯⋯⋯⋯うん、油っこい。じゃあ、行ってくる」
「「行ってらっしゃい」〜」
そうして、昨日準備していた鞄を持ち、僕は玄関を出た。
しかし、おかしいのである。
美女と美少女が自分の家に居て、どうしてこんなに急かされるのだろうか。
普通ならば、「もうこの家でイチャイチャしてたい〜!やぁーだ!」とか言って、長く滞在していようとするものであろう。
だが、僕はどうやら淡白かつ冷静らしい。
僕には分かる。家に居てもきっと、僕は彼女等のお世話をする事になり、癒しを貰うよりも与える側にシフトせざるを得えないのだと、僕には分かってしまう。
世話焼きではない僕は、どちらかと言われれば世話をされたい側だ。
仕事をしないで金が貰えるならそっちを選ぶし、行かなくても良いと言われれば行かない方へと思考を切り替える。
それが僕、三崎浩司であり、彼女等からはコージと言われている高校二年生の学生だ。
自転車で何時もの平坦な通学路を漕いで行き、信号待ちにスマホを見て、右端にガードレールの奥にある砂浜が映り込む。
見慣れた光景であり、朝日を無駄にキラキラと明るく鬱陶しいぐらいに光ってる海に辟易しながら僕は登り坂を前のめりになりながら漕いで、漕いで、漕いで、左折して道なりに進んでようやく辿り着いた。
八時五十分過ぎに閉まっている正門からではなく、第二体育館と弓道場の間にある抜け道を使って何とか入った僕は、正門近くにある駐輪場へと自転車を走らせていく。
「あ〜、怒られるぅ⋯⋯」
身体が途端に重くなってしまう感覚は脚取りを悪くしていく。
けれど、進まなければ、なぜ来たの?となるのもまた事実で、本校舎の西側にある昇降口へと向かった。
上履きへと履き替えた僕は、一組で既に授業をしている生徒から軽く手を振られたり、見られたりしながら、僕はその一つ奥にある二年二組の教室の扉を開ける。
「お!先生!三崎来ましたよ!」
「げぇ!ハナちゃん先生!」
「誰が、げぇ、ですか?昨日は丸々サボって、今日は一時限目は途中から、いい重役出勤だね?」
掛けられている眼鏡が怪しく光る。僕の担任の先生でもあり、現国の担当科目を受け持っている女性である。
綺麗に襟元辺りまでにキッチリと切り揃えられた髪は几帳面な性格をよく表しているようにも見えて、目元に小さなホクロが特徴的な僕の苦手な先生だ。
「さ、さーせん」
「話は後で聞くから、三崎くん、早く座りなさい」
「は〜い」
僕は窓際後ろにある自分の席へと座るべく、その方向へと脚を踏み出して行く。
一歩、二歩、三歩と、当然のように歩き出して、目の前にある変化に気付くのは四歩からであった。
金髪の子が居て、クラスでは普段見た事ない髪色で、誰かが染めたのだと、そう思っていた僕は背後を通り過ぎて、その奥にある僕の席に鞄を置いて、鞄の中にある教科書を取り出して、机の中に放り込もうとする。
「遅刻なんて、ダ〜メなんだ、ダメなんだ〜」
「え?」
聞いた事があると僕の耳が伝えて来て、思わず右方向に居る声の主へと向いた僕は、その姿を見た。
「お久しぶり〜、三崎浩司くぅぅん?」
「お、お前!フィ、フィ、フィラーリー!」
「フィローネだよ!なんでイタリアの車メーカーみたいになるのさ〜?ひっどーい!」
鋭く、早いツッコミを入れてきた金髪縦ロール、濃い緑色の瞳と可愛らしい小柄な身体付きに白いセーラー服。
機関銃はないが、魔法で僕の土手っ腹を空けてくれたフィローネさんが僕の隣の席で、揶揄うような笑みを浮かべている。
「え?待って。え?」
「驚いてるねぇ〜、その反応が見たくてこの学校に来たんだもん。良かった、良かった〜、キャハハ」
「お前、同い歳だったのか?!てっきり、小学生ぐらいかと⋯⋯」
「ちょちょちょ、酷いんじゃな〜い!?私だって、気にしてる事なんだよー」
「煩いですよ!そこ!」
「ひぃ!さーせん!」
黒板に向かってチョークを立てて鳴らす音が僅かに大きくなったのは、教室に居るものならばすぐに分かる。
それと同時に怒っているのだという事も、すぐ理解して一瞬、空気が静まった。
どうやら、僕のお隣は異世界人らしい。
授業後、僕は彼女と話をしようとするものの、やはり転校生というのと、彼女の現代風なイケてる女子的な口調もあってか、人気があるのだ。
つまり、机に人集りが多く出来ており、隣の席に居る僕が邪魔なぐらいには人は一斉に支配されているのではないかと勘違いしそうなほどにフィローネさんに夢中である。
煩くて、休み時間の休まる時間が機能しない中、一人の人間が僕の後ろに立って肩を掴む。
「浩司、お前なんで昨日休んだんだよ?」
「雅斗、いや色々あって休まざるを得なかったんだ」
建宮雅斗。中学からの友人でまぁ、比較的によく遊ぶ奴。
お調子者なところは傷であり、興味があればすぐに首を突っ込んで、興味をなくせば素知らぬ態度を取る同級生であり、腐れ縁に近い。
今日も元気に髪をセットして、少し遊ばしているような髪型なのだが、これでも本人は顔立ちだけは良いから妙にモテるのだ。
解せぬ。
