第21話 テオドール拉致事件③
ユーリがテオドールと雑談をしながら隣り合ってソファーに腰を下ろしたので、シャルロットはテオドールの向かい側のソファーに座ることにした。
サイコメトリーを始める前に、視えた情報をメモするための紙と万年筆をテーブルに置く。
顔を上げると、ユーリと目が合った。
アイコンタクトを送ってから、テオドールの方を向く。
「テオドール様にお聞きしたいことがございます」
「なんだい? 愛しいシャルロットのお願いなら、なんでも答えるよ」
テオドールはにこにことテーブルの上で両手を組んだ。
甘い言葉を吐くテオドールの横顔を、ユーリがぎょっとした目で見つめている。
シャルロットは手袋を外してから、テーブルの上に両手を乗せた。
(ああ、テオドール様にこんな形で触れることになるなんて想像もしてなかったわ)
「昨夜、平民街を巡回した帰りに拉致された後、何があったのですか?」
「拉致なんて……ええと……あれ……?」
シャルロットの右手が、混乱するテオドールに触れる。
いつものようにシャルロットの頭の中に映像が流れ込むーー
しかし、視界は真っ暗。
(これは目隠しをされているのね)
記憶の中のテオドールの焦った声が聞こえる。
『なんだこの響く声は……! 脳内に入り込んで来る!』
『チッ、やっぱ性格的にかかりにくいな。セシュネの量増やすか。
さあ、テオドール・グレイヴン。貴方の瞼がだんだん重くなって眠気が訪れます……』
「ーーシャルロット!?」
ユーリの鋭い声でシャルロットはハッと瞼を開く。
「邪魔をしてごめん、急に体が脱力したから」
「いえ、助かりました。記憶に引きずられて私まで眠ってしまうところだったので……」
「えっ!?」
聞こえた内容をユーリに伝えると、彼は隣に座るテオドールに視線を移す。
テオドールはいつの間にか、目を閉じて眠っていた。
「寝てる……。昨夜の事を聞かれたら、なんだか混乱し始めたよね」
「拉致した犯人に催眠術をかけられたようなので、記憶に齟齬が出て耐えきれずダウンしたとか……?」
「催眠術だと下手に刺激しない方が良さそうだな。かけた犯人に解かせないと危険かも」
犯人を特定しなければーー
ユーリはシャルロットの顔を見た。
「男の声に聞き覚えはある?」
「いえ、ありません。若い男性の声でしたが、テオドール様が言うように妙に響く低めの不思議な声で、過去に聞いていたら絶対に覚えてます」
「じゃあ少なくとも貴族ではなさそうかな。……脳内に入り込んで来る響く低音、か」
「?」
シャルロットの不思議そうな表情に気付いたユーリが、説明を始める。
「僕は外交官という職業上、説得力や安心感のある話術を知りたくて、よく調べてるんだけどさ。
深く響く低い声って、言うことを聞きたくなったり、暗示にかかりやすいんだって」
「確かに意思関係なく言うことを聞いてしまう感じが怖かったです……」
まるで、脳内に染み込んで書き換えられるような。
シャルロットは思い出してぶるりと震えた。
「しかもセシュネと併用すれば、催眠がかかりにくい人でも、性格を変える強い催眠術をかけられるなんて危険すぎる。
絶対に捕まえないと」
険しい顔でユーリが呟き、シャルロットが頷く。
「犯人は一体、何の目的でこんなことを……」
「犯罪を取り締まるテオが邪魔なんだろう」
つまり、王都にいる犯罪者。
(以前、テオドール様の朝食に毒が入れられた事件の時に、犯罪を取り締まる仕事のせいで方々から逆恨みされてると言っていたものね……)
シャルロットは深くため息を吐きながら、思案する。
「貴族ではない若い男で、響く低い声……あっ」
「何か心当たりが?」
「いえ……令嬢やマダムに人気の占い師オニキスが良い声だと、トレーズ夫人のサロンで聞いたなぁと」
「占い師の男か……」
「他に手がかりもないので、会って『視たい』です」
サイコメトリーを使うことに意欲的なシャルロットの様子に、ユーリも考え込む。
(フィリス国家保安警察は、カティアから聞いたセシュネの販売先から犯人を探している最中だろうけど、テオドールの状態を考えると一刻も早く催眠を解きたい)
「そうだね、その占い師のところへ行ってみよう」




