第20話 テオドール拉致事件②
テオドールはそんなシャルロットを、眉を下げて悲しそうに見つめる。
「僕はキミの夫だよ。なぜ嫌がるんだい?」
「近寄らないで!」
(見た目はテオドール様そっくり……偽物なのか本人なのかわからない! 触れて視れば何か分かるだろうけど、準備が整ってからじゃないと無駄打ちになりかねないわ)
サイコメトリーで視る時は得た情報をすぐに紙に描き留めるため、あらかじめ紙とペンを用意しておくのだ。
それに一日に四回サイコメトリー能力を使うと激しい頭痛がしてしまうので、テオドールに一日一回までと決められている。
(テオドール様だけ執務室に連れて行きたいけれど、私一人ではーー)
若いメイドなど使用人達は様子がおかしいテオドールに恐れ戦いて、遠巻きにしている。
緊迫した空気の中、玄関扉が開き門番が顔を出した。
「テオドール様、来客でございます!」
「テオ!」
現れたのはユーリだった。
「ユーリ様!?」
目を見開くシャルロットに笑顔を向けるユーリ。
「グレイヴン家のフットマンが知らせに来てくれたんだ。昨夜拉致されたけど無事帰って来たって」
「やあユーリ! 我が親友よ!」
「……テオはそんなこと言わないよ。お前、誰?」
ユーリも拒絶したことに、シャルロットは少しホッとした。
「シャルロット様」
「カティア様もいらしてくださったのですね……!」
ユーリの背後から、彼の妻カティアが現れた。
彼女の冷静な面持ちを見て、シャルロットは落ち着きを取り戻す。
「私、子供の頃に拉致されかけた経験があるので、何か役に立てないかとユーリ様についてきたのですが、」
(カティア様、一国の王女だけあってヘヴィーな体験をしてる……!)
シャルロットは驚きながら、話の続きを待つ。
「その時に嗅がされた薬品と同じにおいが、テオドール様からします」
「え!?」
「カティア、その薬はどんな効果があるの?」
ユーリがカティアに尋ねる。
「頭がぼんやりする作用があると医師から聞きました」
「拉致する時に騒がれないためか」
「テオドール様も拉致の時にその薬を使われたとしたら、あのテオドール様は本物なのでしょうか……」
シャルロットがテオドールの方を見やると、彼は捨てられた子犬のような、悲しげな表情で佇んでいる。
ユーリはテオドールの様子を見つつ、またカティアに尋ねた。
「その薬品には人格を変えるような効果はあるのかい?」
「いいえ。セシュネという植物が原材料で、病院で患者を落ち着かせるために使用される合法の薬だそうです」
「なるほどね」
相槌を打ったユーリが、にっこりと笑顔を作ってテオドールの方を向く。
「テオ、疑って悪かったよ。とりあえず執務室に行こう」
すると、テオドールはすぐに朗らかな笑みを浮かべた。
「分かってくれてうれしいよ! 久しぶりにゆっくり語り合おうじゃないか」
「ああ」
ユーリはテオドールを執務室の方向へ促しながら、カティアに耳打ちをした。
「フィリス国家保安警察本部にいるテオの部下に、薬品について伝えてくれ」
「わかりました」
カティアはシャルロットに軽く頭を下げてから、玄関へ歩き出した。
カティアを見送ったシャルロットがユーリの後ろについて執務室に入る。
(ユーリ様の機転で、テオドール様を視る環境が整ったわ!)