「これか?」
小指を立てて、何やらニヤニヤしているが違う。
女性は絡んでいたが、そうではないし、むしろ普通に聞けば心配されてもいい内容だ。
「違うに決まってるだろ?」
「なんだよ。ダブルデートのチャンスが⋯⋯」
「お前好きね〜、そういうの。なに?今の彼女とマンネリ化した?」
「浩司。俺は今どころか過去も未来もアイツ一筋なんだが?それにマンネリしてねぇよ!アッツアツでラッブラブだ」
「キモ」
「何故に!?」
本気でそう思っている僕は、本当に傷付いている雅斗の方を向いて言う。
「まだ学生で将来誓ったとか、アッツアツとかラブラブとか、キモイだろ。むしろ、普通は引く」
「えぇ⋯⋯お前が紹介したんだろ?」
「僕は友達としてだぞ?誰が『コイツがお前の彼氏』って言ってで紹介したよ?」
「なん⋯⋯だと?!」
「その反応にそれを言ってやりたい」
そう、この雅斗の彼女を紹介したのは僕なのだ。
元々、僕とコイツの彼女とは縁があって、一、二度程、教室で話をしていたのだが、まさかのお付き合い宣言に正直ビックリ仰天したのは言うまでもない。
とはいえ、付き合いだしたのは三ヶ月前の高校二年が始まる前の春休みであり、マンネリ化し始めてもおかしくない頃合いでもあるのだが、どうやら上手く付き合っていけているらしい。
意外な事に。
そして、意外な事にジェラシーでもあるのだろうか、一番前からそんな彼女の視線が突き刺さる。
怖い、助けて。
「それで?」
「え?」
「お前、なんでサボったの?サボターったん?」
「なんで慣れ親しんだ略し方を面倒臭い略し方で言い直したかは置いとくとして、家の事情だよ。ほら、僕両親居ないし、親戚の集まりで行かなきゃ行けないだろ?それを当日気付いて、急いで出たんだけど、学校に報告し忘れてそのまま放置しちまったんだよ」
当然嘘であるが、ここで「昨日は耳の長い妖精人さんに監禁されたッピ!」とは言えない。
言ったら頭のおかしい人に思われる事、間違いなしである。
「アホだなぁ」
「知ってるよ!」
同じぐらいの学力なのに、阿呆とか言われても響かない。響かないがなんだか悔しい。
しかし、学力なんてものは一朝一夕で伸びる訳もなく、過去の僕の努力不足と言われればそれまでなので諦めている。
ちゃんと授業は聞いてはいるが、どうもやる気の問題なのだろうか、頭に入ってこない。
「ほら、戻れよ。もう始まるぞ?」
予鈴が鳴る前に、隣の金髪チョココロネヘアの席付近から人が減っていくのが目に見えて分かり、時間が来たと察した僕は未だに肩を掴んでくる阿呆に声を掛けた。
「ほいほーい」
愉快素敵に歩き出して席へと戻った雅斗を一瞥して、僕は黒板側へと視線を戻して、机の中にある教材を引っ張り出す。
すると、隣の席から紙が飛んできた。
文通にしては雑な投げ方であり、イタズラで迷惑行為していると言われた方が納得の放られ方をされたクチャクチャの紙を広げる僕。
『放課後、空・け・て・て・ね♡キャー!言っちゃったー』
との事。僕はその紙をビリビリに破ってやった。
「えぇ!なんで破っちゃうかなー?!」
「いや、ごめん。なんかウザかった⋯⋯」
「おっかしいなぁ〜。私独自の研究と閃きで得た、完璧なお誘いだったんだよ?」
「偏ってんじゃね?フィラーリさん」
「フィローネだってばー!」
「ごめん、コロネ」
「⋯⋯煽ってるよねぇ?」
「本性出すなら、とっと出せってんだ」
「本性?」
「なんでこの学校に来た?お目付け役?監視?それとも、学生服に憧れたキャッピキャピなギャルへの転身か?」
「それも含めて、ね?」
「シルティア呼んでいい?」
正直、護衛は欲しいものだ。この状況下で武力的に軍配が上がっているのはフィローネであり、僕自身は無力、非力の二段構えで、それ以上のものは持ち合わせていない。
「えー!【紅閃姫】呼んじゃダメ〜。君と私だけの秘密のデート、だよ?キャー今の可愛いィ」
頬に手を当てて、自ら自画自賛している彼女に呆れた僕は、肘を机について窓側を見つめた。
「どうしよう、お隣さんヤバイ人だぁ」
「だから、言ったじゃんかー?」
窓に反射して映る彼女の眉は下がり、口角が僅かに上がる。
「何をだよ?」
そんな彼女の表情に思わず、口を閉じて、息を飲んだ。
「私達は訳が分からない存在なんだって。ね?」
初邂逅の日、確かに宙に浮いていた彼女はそう言っていた。
シルティアと自身を指すその言い方にはヒンヤリと心を凍らせてしまいそうな物言いが含まれており、何気に忘れられない表情を浮かべていたのもその言葉の時である。
そして今、僕は窓ガラス越しにその表情を見つめていた。
「じゃあ、よろしくね?浩司きゅん」
物語の根幹となる大事なメインパートは奇数章。
日常を描いている話は偶数章。
日常編無いと、それが壊れる時のインパクト減りますからね、書いておかないと困るのは主に私です。
人生で初めて校内と校外の敷地を簡単な図面で描いたのですが、私はどうやら下手糞過ぎてワケワカメになりました。
出来る人に尊敬の念を〜!




